0015:断じてあたしの趣味ではないと主張するものである
その針金のような身体のどこに、そんな力が眠っていたのか。
引き籠ってまるで運動せず、出かけるとすれば近所のコンビニか同人イベントの時のみ。
ちょっと歩けば脚が痛くなり、息までも上がってくる。
そのような身体能力に優れているとは言えないひょろ長男が、どうして50口径弾5発分の威力を股間に喰らって耐え凌ぐ事が出来たかというと。
「ぉ……おぉ……げ、ゲイリー………の、ノゾミガタタレター………」
というか、耐え凌げてなかった。
自らの命より大事とのたまうフィギュアを『キモい人形』と評され、怒りによって一時的な復活を果たしていたが、今は両脇をフィギュアに支えられてどうにか立っている状況。
剥き出しの股間までフィギュアに抑えられているあたりが、またしてもウブな少女、旋崎雨音の恐慌を誘いそうになっていた。
「今度こそ纏めて刀のサビにしてくれるデース!!」
侍というよりはテンパったヤクザの鉄砲玉のように、血走った眼で刀を握り締めている秋山勝左衛門ことカティーナ=プレメシスは、どうも雨音をひょろ長男の侍らせるフィギュアの一体と誤認している模様。
自分がどんな気持ちで助けに来たと思ってやがる、と雨音は叫びたかったが、完全に変身してしまった自分の姿を顧みるに、カティの思い違いを責められないのが泣きどころだった。
そして、両者に挟まれ途方にくれる雨音。どうにかこの場から逃げ出したい。
カティに事情を説明したいが、下半身丸出しの変態男が聞いている前で迂闊な事は言えない。
先ほどは驚いた勢いでヘビーマグナムをリトルマグナムへとブっ放してしまったが、ヒトに向けて銃を撃つのは二度と御免だった。
御免だったのだが。
「ハオッッ!!? お……おぅううぅ……!?」
「なッ!? ………なに?」
「むっ! ついに奥の手でも出すデスか!?」
突如、真っ白な顔のひょろ長男が目を剥いたかと思うと、その場に崩れ落ちるかという勢いで、前のめりになっていた。
やはり股間のダメージは深刻なのか。
そう思うと、雨音にも僅かな罪悪感が。
いやいやカティを手篭にしようとした野郎には死――――――去勢――――――あるのみ、と思い直した。
「あ、あたしの銃は暴徒鎮圧のビーンバック弾みたいなものだから死にはしないけど、これ以上喰らいたくないならさっさと逃げなさいよね」
「んナッ!? なに言ってますデスか!? 今更逃がすとでも思うてカ!!? カティの正体知られたからには全員斬って捨てるデス!」
「ってぇ自分で言っちゃってるし! あんた後で相手したげるからちょっと黙ってなさい……。今はこっちの変態オタの方どうにかするのが先よ」
正直、どう見ても瀕死なオタ変態よりも、今にも斬りかかって来そうなカティの方が恐い。
雨音は猪武者の方を警戒しつつ、努めて冷静に、ひょろ長男に語りかける。
「あ、あんただって『ニルヴァーナ・イントレランス』とか言うのに能力貰った口なんでしょう? 一体どうしてこんな変な能力にしたのか知らないけど、世間に知られると人生が大変な事になっちゃうんじゃない? ここは警察の応援とかが来る前に、お互い逃げた方がいいと思うんだけど…………」
しかし、ひょろ長男の方は聞いちゃいなかった。
何故ならば、その視線も思考もただ一点――――――正確には二点――――――に集中していたのだから。
スカートの後ろ半分が千切れ飛んで丸見えになった、ギリギリの部分しか隠していないローライズショーツを身に着けている雨音のお尻に。
片や褌のIバック状態で、片やローラーズが尻を持ち上げるアンダーラインのように。
どちらにしても丸出しに近く、食い込んで肉感を強調されたそれらを一度に視界に収めたひょろ長男の、射出口を失っている男の内圧は限界だった。
「お、おのれ三次オンナがぁぁあぁ……またしてもボクを誘惑するよ助けてマオ姉…………!」
「うるせぇくたばれッッ!!!」
もうヒトは撃ちません。
3分前に心に誓ったのに、雨音はまたしても引き金を引いていた。
しかも排莢、再装填、照準、発砲に一秒もかけてない、怒りの超クイックリロードだった。




