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いまさら魔法少女と言われても  作者: 赤川
Wave-05 話とか色々大きくなり過ぎたのは誰のせいか
198/592

0063:フォート官邸ファイトハウス

 総理官邸制圧作戦。

 その第4段階。大詰めである。

 第1段階で誘導兵器(スマートウェポン)、並びに無人航空攻撃機(UCAV)により部隊の着陸地点を確保。

 第2段階で官邸、及び敷地内への部隊の展開。

 第3段階で最重要目標(フラッグ)である総理大臣を確保。

 第4段階では、官邸内と敷地内における怪生物の徹底排除を行う。並行して、官邸内に残されたスタッフやマスコミ関係者も発見し次第保護する手筈だ。


 総理大臣官邸。内閣総理大臣の政治的拠点。形式上の最高権力者の拠点。

 地上5階地下1階。地上からの高さは、約35メートル。

 その屋上から、地上を睥睨(へいげい)する銃砲兵器系魔法少女は、あたかも戦場を支配する魔王の風格であった。

 中身は臆病で小心者で慎重な女子高生だが。

 そして、足元に見える地上。

 46,000平方メートルという広大な敷地内には、第1段階で多少吹っ飛ばされたとはいえ、怪生物がゾンビの如く4腕を持ち上げ官邸へ押し寄せている。


「さて……始めるのは良いとして…………ホント凄い事になってるわねこれ」


 屋上から照明弾が撃ち上げられ、(まばゆ)いオレンジ色の光により、魔界の様相を呈する官邸周囲が夜闇の中に浮き彫りにされた。

 無数の怪生物の鳴らす奇怪なざわめきが、幕か何かを隔てた人混みの雑音にも聞こえる。

 しかし、その中には火薬の破裂する音や爆発音が混じり、各地点での戦いの様子を知らせていた。

 作戦に参加しているのは約200名。通常、陸自の普通科中隊は150人前後で編成されるが、方々で隊員を吸収した混成第6中隊は400人を超えている。

 うち200名が投入され、5~6人のチームで即席の分隊――――――小隊を省いて――――――を作り、戦車や装甲車、戦闘ヘリの部隊人員を除いて30の分隊が歩兵戦力として怪生物と交戦中だった。

 当然、その中には規格外の戦闘能力を持った魔法少女も含まれる。

 現在、最も広く大量の怪生物が巣食う中庭には対戦車ヘリ部隊の最新型攻撃ヘリが、正門からは10式(Type-10)戦車が、大型兵器ならでは(・・・・)の大口径兵器で怪生物を薙ぎ払っていた。

 ちなみに、黒アリスが作戦会議の際に、どんな兵器が必要かを釘山三佐と話し合っていた際、


「それならD型! 是非AH-64(アパッチ)のD型を! 予算止まって調達止まってるAH-64D(アパッチ・ロングボウ)をお願いします!!」

「き、機種転換とか大丈夫ですか?」

「そ、それじゃこっちは96式装甲車じゃなくて東アメリカのストライカーを!」

「操縦できます!?」

「ハイハイハイ! それなら屋上へのヘリボーンは、ファストロープじゃなくて小型機のタッチダウンがいい! あれ一遍やってみたかった!!」

「パイロット足りる!?」

「屋内戦闘での武装は4.6ミリ短機関銃(MP7)をお願いします! あれ何で一般には配備されないんでしょうか! 是非!!」

「こ、国内メーカーが怒るから、とか……?」

「サイドアームに黒衣さんと同じマグナム用意してもらって良いですか!?」

「さ、三佐? 三佐!? これどうすんの!!?」


 と、ヘリに限らず武器調達関連で、ここぞとばかりに銃砲兵器の魔法少女(ディーラー)に注文が殺到していた。

 少し日本の国防が不安になった雨音であるが、それはさて置き。


 問答無用の大火力を思う存分振り回す自衛隊って専守防衛の組織としてどうなんだ、と言いたくならないでもない激しい攻撃に、逃げ場も無く怪生物が吹き飛ばされていく。


『裏庭! セクションH(ホテル)L(リマ)、乙種多数、30ミリ機関砲(チェーンガン)攻撃開始!!』

『第11分隊より釘山三佐、4階大会議室で23名救助。――――――死ねクソボケぇ!!――――――第9分隊に守備を――――――船長(キャプテーン)!――――――引き続き捜索を続けます』

『こちら第5分隊、一階東側出入り口封鎖完了。エレベーターホールまで後退します』

『東側正門戦車部隊より本部! 乙種多く現状の戦力では対応困難! 応援要請!!」

『隊長釘山より正門部隊。ヘリに掃射させる。歩兵戦力は一時退避』

『一階医務室に籠城していたヒト達を発見しました! このまま作戦終了まで待機します!』


 中庭や正門側で戦車や攻撃ヘリが怪生物を駆逐する一方で、官邸内でも接近戦上等の魔法少女と、近接戦用の装備で固めた精鋭部隊が要救助者を捜索しつつ、怪生物を掃討している。

