0043:不期遭遇ドミノ倒し
銃砲系魔法少女、黒アリス。
怪力超身体能力巫女侍、秋山勝左衛門。
ルール無用のビキニカウガール、レディ・ストーン。
不退転の鎧武者、島津四五郎。
海賊魔法少女の船長、マリー。
それに、第32普通科連隊第6中隊第1小隊の11名。
時刻は午後4時54分。
東京、目黒区某所の自動車教習所を中心とした、半径1キロ圏内。
当初、首相官邸による災害対策本部主導で行われていた巨大生物攻撃作戦は、魔法少女達によって、今や何もかもが全く別次元のモノとして急展開していた。
『こちら対戦車ヘリ戦隊隊長機ライダーリーダーより第6中隊長釘山三佐! そちらの指揮下に入る! 攻撃を指示してくれ!!』
「了解したライダー、現在甲種目標近辺で友軍が作戦行動中。西側で待機しでいつでも攻撃出来るよう準備を頼む」
『ライダーリーダー了解! それと、こちらのチェイサー1-2のパイロット救出を感謝する』
「攻撃の際は目標の体表面を垂直に攻撃しろ。ホールインワンなら攻撃が通る」
『ホントか!? そりゃ厳しい!』
全長600メートル超、その体表は戦車や戦闘機、戦闘ヘリの総攻撃を喰らっても破れない。
銃砲兵器系魔法少女の黒アリスは、その体表を埋め尽す四角い穴こそが、外部から加えられる衝撃を柔軟に分散していると考える。無論、皮膚そのものの、桁違いの強靭さがあっての事だろうが。
だが、同時にその穴は弱点でもある。
体表全体に開いているのだからそんなもの弱点だらけだろう、と言いたいところだが、皮膚だけで10メートル近くあり、更に穴は内部に行くごとに狭まっている。
おまけに内部は粘度の高い粘液が分泌され、皮膚の壁に着弾すれば、弾丸の威力を著しく落としてしまう。
適当に弾をバラ撒いても体表に弾かれ、よしんば穴に入っても、入射角度が浅いと内部まで届かない。
また、当然ではあるが、全長600メートル以上ある相手に5.56ミリや9ミリ弾など何発入っても決定打にならない。
つまり、動いている巨大な相手に、体表面の穴の一つへ 大口径の砲弾を正確に着弾させなければならない。
「だからまず動きを止めようってのねー! って早えぇ!?」
ところが、魔法少女相手に何度も打撃を喰らった為か、巨大生物の動きは恐ろしく素早かった。
ビキニカウガールの白馬は目立つのか、巨大生物の腕が一瞬前まで走っていた場所へ落とされ、アスファルトの路面が砕け、街路樹がシャンパンのコルクの如く吹き飛び、街灯は傾き、ガラスというガラスはあらかた砕ける。
「エド! 全力全力超全速力!!」
「これ以上早くってったら馬じゃなくてバイクに乗りな相棒!!」
テンパった笑みのビキニカウガールが、全速力で走る白馬の頭をバシバシ叩く。
これでは魔法の投げ縄を投げるどころではない。馬も騎乗する魔法少女も走るので精いっぱいだ。
「うひぃいいい!?」
近くにあった区の庁舎、その敷地内の木々に紛れるビキニカウガール。
巨大生物は執拗にビキニカウガールと白馬を追い、庁舎を踏み潰し、高層マンションを薙ぎ払い、腹の底から震えが来る重低音の叫びを上げる。
木々が葉を落とし、あまりの重圧にビキニカウガールが目眩を起こし、白馬も木々の間を蛇行していた。
巨大生物は脚の遅くなった白馬へ向け、木々を押し潰しながら無数の歯の並ぶ大口を開けて、
その口内に、106ミリ成形炸薬弾が飛び込んだ。
下弁のように中心から分かれる巨大な舌を、弾頭の先端から火薬の爆発を利用して押し出される、超高速の液体金属ジェットが焼き抉る。
巨大生物はその場から跳ね上がり、かと思うと何度も頭を地面に打ち付け、多重クレーターを乱造していた。
「あ、ダメだこれ弾遅い。もっと近づかんと」
