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いまさら魔法少女と言われても  作者: 赤川
Wave-05 話とか色々大きくなり過ぎたのは誰のせいか
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0062:どうせなら中身も殲滅したいとか言ってはならない

 地下1階全体を封鎖し、危機管理センター内に閉じ籠る総理大臣ら政治家と学者、在日東米軍司令官を、官邸ごと揺るがす衝撃が襲った。


「な、何だ今のは!?」

「今のは外の怪物の…………ではないでしょう?」

「まさか……あの巨大なバケモノが接近しているのか!?」


 某魔法少女より気の小さな大物政治家が、落ち着きなく室内を歩き回っている。

 閣僚のひとりは五分に一回、外の状況を警護のSPに問い詰め、救助を急がせろとヒステリーを起こしている。

 一方では、この事態を誰の責任とするのか、御大臣たちの間では(なす)り付け合いのタライ回しが行われていた。

 断続的に、巨大な足踏みの様な振動が官邸と地下を揺らし、中にいる人間達の不安を否応なく高める。

 沈黙の在日東米軍の司令も、平静を装いきれない焦りや恐れといったモノが(にじ)み出ていた。

 この状態では、自国の特殊部隊も救出に来られない。

 それ以前に、今の東米国に日本を気にかける余裕など有る筈もなかったが。

 司令官の携帯電話には、母国の窮状と、日本国内における部隊が身動き出来ない旨のメールが着信して来ている。

 身動き出来ないのは司令も同じだ。

 対巨大生物処理作戦のアドバイザーという名目で官邸に来ていたが、肝心な作戦は失敗。そのまま実も無い会議に付き合わされたせいで、気が付けば十重二十重(とえふたえ)に怪生物に包囲され、空気の悪い地下に押し込められているという。

 無論、空気が悪いのは口々に勝手な事を(わめ)く連中のせいだ。


「助けは来ないのか!? 自衛隊ならいくらでもいる筈だろう!!」

「第1師団は損耗率が5割を超えています……。東北、中部方面の部隊は到着まで時間がかかりますし、管轄区域の防衛の為にも――――――――――」

「中央を守ってこその自衛隊だろうが! 東京に自衛隊の全戦力を集中させろ! 防衛大臣! 総理! 自衛隊の全力を持って東京を守るべきです!!」


 要は自分が助かりたいのだが、それが見え見えでも誰も突っ込まない。何をしても助かりたいと思うのは、人間として自然な事だろう。

 災難なのはこの場にいる自衛官や警察のSPといった制服組で、金切り声で不満や苛立ちをぶつけられても、自らの職務を懸命に果たしている。

 封鎖されている地下への入り口は、他でもない彼等が守っているのだから。

 だが、いい加減彼等も腹に据え兼ねる物があったのだろう。


 故に、提案された(・・・・・)という事もあったが、危機管理センター内にいる背広組には、現在救出部隊が来ている事は報告されていなかった。


                       ◇


 午後9時30分。

 レーザー誘導による対地ミサイル爆撃に続き、ヘリ型無人攻撃機(UCAV)が攻撃を開始。

 第二波として、AH-64D(アパッチ・ロングボウ)が、中庭、屋上の怪生物へ機銃掃射。西通用口へは96式装輪装甲車が怪生物を蹴散らしながら進撃。全長6.8メートル、全高1.85メートル、14.5トンの鉄の箱が、通用口を完全に封鎖する。

 東側正門には、突如現れた(・・・・・)10式(Type10)戦車が突撃。中庭側へ機銃掃射を行う一方で、外部から迫る怪生物へは120ミリ滑腔砲を容赦なくブチ込んだ。

 第三段階。

 列を成したMH-6(リトルバード)特殊戦汎用ヘリが官邸屋上のヘリポートに着地。即、隊員を降ろし舞い上がると、次のMH-6(リトルバード)がまた隊員を降ろして飛び去っていく。

