0012:お父さんのしか見た事なかったのに
ある日の事、この春高校生になったばかりの旋崎雨音は、『ニルヴァーナ・イントレランス』を名乗る姿すら無い正体不明の何かから、特殊な能力を受け取る事になった。
それがどういった能力なのか、一口に説明するのは難しい。
どのような能力になるかは、個人の選択や資質によって大きく変化する、らしい。
『らしい』というのは、それを実際に経験している雨音自身が、どうにも完全に個人の望みに沿う能力を得られるワケでもない『らしい』という事をリアルタイムで実感しているからだ。
つまり、魔法少女ってなんやねん。という話で。
また、『ニルヴァーナ・イントレランス』は『適性』とやらを持つ不特定多数の人間に、雨音同様に特殊な能力を与えている、と言った。
サンプルケースが雨音本人しか今のところ存在しないので何とも言えないが、その『能力』も個人によって千差万別。
魔法少女という恥ずかしい型枠に嵌められた以外は雨音の希望を叶えている以上、同一どころか同種、同類、類似の能力者が存在する事は無いだろう。
同時に、雨音はこんな事も考える。
能力のレイアウトは、個人の嗜好や秘められた願望に因る部分が大きい。
だが、誰が能力者か分かれば、その個人の趣味嗜好からどのような能力になるのか、類推することは可能ではないのか。
他の能力者が誰かなど、普通なら知りようも無いだろうが、雨音はただひとり、その可能性が高い人物に心当たりがある。
「…………ああ、ソレっぽいなぁ」
にしても、そこまで趣味に走らなくても良いのでは、と。
不気味な生き人形の集団相手に、日本刀(?)を手にして大立ち回りを演じる改造巫女服の和風美女を、高空からの映像で見て雨音は思う。
だが、直後に変わり果てた我が身を省みて、その肩を落としていた。
◇
警察署の司令本部が、警察車両無線で警官を呼んでいる。
若い警官は、白目を剥いて自分に圧し掛かる上司を脇に押しやり、電柱にノーズを減り込ませた警察車両へ這って行こうと、した。
「ヒロシー!!!!」
「ッッ……!!?」
直後に、死んだフリに戻った。
「ハァッッ!!? ぜ、全国の単身赴任のお父さんが…………あ、いや、違った」
甲高い奇声を上げて飛び起きたのは、全身を毛羽立たせたトレーナーにフードを着た、ひょろ長い体形の男だ。
ひょろ長男はキョロキョロと忙しない挙動で周囲を見回すと、その視界に入った等身大フィギュアが次々と起き上がりだす。
その最後に、吹き飛んだひょろ長男を身を呈して守ったフィギュアが起き上がった。
「……………ぅう、マオ姉。魔王なのにマジ女神……。ごめんよ三次のビッチなんかに血迷って。後で映画版コス、ワフオクで落としてあげるから」
フードの奥で、キラリと光るモノが。
マオ姉の衣服は、ヨレヨレのボロボロになっていた。
放送2期より人気の高い、第1期後半クールの高レアリティ―衣装。某ネットオークションで出品された、神被服職人の逸品。
それはそれで惜しかったが、ひょろ長男は最愛のフィギュアの献身にこそ胸を熱くしていた。
しかし、
「ん~……ッデムッ……」
「フォウッッ!!?」
すぐ近くから聞こえてきた声に振り向くと、そこに倒れていたのは改造巫女装束の自称巫女侍、『秋山勝左衛門』を名乗る女。
吹き飛ばされた為か、緋袴は完全に何処かへ飛んで行っており、褌一丁の大股開き状態と、若い乙女として大変はしたない有様に。
たった今謝罪していたひょろ長男は、既に褌のお尻から目が離せなかった。
「さ……三次なんか……三次なんか……おのれぇ三次ビッチなんかに誘惑されてはならぬぞ兄者! 拙者にはマオ姉という嫁、あと愛人が……ああでもマオ姉の見下す冷たい目も堪らんくてあ、あ、何か目覚めそう」
無論、冷たい視線というも、所詮男の気分の問題である。
だがその背信、背徳感に先ほどまでの劣情を取り戻したひょろ長男は、僅かに考えた後、
「ゴメンマオ姉ゴメンみんな! き、今日拙者は大人になります! DT卒業します!! レ〇プ成立!!」
いそいそとベルトを外し、自らのブリーフ姿を曝け出していた。
ブリーフの中央本線は、既に大変な盛り上がりよう。
これまで幾百、幾千回と曲射訓練を積んで来た三センチ砲が、いよいよ実戦の効力射に備えて、今まさにその仰角を最大にまで上げようとする。
その三センチ砲へ対して、
「ふざけんなこのド変態!!」
軽装甲機動車で現場へ滑り込んで来た雨音は、
「は――――――――アブラッッ!!!?」
至近距離から、.50S&Wマグナム弾をブチ込んでいた。