「あの痴女ガール、生きてるデスかね?」
それなりに効いた様子ではあったが、巨大生物の舌を火傷させた事より、弾速の遅さ――――――秒速約500メートル――――――が命中精度において大きなデメリットであると、黒アリスはM40無反動砲を評価する。
だが、長砲身だけあって弾道特性は悪くない。
とは言え、その砲身長、重量共に、黒アリスでなければ個人携行兵器として扱うのは不可能であろうが。
「おう……こっち向いたデスよ!?」
「フンっ、流石に気付くか。行くわよ勝左衛門!」
なん又にも分かれた舌を振るわせ、80メートルほど離れた所にあるマンション屋上の、黒アリスと巫女侍へ吼える巨大生物。
怒り狂い、巨大生物がアパートやら何やらを崩しながら突っ込んで来る直前、巫女侍は黒アリスを抱き抱えて屋上から飛び降りる。
「あー! なんかこの抱き心地が懐かしいデース!」
「バカね、3日くらいしか離れてなかったのに何言ってんの…………」
感無量で涙を浮かべる巫女侍に、地上に降りる黒アリスは冷淡に言いながらも、若干顔は赤かった。
勿論、二人とも状況を忘れているワケではない。
巨大生物がマンションに突っ込んで来る前に、目の前にブレーキ音を響かせ滑り込んで来た角ばった軍用車両、軽装甲機動車に搭乗して、黒アリスと巫女侍は一気に走り去る。
当然、それだけでは逃げきれないので。
「三佐、ヘリによる援護射撃を要請します! こっちは教習所南側道路を南南東に移動中!」
『分かった、そのまま走り続けろ』
黒アリスのマスコット・アシスタント、ジャックがアクセルを踏み込み、軽装甲機動車はエンジン音を高鳴らせて大通りを突っ走る。
マンションがど真ん中から打ち倒され、巨大生物は騒音を立てて逃げる迷彩色のクルマを発見。4脚を高速で送り出して追いかけようとし、右側面からAH-64攻撃ヘリによる銃撃を受けた。
対戦車ヘリ部隊のAH-64パイロットも心得たもので、対戦車ミサイルやロケット弾による攻撃ではなく、固定武装である機首のM230機関砲に限定。
狙って穴を通すのは不可能だが、可能な限り攻撃面へ対して真っ直ぐに、そして火線を集中させた事により、何発かが穴の深部を直撃した。
ハッキリと巨大生物の動きが変わり、AH-64パイロットたちの無線が沸き立つ。
『イケるぞ! 嫌がってる!』
『各機、深追いはするな! 地上には考えがあるらしい』
ここぞとばかりに強烈な一斉射撃を行う攻撃ヘリだったが、隊長の注意が功を奏して巨大生物の攻撃に対応できた。
いつの間に握っていたのか、腕の一本が降り切られると、AH-64の間近を軽トラックが石ころのように飛んで行く。
回避行動を取りながらの射撃で無ければ直撃していたかもしれない。
不意打ちが効かなかったと見るや、巨大生物は4腕を広げ、人間のように直立してヘリ部隊へ向かって来る。
一気に上昇するヘリを追って、巨腕を伸ばす巨大生物。
「ジャック! ストッープ!!」
その脇腹が建物の狭間に見えると、黒アリスはジャックに軽装甲機動車を急停止させた。
天井ハッチから身を乗り出した黒アリスは、砲身長3.4メートルの無反動砲を巨大生物へ向け、脇に抱える様にして発砲。
だが運悪く、ヘリに手が届かず再び這う姿勢になった巨大生物には一瞬遅く当たらず、砲弾は明後日の方へ飛んで行ってしまった。
「おっと…………」
しかも巨大生物に見つかり、またも黒アリスの軽装甲機動車へ向かって来る。
「これ連携とらなきゃダメかな……。とりあえずジャック、フルスピードで!」
「了解アマネちゃん!」
黒アリスが車内に引っ込むと同時に、軽装甲機動車がアスファルトの擦れる音を立てて急発進。
