0010:現在では市民権を得ています
型も何もなく、露出を増やした巫女装束のような出で立ちの女が、三尺三寸――――――約1メートル――――――の大刀を振り回す。
その度に、まだ年若い少女の首が宙を舞い、手足が断ち切られ、上下半身が泣き分かれて飛ばされていた。
これが人間ならば大殺戮で大問題な所だが、この場合に限っては、そのような問題は無い。
無機物である可動フィギュアが、人間の如く動き回っているのが、大問題ではあったが。
「斬り捨てゴメーン!!」
「ヒギャァぁあぁあぁアア!!?」
また一体の美少女フィギュアが、縦に真っ二つにされていた。
その凶器の切っ先が、アスファルトに座り込む若い警官の、股間ギリギリ手前に突き刺さる。
「ウップス!? ソーリー!!」
勇ましい巫女装束(?)の女が、子供っぽく舌を出して謝罪した。
布一枚の差で、若い警官の若い情熱は辛うじて散らされずに済んでいる。
その警官を飛び越え、獣のような素早さで素っ裸のアクションフィギュアが襲いかかって来た。
それに対し、巫女侍、秋山勝左衛門を名乗る女は大刀を横殴りにフルスイング。
剣の峰がフィギュアの頭を拉げさせ、その身体ごと別の倉庫の屋根の上までフッ飛ばした。
「ワォ! ターマーヤー!!」
等身大と言うだけあって、フィギュアの重量は40キロを超えている。
にもかかわらず、女の細腕で、とんでもない馬鹿力だった。
「フッ………埒があかネェ! まとめてかかって来ていいデスよ!!」
圧倒的な力の差を見せつけた美貌の侍は、不敵な笑みで残ったフィギュア達に言い放つ。
誰だか知らないが、助かるかもしれない。
腰を抜かし、ついでに漏らして――――――小――――――いた若い警官は、ここに来て生きる希望を見出していた。
が、しかし。
◇
倉庫内。
「ファビョオォォオオォ!! んなんなんなんなん何だよあのファッキン三次ビーッチ! ボクのヲヲちゃんいずみちゃんカタリナちゃんションちゃんナミナミ先輩がぁぁあぁあああぁあああ!!!」
フードで顔を隠したひょろ長い背の男は、狂乱の淵にあった。
自分の大切な動く等身大フィギュアが、唐突に現れた辻斬り女にメチャクチャに壊される。
かつて父親に、受注生産の限定美少女フィギュアを壊して捨てられたトラウマが、ひょろ長い男の脳裏に蘇っていた。
その時に感じた憤怒もだ。
「ウギィィイイィィ!! みんな動け動け動け! ボクの思い通りに動くんだろう!? 何でも言う事を聞くんだろう!? あの女をフルぼっこに…………いや、あの女を捕まえろ!!」
それまでの人間相手への振る舞いから、今度はフィギュアへ道具としての命令を出す。
所詮は自分に都合の良い道具だと扱う、人間の本性。
そして、この機に乗じて人形ではない生身の女を好きにしたいという雄の本性を、ひょろ長い男はフィギュア達が見ている前で滲ませていた。
◇
もはや勝った、または生き延びた、と思っていた勝左衛門と若い警官は、次の光景に度肝を抜かれる事となった。
「――――――ワッツァ!!?」
「ギヒィイィィイ!? 何匹いるんだ!!?」
見えない倉庫の闇の中から、バラバラと新たなる等身大フィギュア達がダッシュで駆けてくる。
それも、一体や二体といった数ではない。
おまけに、肌色の皮膚素材を剥き出しにした、裸の固体ばかり目立つ。
つまり、この倉庫には近日中に各小売店や個人へ配送される、メーカー工場から運び込まれた等身大フィギュアの素体が山と積まれていたのだ。
ひょろ長男が連れていたのと、既に開封したのを合わせても、せいぜいが15体程度。
しかし倉庫内には、実に200体以上の等身大フィギュアが眠っていた。
そして、それらが全て動きだしていたのだから一大事。
「な、何のこれしき! 纏めて叩っ斬ってくれるデス!!」
「が、がんばれー!」
と、命がけな応援もあって気勢を上げる美少女侍だが、相手の数と勢いを前に腰は引け気味。
凛々しい顔も、やや引き攣っていた。




