0011:しかし変身しなくたって普段から履いてマース
10体や20体なら同時に相手にしても問題なかったが、150体以上の動く等身大フィギュアを相手に立ち回るのは、流石に無理があった。
しかもこのフィギュアども、一体一体が、力や速度、耐久力といった能力が普通の人間を超えている。
身体能力では巫女侍、秋山勝左衛門が上回っていても、数で押し込まれては万事休す。
それでもかなり健闘はしたのだが、
「ウー!? 放すデース!!」
巫女侍は全身を等身大フィギュアに取り付かれ、全く身動き出来ない状態にあった。
「フヌゥ――――――――!!」
一見華奢な巫女服(改)美女が、スラリとした四肢に力を込める。
巫女侍を下敷きにし、小山のように積っていた等身大フィギュアの山が、一番下から微かに盛り上がりはじめた。
だが、関節を取られては、巫女侍としても身体に思うように力が入れられない。
それを狙ってフィギュア達が動いていたかは不明だが。
「あ……あかんデース」
「勝左衛門様……!」
もうひとりの着物姿のセクシー美女も、屋根の上から見守るばかり。
こちらは戦闘力が無いのか、何も出来ずにいた。
悔しげに呻き、地べたにへばり付く巫女侍の秋山勝左衛門。
その、斜めに傾いだ巫女侍の視界に、黒いスニーカーの足が入り込んで来る。
「ぷ、ぷげらげら……な、何お前? コスプレ? ウケー」
「ッ……? 貴様こそ何者ネー!?」
顔を上げて相手の面を睨もうにも、うつ伏せに押し潰されている体勢では、巫女侍にひょろ長男の顔は見られない。
やや甲高い声の男の、嘲りの科白を聞く事しか出来なかった。
「クゥッ! ……悪の黒幕を前にして手も足も出ないとは、無念でゴザるデス!」
「な、何が悪だよ正義の味方気取りかよ!? 何手前勝手な事言ってんだバカだろバーカ!!?」
「悪代官にバカ呼ばわりとは想像を絶して理不尽でムカつきマース! テメ絶対成敗してくれるDEATH! クビ洗って打ち首にされるが良いデスよ!!」
「ボクの彼女たちにやられておいて何言ってんだ超ワロス! 勘違いオンナ終了のお知らせプギャー!!」
「――――――ァッキン!!!!」
「ヒッッ!!?」
無人の倉庫街にギャーギャーと響き渡る、片言の日本語とネットスラングの罵り合い。
その最中、怒りに煮え滾る巫女侍は、根性でフィギュアの山の中から片腕だけを突き出すのに成功した。
しかし、間一髪逃げられ憎き悪代官(仮)の足を捕らえるには至らず、腹立ち紛れに中指を立てるイケないハンドサイン。
「お……おのれ三次女がぁあぁぁあ……! ボクに負けたクセにぃいぃいぃ………!! ボクの彼女たちを壊したクセにぃぃいぃいいい………!!!」
完全に勝利したと思った相手に刃向われ、あまつさえ驚かされたのが、酷くひょろ長男の自尊心に触った。
一瞬、フィギュアの山から出ている頭を蹴飛ばしてやろうかと思うが、そんな事をする度胸はこの男には無い。
思い通りに動くフィギュア無しでは、このような大胆な犯罪を犯せない、その程度の輩だった。
今だって、この50体もの等身大フィギュアを、凄まじい力で破壊して見せた相手が恐ろしくてしょうがない。
今にも縛めを破って襲ってくるのではないか、そんな事を思っていた所に、腕だけ抜け出して見せた、あの馬鹿力。
ひょろ長男は、最もお気に入りのフィギュアの後ろに逃げ込んでいた。
「グギギ………おのれおのれおのれぇ………!!」
小心者だった。気弱い臆病者だった。しかし今は勝者で、そして男だった。
生身の異性と触れ合う機会も勇気も無く、理想の女性像をフィクションに求めた結果として美少女フィギュアにハマったが、例えば目の前に、身動きが取れない自分の好き放題に出来る女体が転がっていたとしたら、果たしてどうするだろうか。
こうして安全な場所から自ら出てきたのも、慢心とスケベ心が成せる業だった。
「ぬ……ぬふぅ! し、仕返ししてやるぞ! これはふ、復讐……い、いや制裁だ! ち、『ち〇ぽには勝てなかったよ』ってアヘ顔ダブルピースにしてやるれ………!」
「ハ……? な、何する気デス!!?」
相変わらずアスファルトに押し花状態の巫女侍は、自分をガチガチに拘束している等身大フィギュア達が、微妙な動きをし始めているのに気付いた。
黒いスニーカーの足が、回り込んで巫女侍の後方に移る。
その時になって、彼女も何が起ころうとしているのかを悟ってしまう。
「ま、まさか……!? こ、こ、この狼藉者! 変な事したら打ち首の前に打ち〇してやるデス!」
「うー……うるさいでゴザルこのビッチ! どうせ三次元のオンナなんて無理矢理やられても『くやしいでも幹事長!』とか言っちゃうんだろうが!」
「び、『ビッチ』!!? き、斬ルッッ!!」
フィギュア達が器用に巫女侍の脚から退き、その脚を掴んで大きく開かせた。
改造巫女装束の緋袴が腰まで引き上げられ、身に着けている下着が全開にされてしまう。
というより、普通の下着ではなく、芸の細かい事に白い褌を着けていた。
滑らで艶のある肌に、キツく食い込む純白の布地。女性ならではの曲線の艶めかしさは、シリコンで成形された作り物の比ではない。
その、生まれて初めて見るエロティック過ぎる光景に、ひょろ長い男は暫し絶句せざるを得なかった。
「こ……これが三次元!?」
「ウギャー! 見るな見るな見るなデース! もう首を刎ねる前に先ず目をブッ潰しマース!!」
勝左衛門はもう必死で、力の限り脚をバタつかせようとする。
だが、腰が入らず踏ん張りも効かない体勢では、自分を押さえ付けるフィギュア達を振り払う事は出来なかった。
「………ぉおう!?」
言葉を無くし、かつてない心拍で血圧が上がり、頭に血が上ったひょろ長男の手が巫女侍の軟肌に迫る。
その指先が、奇跡のカーブを描いて張り出した尻峰に触れようか触れまいかという所まで達した。
一瞬躊躇うも、ひょろ長男は生唾を飲んで、意を決して震える手を進めようとし、
ドンッッ! と。
間近で発生した謎の衝撃波により、ひょろ長男も巫女侍も、その上の等身大フィギュアも、ついでに警官2名――――――1名失神――――――と警察車両も、全て纏めてフッ飛ばされていた。