無反動砲の尻から足元に空薬莢を落とすと、黒アリスはエプロンポケットから次の砲弾を取り出し装填した。
「どうするデス、アマネ? エセガールは使いものにならんデスよ?」
「せめてカウガールって言ってあげなさいよ。死んじゃいないわ。あたし達はちょっとでもチャンスって思ったら、間髪入れずにブッ込んでくだけよ」
とは言う黒アリスも、後方から物凄い勢いで巨大生物に迫られている状況では、他力本願でもいられない。
再びハッチから身体を出すと、走行中のクルマの上から無反動砲を抱えて巨大生物の方へ向け、
「アマネ! 正面から来マス!!」
車内の巫女侍の科白に、進行方向へと振り向く。
そこには、軽装甲機動車と巨大生物の真っ正面から突っ込んで来る、乗馬組魔法少女の二人の姿があった。
「ハッハー!! 机の角で小指をぶつけた的な目に遭わせてやるわ!!」
作戦通り、ビキニカウガールの魔法少女が投げ縄を振り回して狙いを定めている。
「ジャック! 合図したらブレーキ!」
「アマネちゃん前!!」
今度はジャックから警告が来た。
凄まじい相対速度で駆け抜けていった乗馬組二人を見送った黒アリスが、何事かと再度前へ振り向くと、進行方向には小型怪生物の群れが。
どうやら乗馬組二人を追い掛けていたらしい。
「ッ邪魔ぁ!!」
黒アリスが目の前に設置されていた12.7ミリ重機関銃で小型怪生物を薙ぎ払うと、軽装甲機動車も構わず強行突破する。
ビキニカウガールは巨大生物の足元へ恐れず飛び込み、その脚が次の一歩を踏み出す瞬間を狙っていた。
脚の一本がビキニカウガールと鎧武者を跨ぎ、強烈な振動で一瞬身体が浮き上がる。
「ハハッ! 慣れりゃ楽しいじゃん!?」
「油断めさるな!!」
大声で窘める鎧武者だが、ビキニカウガールは片眼を瞑って余裕の笑み。
あと数秒で、後ろ脚が持ち上がる。
確信を持つビキニカウガールは白馬を疾走させながら、脚が頭上に来るのを狙い、
フと、とっくに移動しても良い筈の巨大生物の重心が、移動するタイミングを外しているのに気が付く。
嫌な予感で陽気な笑みが消えるのと、頭上に巨大な影が差すのが同時だった。
巨大生物は、手の届く範囲にビキニカウガールが向かって来るのを待っていたのだ。
「ちょっ!? 何よ無視してくれてもいいじゃん! お構いなく!!」
「言ってる場合ではござらん流石にバレてるでござるよ!!」
黒アリスは事態が良くない方向に動いたのを察し、ジャックに急ブレーキをかけさせると、無反動砲を発砲。
狙いが甘く砲弾は巨大生物の体表に着弾するが、今の一発は援護射撃なのでいいとして。
「ジャック後退!! あいつがストーン姉さんを狙う瞬間を狙い撃つ!!」
「分かった! 曲がるから掴まって!!」
軽装甲機動車は急転回しようと近くにあった駐車場へ飛び込む。
そこからジャックは後進で向きを変え、車道に飛び出した途端に何かと衝突した。
ジャックの後方不注意ではない。別の小型怪生物がそこにはいたのだ。
軽装甲機動車のハッチから身を乗り出している黒アリスは、エプロンポケットから魔法の杖を引き抜き、間髪入れずに引き金を引く。
だが、クルマが止まったほんの一瞬に、ワラワラと集まって来る小型怪生物に、道の前後を挟まれてしまった。
「ッ……!? カティ! ジャック! 蹴散らすわよ!!」
「おっけーデース!」
「や、やるよ!!」
黒アリスは車内で魔法の杖を連射。
作り出された軽機関銃、短機関銃、ショットガンをジャックは車外に持ち出すと、怪生物の群れに向かって掃射を開始。
厳つい大男が軽機関銃を腰溜めに撃ちっ放すのは、非常にハマって見えた。中身が子供なので恐がっていたのだが。
