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いまさら魔法少女と言われても  作者: 赤川
Wave-06 変わり過ぎて正直付いていけない
233/592

0002:プライスレス浅草メモリアル

 いまさらの紹介になるが、旋崎雨音(せんざきあまね)は今年の4月に高校に上がったばかりの女子高生である。

 身長は160センチ程度。体型は成長中。3サイズは秘密だが、最近特に発達中。

 髪は胸にかかる長さで、黒髪のストレート。モッサリしないよう軽くする程度で、何か(こだわ)りがあるワケでもないが、特に脱色などする気も、それに金髪とかにする気も無い。

 実は整った容姿をしており、美少女に分類しても良い程。

 しかし、本人が自分の容姿に重きを置かない上に、残念な事に愛想も愛嬌も無い冷淡少女なので、人気は一部のコアなファンに留まっている。

 基本的に夢は夢と割り切る現実主義者。手堅い、というかギャンブルが出来ない小心者で、臆病な本心を隠して平静を装いながら、心臓をバクバク言わせているタイプである。


 で、何故そんな旋崎雨音は、頭に『魔法』なるモノが付く、非現実の塊な魔法少女となってなってしまったのか。


 事の起こりは4月中旬。雨音が高校生活に一通り慣れた頃合いだ。

 未だに神か悪魔かも判然としない謎の存在、『ニルヴァーナ・イントレランス』からの接触を受けた雨音は、その場で押し売り的に特殊能力『コンポーネント』の魔法少女プリセット、『魔法少女変身形成(トランスライザー)』を自分の存在情報に上書き(オーバーライド)され、銃砲兵器系魔法少女の『黒アリス』となってしまう。

 よりにもよってこの法治社会の中にあって、フル装備で違法(イリーガル)な魔法少女となってしまった雨音だが、そんなモノはこの後続く、大惨事スーパー魔法少女大戦の導入部分(プロローグ)に過ぎなかった。

 ちなみに、『黒アリス』という名は雨音自身が考えたモノではない。


                       ◇


 この時期、特殊能力者――――――魔法少女はその一形態――――――となったのは、旋崎雨音だけではなかった。

 雨音が魔法少女なんてモノに身を堕とした直後から、世間で頻発する常識では測れない現象の数々。

 一体どれほどの能力者が量産されたのか。

 一例を上げると、東京山手線を蒸気機関車が爆走し、東京湾には海賊船が出没し、大和型戦艦が太平洋を往き、国会でプロレスラーがプランチャーを極め、原宿界隈をビキニカウガールが白馬で暴走し、鎧武者が防波堤の無法釣り人を海に叩き込み、巫女装束の侍が事件現場をひっかきまわし、ニトロっぽい加速のマッスルカーが首都高で高速機動隊に喧嘩を売り、千葉のアミューズメント施設は101匹どころではない数の犬に占領される、等々。

 思えば、この時点から既に世界はおかしな事になり始めていた。

 目立った所以外でも、犯人が捕まらない窃盗、強盗、暴行、公共物破損なども無数に発生し、これまた謎の手口だったり、破壊痕だったり、監視カメラに映っていた人物がまるで特定出来なかったりで、警察に打つ手無し。

