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いまさら魔法少女と言われても  作者: 赤川
Wave-05 話とか色々大きくなり過ぎたのは誰のせいか
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0028:遂には核も解禁かと血迷い

 午後5時15分。

 東京、羽田空港上空1500メートル。

 両翼4発のターボプロップエンジンが、兵器、砲弾の詰まった約70トンの大型機を重力に逆らい押し上げる。

 プロペラ機特有の低速でも安定した飛行で、空気を弾く音を立て、悠々と大空を舞う灰色の軍用飛行機。


 局地制圧兵器。AC-130U、スプーキーⅡ。


 傑作輸送機であるC-130、ハーキュリーズを、その積載量丸ごと兵器の搭載に用いた火力の塊。

 その圧倒的な攻撃能力から、ファイヤードラゴンの異名を取る。

 上昇を止め水平飛行に移ったAC-130(ファイヤードラゴン)は、機体を大きく左に傾け旋回を開始。

 空港を中心に据え、緩慢とも思える挙動で身を(よじ)る空飛ぶ戦艦。

 その機体左側から突き出た砲身、105ミリ砲が眼下へ向けられ、地上から天の飛行機へ長大な(かいな)を伸ばす巨大生物へ、秒速約700メートルという初速で榴砲弾を直撃させる。


                        ◇


 所属不明のAC-130が空港を戦場に変える、30分前。


 変化は、岩に水がジワジワと染みて来るように、あるいはそれが蒸発していくかのように、静かににじり寄って来ていた。

 何が起こっているか分からない。何が起こっているようにも見えない。だが、まるで街全体が浮足立ち、落ち着きを無くしてるかのようだ

 何事もない日常に染み込んで来るモノの正体は、『事実』だ。

 致命的な事態はすぐそこにまで来ているという情報は在るのに、常識や手間を惜しむ心がそれを放置し、しかし忘れようとしても忘れられない。

 不安要素を確証もなく『大丈夫』と言い聞かせてた所で、人間は不安を払拭(ふっしょく)できない。

 そして、情報が全て事実なのが救いようが無かった。


「怪獣? マジで? あり得なくない??」

「どこ? 空港? 見に行ってみようか?」

「えー? あたし昨日見たよー。マジでキモかったしー」


 いきなり『結婚しろ』とかワケの分からない事を言い出し、拒絶されたと思い込んで泣いて逃げたカティ(♀)を追っていた雨音(♀)だったが、通りすがりの女子高生(JK’s)3人組の、こんな会話を小耳に挟んでしまうあたり、いよいよ事態は本気で洒落(シャレ)にならない方向に向かっているらしい。

 携帯電話でカティを呼び出そうとしていたが、15分ほど前から『通信が込み合っております』というメッセージと共に使えなくなっていた。これまたヤバい。

 辛うじてメール機能は生きているようで、雨音は知り合いにメールを一斉送信。

 途中、たまたま通りすがった百貨店一階家電売り場でテレビを見たが、『東京湾から羽田空港に巨大な生物が上陸して来た』という報道はされているのに、誰も彼もがどこか他人事。自分に災いが降りかかるなんて、誰も思っていやしない。

 それに、警察や自衛隊は動いているという気配すら見られなかった。


「こりゃ…………ダメっぽい」

「どうするの、アマネちゃん?」


 あまりにも平和で、もしかしたら心配し過ぎかも、と雨音自身分からなくなるが、(かたわ)らのジャックの言葉で我に返り頭を振る。


 自分は見ているのだ。あの巨大生物が船を襲い、多くのヒトを襲った場面を。

 

 フと周囲を見ると、学校帰りの学生がタコヤキを買い、親子連れが買い物袋をぶら下げ、スーツ姿の男性が早足で駅の方へ向かい、派手な格好のおばさんが犬の散歩をしている。

 そんなに平和な日常の風景の一方で、良く見れば血相を変えて走っている人間がおり、明らかに法定速度を超過した危険運転のクルマが突っ走り、上空には多くのヘリが一方向へ飛んで行く、ただ事ではない気配が漂っている。

 これまでの経験故か、何が起こっているのかを正確に知っている為か、雨音は今この瞬間が()なのかもと、そんな事を感じていた。


「カティは後回しね…………。行くわ、ジャック」

「うん……!」


 少しの間、ボーっとしていたように見えた雨音だが、思考は今後の事を考えてフル回転していた。

 カティの事は気になる。正直一番気になる。何を置いても探しに行きたい。

 だが、この後雨音の予想する通りの事が起こるのならば、カティだけではない全ての人間に災禍が降りかかるだろう。


「あの()の言う通り、正義の魔法少女の真似事でもやってみましょうか…………」


 どこぞの巫女侍に毒されたか、といつの間にか魔法少女な自分に違和感が無くなって来たのにやや呆れながら、雨音は真横にあった地下駐車場の中へ。ジャックもそれに続く。

 直後、駐車場のスロープから飛び出して来る、モスグリーンとブラウンの迷彩色を施された角ばった軍用車両。

 それは、上部の架台(タレット)に12.7ミリ重機関銃(M2キャリバー)搭載している(・・・・・・)軽装甲機動車(LAV)だった。

 飛び出して来た軽装甲機動車(LAV)には、女子高生の旋崎雨音(せんざきあまね)ではなく、ミニスカエプロンドレスの銃砲兵器系魔法少女、黒アリスが乗っている。


「アマネちゃん! ホントにそれ(・・)隠さなくて良いの!?」

「これから死ぬほどド派手にやろうってんだから、こんなので走りまわっている方が見てる人も分かり易いわ」


 ニヤリ、と悪い笑みの黒アリスの目論見通り、威圧的な迷彩塗装の軽装甲機動車(LAV)に乗っかる本物の銃器は人々の目を引き、未だどっち付かずの危機感を大いに(あお)っていた。

 普段は外して隠しておく銃砲等違反のブツだが、どうせすぐに警察も忙しくなるので、その辺も無視である。

 とは言え軽装甲機動車(LAV)ではそれほど距離を移動せず、警察に見つかる前にある大学に入った黒アリスは、建物屋上のヘリポートに侵入してヘリに乗り換える。

 交戦を想定し、初っ端から武装ヘリのハインド(Mi-24VM)を出して空港に急行したが、実物を見た事のある黒アリスでさえ、地上に出て来た巨大生物の姿には度肝を抜かれてしまった。


 そして、すぐさま判断する。コレ(ハインド)じゃ非力過ぎる。


 考えれみれば、相手はイージス艦の対潜ミサイル(アスロック)を喰らってもビクともしない怪物だ。ハインド(Mi-24VM)の対戦車ミサイルを全弾喰らわせた所で、倒せるとは思えなかった。

 今からその怪物相手に戦争を仕掛けるのかと思うと気が遠くなったが。

 だがしかし、黒アリスには巨大生物に対して果たさねばならない雪辱もある。

 では、巨大生物の侵攻を足止めし、人々に事態を認知させる派手な砲火をブチかまし、乙女の矜持にデカイ(ヒビ)を入れてくれた怪物に、一体どんな兵器でお返しを喰らわせてやったものか、と。

 選択の結果は、前述の通りである。


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