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いまさら魔法少女と言われても  作者: 赤川
Wave-05 話とか色々大きくなり過ぎたのは誰のせいか
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0033:ワイルドワイルドホスピタル

 そうして、壮年のカメラマンは、コーラ片手の巫女侍に管を巻かれていた。


「そこは違うと思うデス! 普通プロポーズされたら『イエス』か『ノー』であって決してプロポーズそのモノを無かった事にするのは間違ってるデス! でもきっと、黒アリスさんに『ノー』と言われたら生きてけませーん!」

「う、うん……いや、でも別にプロポーズを断られたワケじゃないんだろう? 相手もビックリしただけじゃないのかな?」

「でも黒アリスさん困ってたデス……カティのプロポーズが迷惑だったデスよー!」


 取り合えず慰めてみるおじさんカメラマンだったが、巫女侍は話すだけ話して、相手の話など聞いちゃいない。

 それから巫女侍は、泣きながら一気にコーラ((L))を(あお)ると、テーブルを破壊する勢いで、握り潰した紙コップを叩きつける。


「お代わりくだサーイ!」

「何をやってるのでござるか秋山殿は……」


 しかし、巫女侍のすぐ後ろから入る冷静な突っ込み。

 面具の奥で眉を(ひそ)める鎧武者の少女へ、振り返る巫女侍は荒んだ目を向けていた。


「……黒アリスさんに一世一代のプロポーズをキャンセルされたデス……飲まなきゃやってられんデスよ……」

「こ、コーラでは意味が無いと思うでござるが……」


 女子高なのに告白された経験ありの鎧武者の少女は、意図的にズレた返答をして誤魔化してしまう。

 女の子同士だったり親友同士だったり、非常に立ち入り辛い領域である。話はよく分からないし黒アリスの本心も知らないが、フラれたというのであれば尚更迂闊に関われない。

 外では半分文明が崩壊していても、乙女の悩みだけは時代と場所を選ばず不変らしい。

 

 第一京浜道路沿いのファストフード店より。

 魔法少女3人と8名の避難住民は、避難場所の病院まで、あと一キロの所まで来ていた。


                        ◇


 最新の10式戦車(Type-10)約50輌を(よう)する富士駒門駐屯地の第1戦車大隊が到着し、自衛隊は本格的な対巨大生物撃滅作戦の準備段階に入っていた。

 同時に、第一次防衛戦に間に合わなかった埼玉の第32普通科連隊、富士の第34普通科連隊、合わせて2000名余りが到着。

 また、各方面より対戦車ヘリ部隊が、航空自衛隊も各航空団から横田と百里基地にF-2(バイパーゼロ)戦闘機を40機以上集結させた。

 政府と自衛隊は、明治神宮に巨大生物が横たわっている今を好機とした。

 明治天皇をお祀りし、年始には多くの参拝客が訪れる、日本で最も由緒ある神社を戦場とするのは痛恨の想いだったが、都内でここ以上に周辺被害を抑えられる地形が無いのも事実。

 政府はここを巨大生物の処分場所とし、半径3キロをキルゾーンに設定。逃げ遅れた住人を避難させる一方で、巨大生物を逃がさない包囲網を作り、攻撃の為の部隊配置を進めていた。


                        ◇


 ファストフード店を出て30分後の、午後4時5分。

 第一京浜を左に折れた品川区のあるエリアに、病院や公園、学校、警察署が集中している場所があった。

 必然的に日頃から多くの人間に認知されるエリアであった為、皮肉にも多くの人間をこの場所に留める事となってしまった。

 その中で最も大きい、大柴中央病院。

 多くの近隣住民に避難場所とされたこの建物には、今現在小型の怪生物が群がっていた。


古家(ふるや)! 大井署からの応援はどうなってる!?」

「だ、ダメっす! 他で手一杯でこっちに回すのは30分後…………」

「ぬぅ…………!!」


 エレベーターは止めたが、封鎖した階段から無理矢理押し入ろうと、防火扉が(にぶ)い爪でギーギーと引っ掻かれている。

 水平の壁でも、4腕4足4指で僅かな手掛かりを使い、窓から侵入を図ろうとする。

 実際、穴を開け、隙間に身体を捻じ込ませ、何体もの怪生物が入り込みつつあった。

 動けない者も含めて、怪我人や患者が多数。周辺から避難して来た人間と合わせると、300名近い人数が病院に閉じ籠っていた。

 だが、警備の為に待機していた警官は、たったの5人。

 これまではシャッターを下ろし、バリケードを作って食い止めていたが、ヒトの出入りもあるのだから完全密閉というワケにもいかない。ましてやここは病院である。

 食料や医療物資を運び込もうとしたその瞬間を突かれ、最初の一匹が中に入り込んだ時点で(つつみ)は崩れてしまう。

 後は、水嵩(みずかさ)は増える一方だ。


「よし全員聞け! 間もなくここにも化け物どもが押し寄せるだろう。だが我々は警察官である! 憲法と法律を守り、何ものをも恐れず、職務を遂行する! 市民を守る事が我々の最大最優先の職務だ!」

「ハッ、巡査部長!」

「無論であります!!」


 神奈川県警の那珂多(なかた)巡査部長と部下の古家巡査、それに地元の警察官3名は、感染症患者用の感染処置病棟に全ての患者と避難民達を避難させていた。病室も廊下もナースステーションまでも、避難して来た人間で溢れ返っている。