黒アリスも機関銃の重量を無視した二丁持ちで、車上から怪生物を薙ぎ払う。
◇
そんな黒アリスが手一杯の所で、ビキニカウガールへ殴りつける勢いで、巨大生物の4指の手が迫る。
時速100キロを超える白馬だが、スケールが違いすぎ、逃げ切れるものではない。
ビキニカウガールは巨大生物を足止めし、黒アリスが精密射を行う隙を作るのが役目だ。そして、鎧武者の魔法少女はビキニカウガールの援護が使命。
鎧武者の少女は刀を抜き放ち、迫って来る巨大な手に一太刀くれてやろうと後ろ向きに構え、
その手に刺さっている物を見て、考えを改めた。
「ストーン殿! そのままあの建物に突っ込むでござるよ!」
「あの中入ったらロープ投げられないじゃん!?」
「必ず機は来るでござる! あの中へ!!」
問題は、どうやってあそこまで行くか、という事だが、ならばこの際ビキニカウガールが追われているのは都合が良い。
建物の上に、一回り小さな建物が建つような、そんな構造の建物に馬ごと飛び込んだビキニカウガールと鎧武者の二人は階段を駆け上がり――――――上がったのは器用な馬だが――――――、高い位置にある中庭に出る。
「ね、ねぇ四五朗? こっからどうするのよ!? ここからじゃ脚狙えなくない!?」
「拙者が注意を引くでござる。ストーン殿は見事この巨大な敵をスッ転ばせるでござるよ!」
「やめてよなんか死亡フラグッぽいから!?」
聞き様によっては事後を託すような鎧武者の科白に、ビキニのカウガールは必死の形相で訴えた。
数少ない本音で話せる友人であり、学校の後輩で、代えの無いオモチャなのだ。こんな所で死んでもらっては困る。
しかし、鎧武者にそう言った悲壮感は全く無く、そうしている間にも槍の刺さった巨大な手は、ビキニカウガールを押し潰そうと振り下ろされ。
巨大な手が建物に突き込まれる直前に、ビキニカウガールはその場を離脱。
鎧武者の少女は、槍を捉まえ巨大生物の手に取り付いた。
その槍は、鎧武者の少女が巨大生物に潰された際に、お返しに突き刺しておいた物だった。
鎧武者の少女だって、ただ出オチ的に愉快なやられ方をしていたワケではない。
「むー!? むぁぁああああああああああ!!?」
「いやそうなるでしょうよ…………」
何か手の平(?)に刺さり、しかもそれがグリグリと傷を刺激する。
当然、巨大生物は痛みで腕を振り回し、鎧武者の少女はとんでもない遠心力に振り回されて、槍にしがみ付いていた。
この娘ってこんなキャラだったか。生徒会長に戻ったビキニカウガールも若干呆れ気味に天を仰ぐ。
「お……え? あ!? ヤバいヤバい!! エド逃げて逃げて!!」
荒ぶる巨大生物は、脚をバタつかせて、周囲の地形まで破壊していた。
ビキニカウガールが大慌てでその場から逃げると、直後に真上から、どこかの建物の上にあった給水塔が降ってくる。
よほどの高所から叩きつけられたらしく、中に蓄えられていた水が爆発したかのように周囲に広がり、ビキニカウガールも大量の飛沫を被る事となった。
「ッ……ぷッ! や、やるじゃないよ! ハハッ!」
ずぶ濡れになり、テンガロンハットから水を滴らせながら、ビキニカウガールは白馬を走らせる。
丁度、進行方向の建物が巨大生物の脚に引っかけられて、大きく跳ね上がる所だった。
巨大生物の重心方向的に、次にあの脚が降ろされるのは目の前だろう。
投げ縄を取り出すビキニカウガールだが、不運にも別の建物が進路上に落下し、道が塞がれてしまう。
「んもうッ!? エド、別の道!!」
「ってー相棒! んなもんどこにあるんだよ!?」
左右には脇道らしい物など無い。
千載一遇かもしれないチャンスをみすみす、と顔を顰めるビキニカウガールだったが、
