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いまさら魔法少女と言われても  作者: 赤川
Wave-05 話とか色々大きくなり過ぎたのは誰のせいか
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0032:サバイバルエリアネットワーク

 通話の回線はほとんど使い物にならなかったが、電気は一部地域が停電したものの、ほとんどの地域でインターネットは生きていた。

 国と政府が巨大生物相手に攻めあぐねていた間にも、総合掲示板やチャットでは個人同士での情報交換が続けられている。

 無論、根も葉もない噂やデマ、流言飛語が大半だったが、自分の身を守れるのは自分だけという事実に気付た人間も少なくなく、情報の取捨選択(しゅしゃせんたく)に余念がない。


 羽田から上陸した巨大生物は、品川区を蛇行しながら北西へ。進路上にある物全てを踏み潰し、現在は明治神宮の緑地を寝床に休んでいるらしい、というのが最も確度の高い情報とされた。

 文字通り最大の問題がそれで、寝ていてくれるのなら住民避難の時間が稼げると、自衛隊は周囲1.5キロを封鎖して、それ以上は近づかない。音のうるさいヘリも接近させていなかった。


 そして次の問題が、巨大生物と特徴が酷似する子供らしき小型の怪生物であり、これに関しては都内どころか神奈川や茨城、埼玉でも存在が確認され始めていた。

 1体2体なら警官10人前後で対応出来るが、都心はこの小型怪生物が大量に放たれており、出歩くのは非常に危険とされる。

 なお、これら小型怪生物は、親らしき巨大生物の体表に存在する無数の四角い穴から出て来るのが目撃されていた。

 親は体内に大量の空気を取り込み、体表の穴のどこからでも子供と一緒に噴き出す事が出来、一度に多数噴き出す事で、戦闘機や対戦車攻撃ヘリまで落として見せていた。

 当然ながら、生殖のメカニズムや体内の構造はまるで分かっていない。

 政府と自衛隊内では、あまりの巨大さから体内に観測機を送り込めないかという話が、本気で出ていた。


 巨大生物の動向、小型怪生物の生態と、公開されない政府の動きに関する情報に目を血走らせ、戦々恐々とする人々。

 それらの情報の中に、怪生物を倒し、逃げ遅れた人間を助ける、魔法少女の如き(・・・・・・・)少女達の目撃情報が紛れ込んでいた。

 ほとんどの人間に、どこをどう見てもガセ、と思われていたのは幸運だったのか不運だったのか。


                        ◇


 ワイルドな金髪に(すす)けたテンガロンハット、ハイレグビキニで良く弾むじゃじゃ馬(わがまま)ボディーを惜しげもなく(さら)す、陽気な美貌のカウガール魔法少女。

 『レディ・ストーン』こと荒堂美由(こうどうみゆ)


 同性にモテる麗人(イケメン)ポニーテールと意外な巨乳――――――某生徒会長曰く――――――を赤備えの武者鎧に隠した、戦国武将系魔法少女。

 『島津四五朗(しまづじごろう)』こと武倉士織(たけくらしおり)


 引き締まった、ビキニカウガールとはまたタイプの異なる、起伏(メリハリ)のある身体(ボディ)を露出の多い改造巫女装束に包む、長い黒髪に勝気な目元を朱色のシャドーで飾る、巫女侍系魔法少女。

