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いまさら魔法少女と言われても  作者: 赤川
Wave-05 話とか色々大きくなり過ぎたのは誰のせいか
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0036:エスケープフロム東京

 道いっぱいにヒトが逃げて来ても、栗毛の馬も白馬も速度を変えずに突っ込んで行く。 

 先陣を切ったのは、鎧武者の馬に相乗りしていた巫女侍だ。

 爆走している馬の後ろから飛び降りた巫女侍の秋山勝左衛門あきやましょうさえもんは、直後に馬を抜き去る脚力を全開にし、駆けながら3尺3寸の大刀を抜き怪生物の一体を殴り倒す。

 目にも止らぬとはこの事で、ある中年女性に咬み付いていた怪生物を叩き潰した巫女侍は、疾風のように駆け抜け次の敵へと飛びかかった。


「うーわ早えぇ……。何気に巫女侍ガールもチート気味よね」

「秋山殿お見事!」


 何せパラメーターを身体能力に全振りしたような魔法少女である。

 美麗な顔で猛獣のように牙を剥き出す巫女侍は、怪生物を蹴り飛ばし、大刀で打ち上げ、薙ぎ払い、猛烈な勢いで駆逐していく。

 そんな巫女侍に喝采を送る鎧武者も、カウガールより馬を先行させ槍を振り回し、その度に斬り飛ばされた怪生物が宙を舞った。

 ビキニカウガールは、先に大暴れを始めたふたりの魔法少女に敵を任せ、自分は顔見知りのチビッ子魔法少女へ向け馬を走らせる。


「あ、あなた達!? こんな所で何してるの!!?」


 思いがけない救援の正体に目を丸くした魔法少女刑事(デカ)だが、今はそんな事に疑問を抱いている場合ではない。

 50人からの避難住民は、怪生物の大群に襲われている真っ最中なのだから


「こんなにゾロゾロ引き連れて、他にやりようは無かったのかしらー?」

「非常事態よ仕方なかったの! それより――――――――――!」

「分かってるってー! 警察は一般人を避難させなさいよ! 行きなさい、エド!!」


 白馬は後ろ脚を跳ね上げ、向かって来た怪生物を蹴り飛ばすと、(いなな)きを上げて走り出す。

 ビキニカウガールも胸やら何やら色々弾ませ、ウェスタンムービーの如く銃声を鳴らし始めた。


                       ◇


 コンクリートなどとは違い、アスファルトというものは意外に柔らかく、多少の温度上昇で簡単に固さを失ってしまう。

 44トンの重量でアスファルトに圧力がかかり、圧力は熱となって、10式(Type-10)戦車の履帯(キャタピラ)の痕が路面にくっきりと残されていた。

 戦車はいずれも、砲塔を一方向へと向けている。

 また、すぐ近くでは、陸自の一個中隊が120ミリ迫撃砲の準備を済ませ、砲身長2メートルのそれを戦車と同じ方へ向けていた。

 自衛官達は無線で司令部と頻繁に連絡を取り、爆撃地点と作戦開始時刻、また爆撃対象の現状の確認に余念がない。

 中隊本部指揮所となっている天幕の下では長卓に地図が広げられ、中隊長や各小隊長が作戦開始間近の今も、今後の想定と行動を話し合い、小銃や無反動砲を背負った自衛官が頻繁に出入りしていた。

 一方で、中隊と戦車隊が展開中の公園には、迷彩服以外の姿は見られない。

 天候はやや曇り気味。空気は暖かく、散歩するには最適の日和だった。


「隊長、連隊本部より『作戦開始時刻に変更無し。所定の作戦行動を実施せよ』、以上であります」

「了解した、と連絡を。あと……約10分か」


 時計を確認し、ロマンスグレーの隊長は、緊張に目を細めていた。

 中隊長から各小隊に、そして戦車隊にも連隊本部からの指示が送られ、現場は(にわ)かに騒がしさを増す。

 迫撃砲の前には砲弾が積まれ、戦車からは陽炎が立ち昇る。

 時刻は、午後3時55分。

 明治神宮周辺に展開した自衛隊の一斉攻撃まで、あと5分と迫っていた。 


                       ◇


 流石にしんどかった、と白馬に乗ったハイレグビキニのカウガールが、揺られるままに気の抜けた顔で言う。

 魔法少女4人と警官隊15名は、避難住民約50名を守り、100体近い数の怪生物の撃退に成功した。

 怪我人多数。全員が疲労困憊していたが、生き残ったぞザマー見ろ。

 現在は、避難する一般人が再び集団を形成し、全員で東京を南下(・・)していた。

 巫女侍などは「逆方向デース!」と(まなじり)を上げて叫んでいたが、かと言ってこれだけの人数の避難住民を放っても置けず、護衛という事でビキニカウガール等魔法少女も同行する事になった。


 この荒れた東京で、カッポカッポと馬に乗るハイレグビキニのカウガールと赤備えの鎧武者。それに露出の多い巫女さん。

 現実離れした格好と戦闘能力を見せた3人の美少女を、多くの人々が好奇、不審、羨望と様々な目で見上げていた。

 魔法少女刑事(デカ)と怪生物で、不思議なモノには大分慣れたつもりだったが。


 しかし、ビキニカウガール、鎧武者、巫女侍には目的がある。避難する人々の向かう先は、巫女侍の言う通り道行(みちゆき)の反対方向だ。東京脱出まで付いて行くワケにはいかない。