その時、落ちて来た建物の上空に、飛んで来たMH-60L兵員輸送ヘリがホバリングする。
乗員席から、角刈りの厳めしい表情をした自衛官が、強い意志でもってビキニカウガールを凝視していた。
自衛官の言わんとする所を察しようとするビキニカウガールは、ホバリングするMH-60L下部の車輪に目を付けると、そこ目がけて投げ縄を放り投げる。
投げ縄は見事にMH-60Lに引っ掛かり、同時にMH-60Lは上昇を開始。
しかし、自らを引っ張り上げたビキニカウガールは、道を塞いでいた建物の上でロープを解くと、勢いそのままに瓦礫の上を駆け下りる。
「ちッ!? っおぉおおおおおおおお!!?」
転げ落ちないように、身体のあちこちをブルンブルンと激しく揺らしながら必死でバランスを取るビキニカウガールは、路面に着地後更に加速し全力疾走すると、今まさに持ち上がろうとしていた巨大生物の脚を魔法の投げ縄で捕まえる。
ただでさえ苛立たしい手の痛みに悶えていた巨大生物は、唐突に脚の一本まで固められ、バランスを失い真後ろから街中に倒れ込んだ。
「おらっしゃー! ザマー見され―! イエッヒー!!!」
ズブ濡れのビキニカウガールは、テンガロンハットを振り回して快哉を叫ぶ。
ちなみに、かなり高所に居た鎧武者の少女は、巨大生物が倒れた拍子に何百メートルも離れた美術館の森にまで吹っ飛ばされていた。今は馬が迎えに行っている最中である。
◇
一方、ビキニカウガールは見事にチャンスを作ってくれたが、肝心な黒アリスは身動きが取れない状態だ。
小型怪生物が軽装甲機動車に爪を立て、黒アリスは無反動砲の砲身で小型怪生物を殴り倒す。
黒アリスは軽々と振るっているが、重量200キロが軽くなっているワケではない。
全長2メートルと人間より大柄な怪生物も、派手に地面を転がるハメになった。
「くっそ……! デカブツが立ち上がる前に行かないと!!」
一体どこにいたのか、ゾンビのように群がって来る小型生物に、軽装甲機動車も強行突破とはいかなかった。
黒アリスは魔法の杖であるS&W M500の弾倉を解放すると、手早く排莢、即再装填し、別の怪生物に弾丸を叩き込んだ。
「いくらでもかかって来るデスよ! カタナの錆デース!!」
巫女侍は牙を剥き出し、大刀を振り回して暴れているが、いかんせん一匹倒すと二匹出て来る有様。
なんとしても巨大生物が立ち上がる前に囲みを破らねばならない。
黒アリスは危険を承知で、無反動砲で進路上の怪生物を吹き飛ばすかどうか逡巡するが、
「オラ突っ込め野郎どもぉおおお!!」
「ぉおおおおおお!!」
「姐御お待たせ!!」
「目標乙種脅威生物! 撃てぇ!!」
「黒衣を援護!」
そこに、自衛隊の第6中隊第1小隊と合流した海賊団が、ワゴン車やらSUVやらに乗って駆け付ける。
殴り込みのような勢いで激突する海賊団は、曲刀やサーベルで小型怪生物を叩きのめし、自衛隊員の正確な援護射撃が怪生物の集団を崩していた。
「よし、敵がバラけた! ジャック、行くわよ!!」
「ウンッ!!」
「突撃デース!!」
多くの敵に一斉に群がられると厄介だが、多くの敵も別々の方を向いていれば、単なる烏合の衆である。
軽装甲機動車は小型怪生物を跳ね飛ばすと、巨大生物の方へとフルスピードで走行開始。
だが運悪く、黒アリス達のいるのは、倒れた巨大生物の尻の方向だ。
可能であれば、頭を狙いたい。
黒アリスは即座に判断すると、軽装甲機動車の進路上に狙いを定めて魔法の杖を発砲し、戦闘用ヘリを作り出そうとした。
ところが同時に、巨大生物が身動ぎし、それだけで地面が揺れる。
軽装甲機動車も揺れ、天井ハッチから身体を出している黒アリスは、射撃どころではなかった。