 『秋山勝左衛門あきやましょうざえもん』ことカティーナ=プレメシス。


 そして、この場に居ないもうひとりの魔法少女、『黒アリス』の旋崎雨音(せんざきあまね)を探し、3人の魔法少女は無法地帯と化した東京へ入っていた。

 携帯電話による通話はともかく、メールによる通信はまだ生きている。にもかかわらず、雨音からは返信がこない。

 それでも巫女侍は闇雲に当てもなく探し回っていたが、羽田空港に来た乗馬組ふたりの魔法少女が合流してからは、情報収集を基本にした捜索に変わっていた。


 その情報に(いわ)く、ライフルを持った金髪のメイドが立て篭もる、メイドカフェがあるのだとか。


 場所は秋葉原。これだけで黒アリスとは断定出来ないが、ネットでの情報を得た3人の魔法少女は、千代田区外神田を目指して移動を開始。

 だが、大田区から品川区に入るかどうかという所で、偶然に怪生物に襲われている一団に出くわした、というワケだ。


                        ◇


 時刻13時33分。晴天。

 少し遠回りになるが、3人の魔法少女達は8人の避難住民を護衛しながら、彼らの目的地である病院へ向かう事となった。

 地上8階地下2階でヘリポート有りの中程度の病院だが、医療施設であり地下も有る、という事で東京を脱出し損ねた人間が多く集っているという。

 同様に、定番の学校や地域の警察署、大型百貨店といった大きな箱には、多かれ少なかれ人々は逃げ込んでいた。

 どれほど巨大な建築物でも全長600メートルを超える生物の前では意味を成さないだろうが、それでも人々は寄り添わずにはいられないのだろう。


「で……あんたらは一体何なんだ?」


 ヒゲを生やし白髪混じりの髪をオールバックにした、ガッチリとした壮年男性が馬上の少女を見上げる。

 避難民のひとりで、戦場に行った経験もあるカメラマンなので、避難住民の中では一番度胸が据わっていた。


「そうねー…………東京という荒野で自由を求めて戦う一匹狼のカウボーイ、って所かしらん?」

「……この状況でその科白(セリフ)が出るストーン殿を尊敬するでござるよ」


 テンガロンハットを抑えてニヒルに言うビキニカウガールに、同じく馬上の鎧武者の少女が呆れたように言う。面具があるので呆れ顔は見えないが。

 助けられたとはいえ、他の会社員と学生、恋人らしき男女、子連れの夫婦、避難して来た人々は、壮年のカメラマンと同じ疑問を持っていた。

 特にビキニカウガール。こう言ってはなんだが、この状況では思考回路がブッ飛んだヒトにしか見えない。

 魔法少女の悲しい宿命だが、キチンと常識を持ち合わせる雅沢(みやざわ)女子学園高等部生徒会長は、この姿に誇りすら持っていたりするのだった。

 しかし、平時ならば通報ものだが、この状況で心強いのは確か。鎧武者などは迫力満点である。


 一団は、第一京浜道路を北に向かって移動していた。

 片側2車線の道路は見晴らしが良く、怪生物に見つかる危険はあったが、狭い場所で襲われる方が危険と判断した上でのルート選択だ。

 道路の真ん中で車両が放置され、開けっぱなしの自転車店やカーディーラには人影など皆無。隠れている人間もいるかもしれないが、どこまで行っても無人の街といった様子。

 ビキニカウガールの言う事ではないが、今の東京は荒野と呼ぶに相応しいのかもしれない。


(つっか)れたー……なぁちょっと休まね?」

「賛成ー。ねぇまーくん? マック行きたくない?」


 そんな中、恋人同士らしき男女が口々に疲れを訴え、その場に座り込んでいた。

 一か所に留まるのは危険な行為だが、緩み切った口調で緊張感がまるで無い。


「や、休みたい人間は休んで行けばいいんじゃないかな……? で、でも私は早く病院に行きたい……」

「あ? 何その言い方?」

「ねー、協調性ないよねー」


 ワイシャツの会社員の科白(セリフ)に、短気にも気色ばんだ男が食ってかかる。女の方も軽蔑の視線を送るが、果たして協調性が無いのはどちらなのか。


「だいったい何キロ歩かせるんだよ! あとどれくらいで着くんだよ! 誰か何とかしろよ!!」