 計4機のMH-6(リトルバード)が隊員を運んだその最後に、MH-60(ブラックホーク)特殊戦輸送ヘリがヘリポートに着陸し、搭乗者席(キャビン)から()重装備の魔法少女、黒アリス(砲戦仕様)が降り立っていた。

 ヘリから降りた魔法少女は黒アリスだけではない。黒アリスの用心棒を自称する巫女侍の秋山勝左衛門あきやましょうざえもん、海賊魔法少女のマリー、魔法少女刑事のトリア・パーティクルもヘリポートに降りる。

 また、ビキニカウガール魔法少女のレディ・ストーンと、赤備えの鎧武者、島津四五朗(しまづじごろう)も別の地点へ降下していた。


                       ◇


 間もなく、第6中隊を中核にした混成部隊の2分隊が、屋上ヘリポートから怪生物との交戦を避け、地下1階の危機管理センターに到着。

 事前に(・・・)連絡を受けていた警備の自衛隊員は色な意味で諸手を挙げて友軍を歓迎し、封鎖を解いて仲間を引き入れていた。


「ご無事ですか総理!? 第1師団混成第6中隊、紙路陸曹長であります!」

「救出部隊到着しました、総理!」


 迷彩柄の鉄兜に防弾チョッキ(ボディーアーマー)2型、7.62ミリアサルトライフル(SCAR-H)ショットガン(M870CMS)4.6ミリPDW(MP7)と重装備の隊員が入って来ると、それまで取り乱していた政治家達は手を叩いて喜びを示していた。

 まるで今までの(いさか)いも、何もかもが無かったかのよう。

 助かる目が出た以上は、勢い任せで迂闊な事は言えないと即座に判断したのだ。あわよくば、今までの会話も無かった事に。流石政治家である。

 この後の政治闘争が大変だろうが。


「いやー良く来てくれました! 事前に教えていただければ、やきもき(・・・・)せずに済んだのですが!」

「助かった! 早く脱出しましょう!!」


 警護部隊を(まと)めて来た紙路曹長に、短時間で疲弊(ひへい)した与党古参の大物や東京都知事、区長といった先生方が詰めよって来る。スーツを整え、乱れた髪を直していても、疲労の色は濃い。

 助けが来たのだから、今すぐ脱出したいと思うのも当然。すぐにでも自衛隊に先導されてヘリポートに向かう流れになると思い、我先に出口に向かおうとするが。


「お待ちください! 皆さん待って下さい! 総理、混成中隊指揮官の釘山三佐です!」


 急いで逃げ出すどころか、重装備の隊員達は地下階に流入し、最初からそこにいた隊員にも装備を渡して行く。


「どう言う事だ!? 何故脱出しない!!?」


 大臣のひとりが目くじらを立てて叫ぶが、取り合う隊員はいなかった。

 総理大臣もまた、渡された無線機のレシーバーを手に困惑しながら通信を受ける。


『御無事で何よりでした、総理。到着が遅れて申し訳ございません。混成第6中隊の指揮を取っております、釘山三等陸佐であります』

「はい、御苦労さまです…………」


 総理の通信相手は、上空のCH-47(チヌーク)大型輸送ヘリから指揮を執る釘山三佐だ。

 (いぶか)しげな、しかしどこか緊張感の乏しい表情の総理へ、釘山三佐は簡素に伝える。


『総理、現状で総理の他閣僚、議員、その他の方々の救出活動を行うのは難しいと思われます』


 事実だし、時間も無いので(・・・・・・・)三佐は説明を端折(はしょ)った。

 危機管理センター内の人員に限れば(・・・)速やかに救出出来ると言って、作戦に口を挟まれても困る。

 だからこそ、救助部隊が到着した事を現場の自衛隊員にも伏せてもらっていたのだ。

 ところが、これだけの説明では救助しないと言っているようにも聞こえ、総理も早とちりして慌てふためく。


「は!? だ、ですがクギ……三等陸佐! ではどうすると!? このまま籠城を続けるのは……私達がこのままだと、日本が無政府状態に――――――――――それは(まず)いでしょう!?」