「拙い!? もう起きる!!」
後ろ向きに倒れた筈の巨大生物だが、実際には前も後ろも無い生き物だ。
関節を逆に曲げ、4腕4脚を地面に突いて、その巨体を持ち上げようとする。
それを、飛来した戦闘ヘリが妨害した。
対戦車ミサイルやロケット弾を巨大生物に浴びせ、少しでも動きを止めようとする。
第6中隊のAH-6特殊戦攻撃ヘリとMH-60Lも攻撃に加わり、巨大生物の頭を押さえた。
『黒衣! 何をしている!? 奴が起きるぞ!!』
「すいません頭が遠くて……! すぐに行きます!!」
「そんなら走ってった方が早いデスよ!!」
巫女侍の科白に、形振り構っていられないと黒アリスも頷いた。
無反動砲を抱える黒アリスを背負った巫女侍は、
「アマネ、舌咬まないでくだサイ! でも咬んだら咬んだで後で舐めて治してあげるデース!」
「アホ言ってないで早く行かんかい!!」
この状況で何故か嬉しそうに言うと、巫女侍は近くにあったビルの壁面に飛び上がり、三角飛びの要領で巨大生物の脚の上に取り付く。
強烈な慣性が掛かり黒アリスがブラックアウトを起こしかけるが、今だけは巫女侍も、気遣うよりも速度を優先。巨大生物の上で全力疾走を始めた。
脚から胴体に着き、無数に四角い穴が開くそこを平地の如く駆け抜ける。
僅か数秒で巨大生物の胴体を駆け抜けた巫女侍は、頭部に差し掛かったところで一本下駄に急ブレーキをかけようとし、
勢いを殺し切れず、下駄の歯が穴の縁に引っ掛かり、転ぶと同時にカタパルトのように跳ね上がった。
「わー!? しまったデース!!」
「カティのアホ―!!」
冗談のように吹っ飛ぶ黒アリスと巫女侍だが、今だけは洒落にならない。
「ッ……!?」
空中で放物線を描く黒アリスは、ひっくり返りながら無反動砲を巨大生物の頭部に向ける。
どう考えたって当てられるワケが無い。
地面までは数秒。落ちてから体勢を立て直すか、今撃つか。
極度の緊張と集中で時間の感覚が引き延ばされ、黒アリスの思考がフル回転する最中。
「マジカルッ! ウェストロープ!!」
黒アリスの身体が、細いロープのような物で捉まえられていた。
「グエッ!?」
腰にロープをかけられた黒アリスは、体重がお腹一点に集中して息が止まる。
一体何が起こったのか、ワケも分からず目を白黒させる黒アリスに、真上から舌っ足らずの声が。
「どこに降ろせばいいの!? 黒アリスさん!」
見上げると、黒アリスを腰ヒモで吊り下げていたのは、プラチナブロンドを縦ロールにしたチビッ子魔法少女刑事だった。
ちなみに、黒アリスも魔法少女刑事が多くの一般人を避難誘導していたのは知っていた。そもそも、第6中隊の隊長に魔法少女刑事の事を教えたのは黒アリスである。
CH-47に収容されてから、てっきり既に避難したものと思っていたが、とにかく今は地獄に魔法少女。
「あ、あそこ! 頭の上に!!」
「分かったわ!!」
釘山三佐が友軍に攻撃中止を叫び、巨大生物が今にも身を起こそうと浮上する。
空飛ぶ魔法少女刑事の手により巨大生物の上に降りた黒アリスだったが、巨大生物は黒アリスに気付いているのか、その頭部を左右に振り始めた。
「ッ~~~~~~~~~~~~~!!?」
「アマネ!?」
「黒アリスさん!?」
『黒衣!!』
穴に無反動砲を突っ込み、振り落とされないように踏ん張る黒アリス。
巨大生物の、これまでで最大の咆哮が空間ごと黒アリスを揺さぶり、意識を失いそうになる。
それでも、歯を食いしばって耐える魔法少女の黒アリスは、
「悪いけど……くたばりやがりなさい!!」
砲身全部を穴の中に突っ込ませ、砲尾グリップを握り込み砲弾を発射した。




