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いまさら魔法少女と言われても  作者: 赤川
Wave-05 話とか色々大きくなり過ぎたのは誰のせいか
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0047:おか海賊ですが逆ナン待ちではありません

 午後5時45分。東京江戸川区の某所にて。

 一体どこから現れ、その連中は何者なのか。

 怪生物に(つか)まれた高校生の少女を助けたのは、コスプレかと見紛(みまご)う姿をした女だった。

 海賊(・・)の被るような黒いツバ広の三角帽に、袖にフリルのついたコートに、ヒールの高いブーツ。

 それだけならまだ普通(?)と言えたが、コートの中身は形の良い胸を隠すサラシに、下は水着にパレオのような格好。

 泳ぐには時期も早く、ここは住宅地であって海の近くでもない。どこかの魔法少女は夏を先取りして東京湾で死ぬほど泳いでいたが。

 そのコスプレ女を先頭に、ヒゲ面やらバンダナやら上半身裸やらの、揃って日焼けした屈強(マッチョ)な男達が長物を振りかざして突っ込んで来ると、怪生物4体に襲いかかった。

 後はもう乱戦である。流儀も技も無い大乱闘。

 日に焼けた胸毛も(たくま)しいマッチョが怪生物に殴りつけ、蹴飛ばすと、他のイタリア系ハンサムワイルドが曲刀で斬り付ける。

 痩身の格闘家体形が怪生物の腕に斬り付け、裏拳を撃ち込んだ直後に脚の裏で突き飛ばす。

 そんなマッチョどもに負けず、細腕――――――コートで見えないが――――――で直接怪生物をぶん殴る、コスプレ女。

 ウェーブしている色の抜けた茶髪を振り乱し、凶暴に歯を剥き出している、褐色肌も野性的でキレイ目なその顔は、


「……あれ? 茉莉(マリ)?」

「はぁ!? ムギ!!?」

 

 良く見えれば覚えのある友人の顔に、倒れていた女子高生とコスプレ少女は、呆気に取られて顔を見合わせていた。


                        ◇


 江戸川区、葛西の某所。

 ヒト気が無く、代わりに怪生物がそこかしこに(ひそ)み、あるいは闊歩(かっぽ)している街の中を、奇妙な一団が歩いていた。

 まず、ブレザー系の制服を着た、中肉中是で体型もそれなりな女子高生。家路を急ぐ所を怪生物に出くわし襲われていた、肩の長さの茶髪にシャギーを入れた、見る者に軽い印象を与える『ムギ』と呼ばれていた少女。

 次に、女子としてはやや長身で、海賊のような(・・・・・・)コスプレが褐色肌と色の抜けた灰茶の髪にお似合いな、こちらは『茉莉(マリ)』と呼ばれる少女。

 そして、個性豊かで揃いも揃って屈強で日に焼けたワイルドな野郎どもが7人。


「でー…………なに? 茉莉(マリ)って浦安でバイトでも始めたの? こちらバイト仲間??」

「あー……いや、説明メンドクせんだよ……。イイじゃんかよ守ってやるんだから」


 後ろから付いて来る日本人には見えない海賊風の(・・・・)野郎どもを気にしながら、小声で友人に話しかけるムギ。

 そんな友人の疑問を、茉莉という海賊コスプレ少女は、蓮っ葉な口調で誤魔化していた。


 廃島摘喜(はいじまつむぎ)こと『ムギ』。安保茉莉(あんぽまり)こと『茉莉(まり)』。

 ふたりは同区に住み、隣の中央区にある同じ高校に通う知り合いだった。一応、友人と言っても良い。

 時々、同じ学校や別の校の友人知人を交え、ボーリングやカラオケなどに行き、ファミレスで一夜を明かす時に、グループの中にいる事がある。

 とは言え深い付き合いでもない、今時の(・・・)若者の繋がり、というヤツだ。

 ムギ、茉莉(マリ)、共に互いに将来にこれといった希望を見出せず、日々を退屈凌ぎの様に過ごしている。

 なお、ふたりの(ふところ)事情としては、ムギは知り合いのおじさんにお小遣いを融通してもらうタイプで、茉莉(まり)は口を開けば「金が無い(ねー)」とぼやくタイプ。お小遣い欲しさに愛想を振り撒くのも、バイトで遣われるのも性に合わないのだとか。

 ちなみに、コスプレするタイプでもない。

 どちらかと言えば、ムギは明るく軽く楽しければなんでも良い少女だ。説教じみた事は聞かないし言わない。楽しく付き合えればいいので、何事にも深くは踏み込まない。ある意味で調和を大事にしている。

 対して茉莉は、世の習いの多くに不満を持ち、憤り、常にスッキリしない何かを抱えている。教師、世間、親、警察、あらゆるモノに不信感を抱き、疑いの目を向け、素直に相手を信じたりしない。友人や一部の人間以外には威圧的な少女だが、逆に(ふところ)に入れた相手には情が厚いという側面も持つ。性格も、竹を割ったとはこの娘の事。