 だが、警察に瑕疵(かし)は無い。

 通常の物理法則を無視し、あり得ない現象を発生させる能力者達のやる事に、既存の捜査手法や科学捜査が通用する筈も無いのだから。

 よしんば犯人を逮捕出来ても、特殊能力を使うという一点の為に、法に照らして罪を立証するのは困難となるだろう。


 そんな所に追い打ちをかけて来たのが、吸血鬼の大量発生である。


 この現象もある能力者によるモノだったが、警察じゃ手に負えない犯罪者が増える事実に変わりは無い。

 おまけに、事態収拾に乗り出した陸上自衛隊の一個連隊が丸ごと吸血鬼化してしまい、吸血自衛隊のクーデターまで起こる始末。

 個性豊か過ぎる能力者は暴走を続け、吸血鬼は夜闇の中で数を増やし、国会議事堂は吸血自衛隊に制圧され、もはや警察にどうにか出来る事態ではなくなっていた。

 ところが、吸血自衛隊のクーデター部隊は、占拠した国会議事堂ごと、突如として謎の崩壊をしてしまう。

 このクーデター崩壊の件で吸血鬼の存在が(おおやけ)になり、全国レベルで吸血鬼対策が行われた為か、吸血鬼の発生と、吸血鬼による事件は短期間で収束へ向かった。


 と思ったら、それからどれほども時間が経たないうちに、今度は全長600メートルを超える巨大生物が首都東京を襲撃。


 今度こそ大混乱に陥る東京と日本全国。

 この事態に、戦後100年で初めて真価を発揮する自衛隊と、人々の前に姿を現す特殊能力者達。

 巨大生物との戦いで実際に何が起こっていたのか、全世界の人間は紛れも無い事実を目にする事なり、遂に能力者の存在は広く知られる事となった。


                       ◇


 そして、これら一連の事件の裏で、どういうワケか黒アリスの旋崎雨音は最前線を突っ走ってきた。

 成り行きもあったが、戦いに出て来たのは、常に自分の意志によるものだ。自業自得と言われる覚悟はある。

 旋崎雨音は魔法少女として暴走する能力者を叩き、吸血鬼を殲滅し、ついでに国会議事堂もフッ飛ばし、巨大生物とバラ撒かれる怪生物を、自衛隊や他の魔法少女と共に排除した。

 で、その結果平和になったとか、雨音の望んだ平穏な生活が訪れたかというと、さに非ず。


 以前から能力者達は犯罪に走ったり、欲望に任せてお構いなしに人前で能力を振るっていたりした。

 だが、巨大生物の件以降、能力者が表に出て来る事例の数は、吸血鬼騒動以前の比では無くなっている。

 宙を舞うスーツ姿のサラリーマン、炎の塊となったボールをサッカーゴールに叩き込む小学生、痴漢の現行犯で捕まる身長15センチ程度の小さなオッサン、鳥人間コンテストで飛んだまま降りてこない大学生、高速道路を突っ走るランナー、引き網漁で引っ掛かる人魚、本物の猫耳を生やしたクラスメイト、その他諸々。

 一見して何の役に立つんだか分からない能力もあるが、そもそも望めばどんな能力でも、思うがままに得られると言うワケではない。

 本人に許される力量(・・)と、本人が希望する能力。それを、『ニルヴァーナ・イントレランス』が擦り合わせて、最終的な能力が決定されるのだ。

 ヒトによっては能力を受け入れる許容量が足りず、妥協せざるを得ない結果、という事もあるだろう。


 これら表に出る能力者の能力は、社会では概ね「個性」の様に認知されている。思ったより、社会の強度というモノは高い。

 また、前述の痴漢や進入禁止になっている高速道路を走った能力者は、警察の手によって逮捕されている。

 能力者の激増に伴い、能力関係なく明確な犯罪は、警察でも取り締まる事例(ケース)が増えていた。

 実際、法整備はともかく警察も、特殊な能力を視野に入れた捜査を行うようになっている。

 このように警察が対策を取り、無軌道な能力者の動きを抑止してくれるのは、雨音としても歓迎する所。そもそも法に触れない無害な能力者に関しては、雨音も何かを言う気も無い。というか銃砲等不法所持魔法少女の雨音に何か言える筈も無い。