 そして、


『こちら通用口正面! 乙種がまた増え始めました! 現在迎撃中! 応援を要請します!』

『黒衣、西側はヘリからの援護が難しい! 屋上南西角から狙える。西通用口の守備隊を援護しろ』

「了解!!」

「移動するぞ! 黒衣に乙種を近づけるな!!」


 屋上に陣取る黒アリスは、上から周辺部隊の援護射撃をする銃座役だ。

 用心棒として決して離れない改造巫女装束の巫女侍は勿論、周辺防御として一分隊が付けられていた。

 東側の中庭を見下ろす位置にいた黒アリスは、強風に(ひらめ)くミニスカートを抑えもせず、アサルトライフルを構えて駆け足で移動する自衛隊員に囲まれ、装備をガチャガチャいわせながら小走りで付いて行く。携行兵器の重量は、黒アリス本来の体重を軽く10倍ほど超えていた。

 官邸の外壁からは怪生物が爪を立て、4腕4脚を駆使して屋上に上って来るのだが、黒アリスが引き金を引くまでもなく、一瞬で自衛隊員に排除されてしまっていた。


「やっぱ本職は違うわね…………」


 自分が撃つのとは違う間近の銃声に、今更ながらビックリする黒アリス。とは言え、正直かなり心強い。

 だが、官邸屋上の南西端、攻撃位置に着くと、今度は自衛官達が恐れ(おのの)く事になる。

 見下ろすと、装甲車3台が官邸通用口への狭い道路を塞ぎ、普通科の歩兵戦力が防御線を越えようとする怪生物を、銃撃して押し留めていた。

 火力も弾数もあるが、官邸敷地内と違って西通用口には周囲から怪生物が集まってくる。

 同類を盾にし、踏み越えて来る怪生物によって、守備隊は徐々に押し込まれつつあったが。



 斜め上からの106ミリ無反動砲(M40)携行型の砲撃により、怪生物は群れのど真ん中から吹っ飛ばされていた。



「ジャック、再装填(リロード)!」

「出来たよ!!」


 無反動砲を抱えたままの黒アリスが黒いスーツの巨漢(ビッグガイ)に砲弾を渡すと、無反動砲(M40)の砲尾が開けられ106ミリ砲弾が装填される。


「撃ちます!」

「後方噴射炎に注意!」

「退避ぃいい!!」


 直後に、砲尾ハンドルの発射スイッチを押し発砲。

 秒速500メートルで振り下ろされる砲弾の直撃により、街路樹やら街灯、縁石を巻き込み、怪生物が宙を舞った。

 一発撃つと、黒アリスは軽々と重量約200キロ、全長約3メートルの砲身を振り上げ、開いた砲尾から薬莢を振り落とす。

 そして再び砲口を下に向けると、ピッタリ合ったタイミングでジャックが砲弾を再装填。

 間髪入れずに黒アリスが発射スイッチを押し込み、砲尾から噴き出る噴射炎がヘリポートを照らし出した。


「遠条さん、まだ!?」

「は、発射中止! 黒衣、発射中止!」

「効果測定します!!」


 通常、無反動砲をこのような単発ボルトアクションライフルのような使い方はしない。そもそも出来ない。

 ところがこのミニスカエプロンドレスの少女は、それをとんでもない命中精度でやってのける。

 屋上ヘリポートから遠く離れた路上をスコープで確認し、同時に西口通用門を守る部隊にも確認したが、怪生物はあらかた消し飛んでしまっていた。


「…………どこの陸戦型モビルス○ツだよ」

「ジャック、一応もう一発持っといて」

「わかった」


 呆然と自衛隊員のひとりが(つぶや)くのを他所に、黒アリスはもうクセになっている発射後の再装填。


「敵! 東側!」

「防御円陣! 中央に移動!!」

「乙種脅威生物を排除しろ! 各自発砲は任意!!」


 そこに、新たな怪生物が屋上へと()い上がって来る。

 自衛隊員がアサルトライフルで怪生物を叩き落とし、黒アリスも無反動砲をジャックに渡して攻撃に参加。

 12.7ミリ重機関銃(M2キャリバー)携行型が秒間10発で火を噴き、50口径弾が怪生物と一緒に屋上の一部も(えぐ)り飛ばした。


「黒衣! 雑魚はこっちに任せとけ!」

「てか恐えーよ!? そんなもん真横でフルオートで撃つな!!」

「ご、ごめんなさーい!!」


 所詮素人な上に、()っ放す事しか知らない黒アリスの火力は、近くにいる自衛隊員には相当な脅威であった。訓練を受けている人間の撃ち方ではないので、当然と言えば当然。


「怒られちゃった…………」

「黒アリスさんはドンとボスっぽく構えてるデスよ。つゆはらい(露払い)はボディーガードのお仕事デース」


 機関砲を抱えてしょんぼり駆けて行く黒アリスを、すぐ(そば)で苦笑いの巫女侍が慰めていた。

 カティはそうでもないのだが、雨音は周囲が働いていると、自分も動かなければ落ち着かないヒトである。

 そして幸か不幸か、黒アリスの仕事は尽きず、すぐに次のオーダーが入った。