「そうだよこんな所まで連れて来られたんだから責任取ってよ!」


 無音の街中に、若い男女のヒステリックな喚き声だけが反響していた。

 近くに怪生物がいたら、間違いなく捕捉される。

 誰もこの二人に付いて来いなんて言っていない。誰かが逃げると言った時に、後の7人が同じように逃げ出して、たまたま集団が出来ただけだ。

 住んでいたマンションに留まるという選択が出来なかった、完全に自己責任だった。

 とは言え、怪生物の襲撃から既に1時間。それ以前からも歩き通しで、特に小さな子供は真っ赤な顔で疲労の色が濃い。

 外回りの営業なら日常茶飯事なのだろうが、他はそうもいかなかった。

 だが、


「キープ、ゴーイング、デース……。ゆったり散歩してるちゃうデスよ……? 来ないなら置いてくだけデスねー………」


 双眸をギラギラさせた巫女侍が、低く響くドスの効いた声で言い放つ。

 その物言いに咬み付こうとした軽い格好の若い男は、巫女侍の発するプレッシャーに負けて、口に出かかっていた言葉を引っ込めた。

 巫女侍のカティは、雨音が居なくて、もう色々と限界だ。

 本来ならば避難住民どころかビキニカウガールも鎧武者の少女も知った事ではなく、ただ雨音を探しに行く事だけに全力を注ぎたい。

 それを、闇雲に探しても見つからない、という鎧武者の少女の言葉に納得したからこそ、こうした回り道を我慢しているのだ。

 見捨てて行って、後からそれが雨音にバレるのが恐かった事も微量にあったが。


「く……黒アリスさんを一刻も早く迎えに行くデスよ……。でないとカティは……カティは……」


 刀を持ったバカ力の巫女さん(?)が、フラフラしながら殺気を撒き散らすのはかなり怖い。しかも何故か片言。

 中身が生粋の古米国(オールドアメリカ)産金髪娘なので仕方なかったが、そんな事他の人間には分からなかった。


「むぅ……なにげに巫女侍ガールが一番精神状態(メンタル)ヤバいなー……」


 実は空港から連れ出す際も、説得が大変だったのである。何せ身体能力で見れば、ビキニカウガールや鎧武者の少女の上を行く。

 雨音を探しに行きたいのは、ビキニカウガールや鎧武者の少女も同じだ。

 だからと言って、8人の避難住民も捨て置けない。

 付き合ってるらしい若い男女の自己中心的な言葉に従うのはしゃく(・・・)だが、休憩を入れるのも悪くない。

 さりとて、巫女侍はもはや僅かな足踏みも許容できない様子。

 こうして見ると、女子学園の生徒達はみんな素直で扱い易い(・・・・)なぁ、と思ってしまう生徒会長のビキニカウガールだった。


「……どうしよっか、四五朗(ジゴロー)?」

「そうでござるな…………」


 馬を並べて話しを振られた鎧武者も、大筋の意見はビキニカウガールと同じ。

 ただ、黒アリスに関しては焦っても仕様が無いし、何より黒アリスは魔法少女の中で、最も事態の打開能力が高いと思われる。生きているのなら、それほど心配する必要もないのでは。などと、巫女侍には言えないが。

 それに、鎧武者の魔法少女として、避難住民を見捨て行くという選択肢はあり得ない。

 ならば、問題は巫女侍の方をどう(なだ)めるかという話になってしまうワケで。


「……マクドネルで休憩を入れるというのは悪くないかも知れんでござるな。LANが使えれば、そこで改めて黒衣殿の動向も探れましょう」

「おぉ!? いいね四五朗(ジゴロー)冴えてる! (サムライ)のクセに」


 外見は鎧武者でも中身は今時の女子高生(JK)だ。携帯電話をローカル(L)エリア(A)ネットワーク(N)で使うくらいの事はする。

 護衛のビキニカウガールや鎧武者がそう言うなら、と避難住民も納得した。口には出せなくても、皆疲れていたのだ。

 巫女侍も、黒アリスを探す為に、と言われては否とも応えられず、不承不承に鎧武者の少女の提案を受け入れていた。


 空は初夏の青空なのに、地上は薄暗く、先行きは曇り空。

 一団は声を殺し、周囲の音に耳を澄まし、影の中に隠れるようにして進んでいた。


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