 こんな刹那的に日々を過ごしているふたりなので、ある遊楽の現場で顔を合わせて、顔見知りとなる。

 その程度の「友人」関係ではあったが、茉莉がこんな愉快なバイト(?)や趣味の持ち主なら、ムギが今まで欠片も察知出来なかったというのは、一生の不覚と言ったところだ。


「ね? その剣とか、まさか本物(モノホン)?」

「あー? いや……わかんね……」

「あの背の高いヒト、イケてんじゃん……! 名前なんての?」

「な、名前!? えーと……め、めんどくせぇって言ったろが! んなことより喋ってる体力あるなら急げよ! あと怪我大丈夫か!?」


 怪我なんかより日に焼けた(ワイルドな)イケメンの方が重要というライトガールのムギだったが、実際のところ、幸運な事に怪我は掠り傷程度。

 ガッと目を吊り上げる茉莉の威嚇にも引かず、ムギはなおも後方を付いて来る、肉体派集団の事を聞きたがっていた。



 軽めの今時女子高生であるムギと、一匹オオカミ的なコスプレ少女の茉莉は、比較的近い場所に住んでいる。

 ムギはふた親との3人で一軒家住まい。茉莉は、マンションの一室で4人で住んでいる。

 ただし、茉莉の方は少々家庭環境が複雑で、茉莉は父と血が繋がっているが、弟は継母の連れ子だ。

 そして、父は茉莉を持て余し、継母は身体の弱い息子を気にかける様子が無く、何かと弟に構うのは茉莉の役目となっていた。

 だが、茉莉としては決してそれがイヤとか面倒臭いというワケではない。茉莉の本心もまた複雑で、弟の世話を焼きつつも、深入りはしないようにしていたが。

 ところが、この現状である。


「どうだった!?」

「あ! なんか警察に避難するって書き置きしてあった! もー二度手間じゃん! 入れ違いだしー!!」


 道行上、近くにあったムギの家に先に着くと、軽めの少女もやや緊張の面持ちとなり、無言で家の中に駆け込む。

 家の前で茉莉と海賊コスプレ集団が待つ中、走り回るバタバタという音が外にまで聞こえ、一分もしないうちに出て来たムギが家族の不在を知らせて来た。


「そうか。じゃどうする? ひとりで行くか?」

「ヤダ怖いじゃん! 茉莉も付いてきてよ! じゃなきゃ……誰か(・・)に送って欲しいんだけど」


 また不気味な生物に襲われては(たま)らない。死ぬッ! と茉莉の腕に(すが)りつく必死なライトガールは、その目線をツイっと後方へ向ける。

 どうやらよほど、日焼けも(まぶ)しい長身のイケメンが気に入ってしまった様子だが、この機に乗じてお近づきになろうというのが、まことに(たくま)しかった。

 だが、


「えー……と? お、お前らってし、仕様的(・・・)? に別行動とか出来たっけ?」

「無理ッスね、船長(キャプテン)

「あっしらは7人でひとつでやすからね」

「船長からは離れる事が出来やすが」


 眉間にシワを寄せ、宙に手を彷徨(わまよ)わせて日焼けマッチョ達に問う海賊コスプレの茉莉だったが、ずんぐりむっくり(・・・・・・・・)したのとかヒゲとかから返ってきた答えは、以前小耳に挟んだ通りのもの。

 当然、ムギの狙いである背の高いハンサム系の海賊コスプレも、他の6人から離れて行動するのは不可能とされた。

 それに、船長(・・)と呼ばれる茉莉としても、今この7人と別れるのは良い事ではない。


「んじゃ、ウチに寄って弟拾ってから一緒に行けばいーだろ」

「あー……そうだねー。弟くんひとりかもしれないんだっけ? 早く行ったげないとね」


 表情を険しくする茉莉を、ムギが気遣(きづか)わしげに覗き込む。

 見捨てはしないが、茉莉としては友人のムギの事よりも、何より弟を今すぐ迎えに行かねばならなかった。

 前述の通り、弟はあまり身体が頑丈ではない。父も継母も、夫婦生活や仕事の方に熱心で、娘や息子にほとんど心を砕こうとはしなかった。

 弟には自分しかいない。茉莉には、そんな想いが強く心の中にある。一方で、一緒にいるのが少々辛くもあるのだが。

 しかし今は、そんな事は言っていられないのだ。


 そして茉莉とムギ、日焼けマッチョの集団は、環状七号線という大通りを越え隣の住宅区へ。

 こちらも無人で動くモノは何一つ無く、茉莉とムギも足音をなるべく立てないようにして、目的地であるマンションへと向かう。


 だが、ムギの家から約20分。

 辿りついた、一階部分をコンビニエンスストアとしてテナントに入れている茉莉の住むマンションは、怪生物が多数入り込む巣窟となっていた。


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