 問題は、目に見えない、警察も取り締まりようが無い能力を使う者達だろう。


                       ◇


 9月最初の土曜日。

 雨音と、もうひとりの小型金髪少女の姿は、浅草雷門の近くで見る事が出来た。

 夏休みの8月中は――――――雨音が地獄の訓練とかで――――――会えなかったので、巨大生物の撃破以来初めて、機知の魔法少女達が集まる事となったのだ。

 それで、住む場所も学校もバラバラの魔法少女達がどこに集まろうかという話になったのだが、それなら、全員にとって思い出深い場所にしよう、と。

 と言うと羽田空港か、という話にもなったが、最激戦区となった羽田空港こと東京国際空港は、現在も再建の目途すら立っておらず、未だに封鎖されたまま。

 ならば、魔法少女達が最初に召集された浅草にしよう、という事になったのだ。

 新たな問題発生な雨音としても、タイムリーに好都合だった。



 浅草雷門(かみなりもん)通りは、夏休みも終わったというのに、多くの観光客が行き交っている。

 ふた月ほど前、巨大生物襲来の影響で一切のヒト気が消え、雷門前には垂直離着陸戦闘機(V/STOL)が着地していたなどと、一体誰が想像できよう。


「ワーオ……お祭りみたいデスねー」

「日本の観光地ったら大体こんな感じだけどね。あ…………」

「どしました、アマネ?」


 雨音が雷門前交差点の一角を見ると、そこには既に存在しない尖塔のポップ――――――立て看板――――――が置かれていた。

 書いてある文言によると、どうやらかつてはその場所から見えていた東京スカイツリーの姿を再現したものらしい。

 再建予定は、3年後。

 元の工期日程と同じにも見えるが、何せスカイツリーはその根元が35基の非核弾道ミサイル(トライデントSLBM)のブースター噴射で吹っ飛ばされているのである。

 その地盤調査や整地を含めた最終工期なのだから、むしろ先の建築の経験を遺憾なく発揮した、最短工期であるとテレビでは放送されていた。

 なんにしても、雨音としては申し訳ない気持ちである。



 雨音と小柄な金髪少女は、雷門通りから一転してヒト気の少ない、小さな通りへ入って行った。

 9月に入り、日も(かし)げて秋が気配を(のぞ)かせ始める。

 真っ白な夏の日差しも鳴りを潜め、ヒグラシの鳴き声がもの寂しさ(・・・・・)を感じさせていた。


「にしても……良く知ってるなー、あのヒト達。女子高生のチョイスじゃないでしょ。渋すぎる……」


 携帯メールに添付された位置情報から地図アプリを使い、雨音と小柄な金髪少女は古い通りを(くぐ)っていく。

 同時に雨音は、知らされた店名をネットで検索し、簡単な下調べをしていた。

 先方のお嬢さま魔法少女が設定した待ち合わせ場所は、浅草でも老舗の甘味処だ。

 甘味処と言っても、普通の高校生が気軽に入れるような店ではない。

 奥まった場所で、お座敷有り。抹茶(玉露)が一杯1500円。高校生の財布事情()めとんのか、と言いたくなるお店だった。


「金銭感覚分かってないデスねー、多分」

「それに関しちゃアンタもヒトの事言えないと思うわ」


 先方のお嬢様に負けないほど金銭感覚が怪しい金髪娘に突っ込むと、雨音はちょうど、小さな細道の様な甘味処の入口を発見する。


「もう来てるかな?」

「先入って待ってりゃ良いデスよ?」

「…………一見(いちげん)さんお断りとかだったら()じゃないのよ」


 ここでも気の小ささを発揮しつつ、小柄な金髪少女に手を引かれる雨音は、細道を通り別世界の様な敷地の中へ。

 そこに佇む(いおり)へ入ると、和服の店員さんに案内されて、2階の座敷に通される。

 お連れ様、お座敷でお待ちになっております。

 その言葉の通り、


「いらっしゃい、旋崎さん。お久しぶりー」

「おふたりとも、お疲れさまでした」


 日本随一のお嬢様学校、雅沢(みやざわ)女子学園組のふたりと、


「お、お待ちしておりました、提督……」

「お疲れーッス、姐御」


 海上魔法少女組のふたり、計4人の少女達が、隠れ家的なお座敷で、雨音と小柄な金髪少女を迎えていた。


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