「黒衣! 南側裏庭、お仲間の分隊から援護要請! 数が多いらしい!」

「……! 了解です!!」

「南側の安全を確保!!」


 官邸と公邸を繋ぐ広大な裏庭は、道や広場の周囲に樹木が多く、怪生物が潜む死角が多くある。

 大量の怪生物が潜んでいるのは熱感知映像からも事前に分かっており、ここには真っ先に対地ミサイルが撃ち込まれた後、7個分隊52名が展開していた。

 何度目かの照明弾が中庭を照らし、無数のマズルファイアが銃口から噴き出す。

 官邸入口を防衛線として2個分隊、裏庭と官邸入口を同時に見られるリレーポイントを中間線に2個分隊を置き、機動戦力として魔法少女2名がいる分隊を含む、3個分隊が裏庭周辺の怪生物を狩り倒す。

 接近戦闘能力の塊、鎧武者の島津四五朗(しまづじごろう)を前面に出し、早撃ち&必中のビキニカウガール、レディ・ストーンと自衛隊員がこれを援護する形だ。

 ところが、ちょっと鎧武者が突出した拍子に、木々から飛び出して来た数十の怪生物に固められてしまう。


「むあぁああああああ!!!」

「わぁ!? 四五朗(じごろー)それどうなってんのかしらー!?」

「引っ剥がせ引っ剥がせ!!」


 思いっきり鎧の上から()みつかれ、手足も動かせない為、槍が振るえない鎧武者の少女。

 いくら破壊不可能な不退転の鎧と言っても、年頃のお嬢様が不気味極まりない怪生物に団子にされているのは、あまりにも不憫。

 すぐにビキニカウガールは武器を手斧とナイフに持ち替え、自衛隊員も銃剣やらライフルのストックを打撃武器に使い、怪生物を引き剥がしにかかった。

 だが、鎧武者に取り付く怪生物もおいそれ(・・・・)とは剥がされず、別の個体も引っ切り無しに向かって来る、その最中(さなか)



 対物狙撃滑腔砲アンチマテリアルライフル、IWS2000の15.2ミリ装弾筒付翼安定徹甲弾(APFSDS)が、鎧武者の少女に取り付く怪生物の頂点に大穴を空けていた。



 発射初速は秒速1400メートル。セミオートで弾倉は5発装填。夜間戦闘用に低倍率の赤外線スコープを装備。

 狙撃技術は並の黒アリスだが、その為の超高初速ライフル。

 100メートルもない距離なら着弾時差も問題にならず、立射狙撃姿勢のままライフルで狙撃。

 鎧武者の少女に取り付く怪生物を次々に削り落し、ビキニカウガール達の分隊へ向かう怪生物を、立て続けに撃ち抜いた。


「さ、さささすがは黒衣どの…………す助太刀……助太刀……」

「た、大変だったわね四五朗(じごろー)…………」


 気持ち悪く、臭気も酷い怪生物の集団に飲まれたのはともかく、黒アリスのデンジャラス精密射に寿命を削られた想い。

 膝が笑って槍に(すが)りつく鎧武者に、気の毒そうな表情のビキニカウガールは、官邸屋上の黒アリスへ手を振っていた。


                        ◇


 その後も黒アリスは四方八方へ鬼の援護射撃を続け、30分ほどで周辺はほぼ制圧完了となる。

 最後まで黒アリスは屋上を持ち場とされ、素直にそれに従った。

 ド派手な援護射撃と言うだけではなく、人的被害が出るのを完璧に防いで見せたのは、言うまでもない。

 官邸内はと言うと、かち込む勢いで走り回った海賊団により、怪生物は残らず(あぶ)り出され、自衛隊によって処理された。

 そして、被疑者、被害者両方を捜索する魔法少女刑事(デカ)と、官邸内の警視庁警備部警護課のSPにより、隠れていた官邸スタッフや記者といった人々は保護されていった。


 そして、作戦開始から1時間後。午後10時40分。

 釘山三佐も官邸に入り、この時点で安全は確保されたとして、地下のお偉方も地上に戻ってくる。

 この時、黒アリスは三佐の指示を受けて遠条一曹ら第一小隊の面子と官邸や周囲を回り、武器や兵器をバラ撒いていた。

 官邸のあちこちに銃座が設けられ、中庭や裏庭には戦車や装甲車、軽装甲機動車が配備される。

 官邸だけではない。周囲に建つ高層ビルにも対空砲、対地ミサイル、攻撃ヘリ、情報システム、監視システムが配置された。

 官邸を中心に構築される、防衛システム。

 数千から一万を超える怪生物に占領されていた官邸は、今やその周囲も巻き込んで、超攻撃型の要塞と化していた。


 ゆっくり救出する時間が無いなら、いっそ官邸全域を掌握してしまえば良いと黒アリスは言った。

 だが、釘山三佐の考えは、更に先があった。

 それはつまり、実質的な国家中枢である総理官邸を放棄などせず、国家の最高責任者も中心に据えたまま、対巨大生物殲滅作戦司令本部として使い続けるという事である。


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