 追い詰められ、ここが最後の場所となり、誰もが悲壮な顔をしていた。


 その性質上出入りが制限される病棟への入り口は、中央入口と建物の外に出る裏口の2か所のみ。基本的に窓は開かず、頑丈な鉄筋入りになっている。

 非常階段の裏口は既に病院の機材で塞いでおり、後は階の中央に通じる出入り口さえ塞いでしまえば良いが、生憎こちらは単なる強化ガラスのドアになっていた。怪生物相手には、時間稼ぎにしかならないだろう。

 が、ハリウッド的那珂多巡査部長は、時間稼ぎに徹する気など毛頭なかったりする。


「この国と国民は私が守る! バケモノどもに日本の警官がどれほどのものか思い知らせてくれるわ! 行くぞ古家!」

「イヤです! 今までも散々死にそうな目に遭ってきましたけど化け物に喰い殺されるなんて最悪です!!」


 そして今度という今度は、若い警官は上司の命令を拒否していた。

 地元でここ2カ月の間に、勝手に動きまわる等身大フィギュアに襲われ、吸血鬼に襲われ、(ろく)な目に遭っていない。

 そして、ここに来て日本を丸ごとひっくり返しかねない、この怪生物(バケモノ)騒ぎ。

 もはや安定した公務員も、恩給込みの豊かな老後もどうでもいい。若い巡査は、今この瞬間に生きていたかった。

 上司はそんな言葉は聞いちゃいなかったが。


「戦わなければどの道生き残れんのだ! ならば死んで英雄になれ!」

「英雄じゃなくて良いですから生きていたいです!!」


 かつて、動く等身大フィギュアに殴り倒され、吸血鬼に殴り飛ばされた反省を踏まえ、更にパワーアップしたアクション刑事(デカ)、那珂多浩史巡査部長。

 最初に小型の怪生物が目撃されたその時から、防弾ベストにポリカーボネートの防弾盾、そして私物の(・・・)ショットガン(モスバーグM590)アサルトライフル(アーマーライトM16)という完全(フル)装備で、この状況となって多くの警察官の羨望と尊敬を集めてしまって(・・・・)いた。

 直属の部下だけは、それどころではなかった。二階級特進クソ喰らえ。

 しかし殉職の足音は、遂にこの階の封鎖を破り、感染処置病棟のすぐ近くにまで迫って来ていた。


「来たなっ!! 日坂、キミ達はここを守るのだ! 我らもすぐ戻る! 古家、突撃だ!!」

「ハッ! 後武運をお祈りします、巡査部長!」

「巡査部長お気を付けて!!」

「イヤダァアアアアアアアアア!!」


 勢い込んで那珂多巡査部長は病棟を飛び出すと、それに引き摺られて古家巡査も怪生物の前に放り出される。

 無防備な獲物二匹を見止めた途端、くぐもったように喉を鳴らしながら迫って来る怪生物達。

 那珂多巡査部長は、抱き付くように4腕を広げて迫って来る一匹の、ど真ん中にショットガンをブチ込んだ。

 黄ばんだ白い体液を撒き散らしながら、4腕4脚を振り回してもがく怪生物。そこにトドメの一発を撃ち込み、すかさず弾を再装填しつつ、倒した怪生物を足蹴にしてハリウッド的にヒーローは()える。


「死にたい奴からかかって来るがいい! この那珂多浩――――――――――――グァアアアア!!」

 

 が、那珂多巡査部長の戦果はそれまでだった。


「那珂多さーん!!」


 一匹倒しても後が無数に続いているのに口上なんか述べてた日には、アッという間に距離を詰められるのは当然である。実戦暇無しなのだ。


「うっ!? うぉおおお! お、おのれこの那珂多巡査部長を喰おうなど――――――いっ!? ぬあッッ!!」

「な、那珂多さん助けてぇええええ!!」


 4腕4指でガッチリ捉えられ、警察帽の上から頭を(かじ)られるバイオレンス那珂多。ハリウッド的にショットガンも、ジャストタイミングで弾詰まりし(ジャムっ)た。

 パンパンと官給品の拳銃を意外と当てている古家巡査の方がまだ仕事をしていたが、実弾5発など有って無いような物で、撃ち尽くすともはや成す術が無い。


「ななな那珂多さん! ま、マシンガン! マシンガンください!!」

「よ、良しならば受け取れ古家! 俺の屍を越えて行けぇ!!」


 と言いながらも、怪生物と力で拮抗する那珂多はピクリとも動けず、背負ったアサルトライフルはどうやっても手が届かなかった。

 粘液を垂らしながら、(わら)ったように裂ける(あぎと)を開いて這い寄る怪生物の群れ。


「や、ヤダァアアアア! 喰い殺されるなんてイヤだぁアア! 一発自殺用にとっとけばよかったチクショー!!」


 夢中で引き金を引いたので、当然銃の弾倉(シリンダー)はカラ。

 古家巡査は用を成さなくなり、ついでに紛失しても怒られなくなった拳銃をヤケクソ気味に怪生物に投げつけると、警察帽を床に叩きつけ腰の警棒を引き抜く。

 自分の本当の最期を悟り、汗水鼻水ついでに涙を流す若い巡査は、何も考えずにただ警官として、背にした人々の為に怪生物に特攻しようとし、



 その直前に、窓ガラス――――――5階エレベーターホール――――――を突き破り、ハイレグビキニのカウガール系魔法少女が転がり込んで来た。



「フォウッッ! コレいっぺんやってみたかったヒーハー!!」


 世界観とか危機的状況だとか色んな物をブチ壊して乱入して来た派手な少女に、古家巡査も一瞬自分のピンチを忘れる。

 そして、ビキニカウガールは全身からガラス片を(こぼ)しながら、古いショットガン(M1887)連射(・・)し、警官二人に取り付く怪生物を吹っ飛ばした。


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