 その旨を伝えたならば、魔法少女刑事(デカ)率いる一団は、適当なバス等の大型車両を見つけ次第、それに乗り込み移動する計画なのだとか。

 だが何より今は、明治神宮の3キロ圏内から離れなければならないのだと、ビキニカウガールは魔法少女刑事(デカ)から教えられた。


「『4時』って……もうすぐじゃん!? てか今じゃん!!」

「自衛隊の総攻撃、でござるか。これで片が付いてくれれば、後顧に憂いが無くなるでござるな」


 元自衛官の警官や警察の上層部から、情報は回り回って魔法少女刑事(デカ)や同行する警官の無線にも流れて来ていた。

 そして、総攻撃の情報を裏付けるように、自衛隊の戦車が一般道を走り抜けるのも目撃した。


「ここはもう3キロ圏内の外だと思うけど……あなた達はどうしてこんな所に? 東京が危険だって事くらいは、みんな知っていると思ったけど?」


 見た目小学生くらいの魔法少女は、栗毛の馬の、鎧武者の前に座って大人びたお姉さん口調で問う。

 大人びるも何も中身は年長者なので不思議はなかったが、余裕がある時は見た目相応にキャラを作っているのだこの警視殿は。

 流石に今はそんな余裕は無いので、妙に澄ました大人口調のチビッ子魔法少女な有様である。


「わたし達は黒アリスガールを探して、ここまで来たのよん。おばさん何か知らないかしらー?」

「どこぞでモンスター相手に大量破壊しているミニスカメイドさんの話を聞かんかったデスか? 教えてくだサイ若作リ!」


 魔法少女刑事(デカ)のお姉さんは、白馬に乗る魔法少女二人を射殺したくなった。

 しかし、確かにこの状況で黒アリスがいれば、この上なく心強い。


「羽田にあの巨大な怪獣が上がって来て、自衛隊と警視庁が後手に回った時、所属不明の戦術攻撃機が怪獣の侵攻を喰い止めたって……。やっぱり彼女(・・)だったのね……」

「その後の報道って怪物のせいでメチャクチャになっちゃったんだけど、その飛行機って落ちたんだったかしら? どうしたか知ってる?」

「私もすぐに所轄署に管理官の代理として派遣されたから、詳しい事は…………。東京湾に落ちてからは、捜索もされてないと思うわ」


 それどころじゃないし、と言う魔法少女刑事(デカ)は、黒アリスと巫女侍の関係を知らない。

 白馬の後ろに乗る巫女侍は、朱色のシャドウに飾られた目元に大粒の涙を溜め、それが(こぼ)れてしまわないようグッと(こら)えた。


「カティはまだ……黒アリスさんにプロポーズの返事、聞いてないデスよ…………」


 巫女侍の(つぶや)きにギョッと目を見開いたチビッ子魔法少女は、ビキニカウガールと巫女侍へ交互に視線を向ける。

 ビキニカウガールは魔法少女刑事(デカ)へ非難するような目を向け、魔法少女刑事(デカ)のお姉さんは、一瞬だけこの状況を忘れるほどに動揺していた。


「……にしても、どうしよっか巫女侍ガール? 自衛隊の頑張り次第だけど、迂回して海沿いから千代田区に抜けちゃう?」

「うぅ~~……そんならもういっそ海に探し行くデス」


 話を逸らす為ではなく、巫女侍の今後の希望を訊いてみるビキニカウガールだが、やはり猪武者、進路は直情で直進のみの様子。

 この娘の場合本気で行きかねない、と直感した鎧武者の少女が、念の為に巫女侍を引き止めようと、した。



 その時、遠くで響き始める砲声の連弾。



 列を成して歩いていた人々が一斉に脚を止め、様々な方向から飛んで来る音に耳を傾け、隣り合う人同士で顔を見合わせている。

 加えて無数の砲声に混じって、と言うよりもそれ以上の存在感でもって、不気味に遠くまで届く重低音。


「始まった……。みんな、もっと離れましょう! ここは大丈夫だと思うけど、危険な生き物もこの辺に居るかもしれません!」


 小さな魔法少女の呼びかけに、一般の人々も現実を思い出して、集団にどよめきが広がった。

 ここも決して安全ではない。

 先導する警官に従い、追い立てられるように早足での移動を再開する集団だったが、


「…………おぅ?」

「……なに? 私達も移動しましょう」


 テンガロンハットを気持ち持ち上げたビキニのカウガールが、片眉を跳ね上げ音の方向に耳を()ませる。

 集団の先頭に付こうとした鎧武者もビキニカウガールの様子に気付き、その場で馬を回して留まった。

 

「ストーン殿?」


 呼びかけに応えが無い。

 槍を肩に担いだ鎧武者も、緊張を(にじ)ませて周囲を見回していた所に、ビキニカウガールが口を開き。


「…………ねぇみんな、なーんか音近づいてたりしない?」


 同時に、少しずつハッキリとして来る、何か巨大な物が地面を踏み鳴らす振動を、魔法少女達は感じ始めていた。

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