 総理ではあっても、この場の面子の中では若造の部類に入る。

 周囲を恐ろしい怪生物に囲まれているのも嫌だが、同じくらいに、国会議員の椅子にしがみ付く、好き勝手な事を(わめ)く妖怪と同じ空気を吸うのは、もう嫌だったのだ。

 だからこそ、今すぐに多少の無理をしても救出して欲しい、とは口に出せないまま、必死さが(にじ)んだ科白(セリフ)で指揮官に訴えるのだが。



『ですのでもう少しお待ちください、総理。乙種生物を全て排除し、官邸一帯の安全を確保いたします』



 返って来たのは、想像もしない大胆かつ力強い自衛官の言葉だった。


                        ◇


『中隊長釘山より各分隊へ。釘山より各隊。第1、第2分隊はフラッグ確保。作戦は第4段階へ移行する。官邸全域を確保せよ。繰り返す、第4段階へ移行。官邸全域の乙種生物を駆逐せよ』


 硬質な三佐の声が、無線から官邸に展開中の全部隊に通達される。

 それまでは押さえ目に怪生物を迎え打っていた各隊も、いよいよ本格的な攻撃に打って出る段になった。

 そして、官邸屋上のヘリポートで待機中だった黒アリス達魔法少女分隊にも、攻撃開始のゴーサインが出る。


「いいぞ黒衣! 始めろ!」


 自衛隊側の援護と通信を行う遠条一曹、以下6名の分隊員が、黒アリスの援護に付いている。

 数千から一万を超える怪生物の大群に囲まれた、不特定多数の人間が取り残された、総理官邸からの救出作戦。

 この前提条件を前に、自衛隊が全面攻撃という発想に至れなかったのも仕方が無い事。

 その為、当初は自衛隊のみで進められる、隠密裏に最小の時間で、戦闘も最小限に抑えた救出作戦となる筈だった。

 ところが、どこかの大量破壊魔法少女の「制圧しちゃった方が早い」という内容の呟きにより、「それもそうだ」と自衛隊と魔法少女総出の殲滅作戦と相成ってしまう。

 官邸内に残された全ての人を救助しようと思ったら、存外それが悪くない策だったのも事実。

 それに、無限の火力を誇ったり途方もないバカ力を振るったりと、常識を完全に振り切っている力を持った魔法少女達との連携作戦なら、強行制圧作戦の実行も可能だ。


「黒衣了解…………。始めるわよカティ、ジャック。マリー、トリア姉さん、そっちも気を付けてね」

「てかもう始めてマース!!」

「オラテメーらニセ侍に負けてんじゃねーぞ! 行くぞコラァ!!」

「あなたもね、黒アリスさん! 勝左衛門さん、彼女を守ってあげてね!」


 改造巫女装束の巫女侍が、外壁を昇ってくる怪生物に蹴りを入れて叩き落としていた。

 同様に、怪生物を曲刀やサーベルで突き落としていた海賊少女と手下の海賊たちは、官邸内に突入しようとする自衛隊員に付いて、屋上出入り口に集結する。

 なりは小さな魔法少女刑事(デカ)も、こういった場では堂に入ったものだった。


 屋上側地上攻撃支援の黒アリス分隊、官邸内突入捜索の海賊マリー分隊、並びに魔法少女刑事分隊、


『もう初めてよろしいのかしらー!? イヤッハー!!』

「ストーン姉さんも四五朗(じごろー)も危なくなったら言ってねー。一面フッ飛ばしてあげるから」

『黒衣殿は信頼するが、ちょっとおっかないでござるー!!』


 地上で怪生物を追撃する騎兵分隊、そして陸上自衛隊と対戦車ヘリ部隊の方々。

 これら魔法少女と自衛隊は一斉に、我が物顔で官邸を荒らし回る一万近い怪生物へ、業火の勢いで襲いかかる。

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