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いまさら魔法少女と言われても  作者: 赤川
Wave-05 話とか色々大きくなり過ぎたのは誰のせいか
158/592

0023:波打ち際パトリオット

 ある日曜日。午前7時前後。

 関東を中心にした海岸、船着き場、防波堤などの海に面した場所から、非常に大型(・・・・・)の生物が多数上陸。

 警察や行政には目撃情報だけに留まらず、その生物に襲われたという通報が相次いだ。

 地域の警察は、最寄りの交番や警察署から警察官を派遣。警察官は、労するまでもなく問題の生物を発見する。

 筋肉の膨れ上がった胴体に、骨と皮だけの様な長い8本の手足。灰緑をしたデコボコの体表にのっぺりとした頭部で、大きく裂けた口には無数の細かい歯が並ぶ。頭部の左右には、白く丸い器官が不規則に群生している。そして、その体長はというと2メートル前後。

 警察官とは言え人間である。普通に恐い。

 それに酔っ払いやひったくりを相手にするのとはワケが違うのだ。

 しかも、その生物は非常に獰猛(どうもう)かつ力も強い上に素早く、捕獲しようとして逆に襲われる警察官が続出。

 その後警察が総出で捕獲作戦を展開するまで、問題の怪生物は自動販売機や駐車してたクルマを破壊し、通行中の一般人を追い、建物に突っ込み無理矢理入り込むなど大暴れする。

 多くの人々が怪奇生物の姿を目撃すると同時に、多数のテレビカメラにも、ハッキリとその全体像が捉えられていた。


                        ◇


 そして、同日曜の午前6時50分。

 東京某所の防波堤。


 偶然か何か理由があったのか、5人の魔法少女の固まっていた波打ち際に、十体以上の怪生物が上陸。

直後に、間近にいた5人の少女に奇声を上げて襲いかかる。


「ォア゛ー! ァア゛ー! ア゛ー!!」

「ッでぇえええええええりりゃぁああああああああああああああああああ!!」


 だが、戦国武者系魔法少女の島津四五朗(しまづじごろう)、恐怖や怖気(おぞけ)を振り払い、己を鼓舞する烈迫の気合。

 その叫びは怪生物の奇声を跳ね返し、高速で突っ込んで来る相手に真っ正面から槍を叩き込む。


「オア゛――――――――――!?」

「んぅうううッッ!!」


 鎧武者の少女は怪生物を貫いたまま、槍を振り上げ別の怪生物へと叩きつける。


 

「ホッ! ……とぉ!」


 一方、ビキニカウガールは別方向から上陸して来た怪生物へコルトSAA(ピースメーカー)高速曲撃ちファニング・バーストショット。連射機能など無いシングルアクションのリボルバーを、握りとは違う手で撃鉄(ハンマー)を弾く事で可能とする、超高速の6連射。

 ストッピングパワーのある45長口径コルト弾を、怪生物の左胸ほぼ一点に叩き込んだ。

 しかし、人間よりも大型の怪生物はそれだけでは倒れず、弾を喰らったところから白い体液を噴き出しながらも、ビキニカウガールへ突っ込んで行き、


 大口を開けた所へ、ビキニカウガールは背負っていたショットガン突き付け散弾を撃ち込んだ。



「ま、マジカルワッパー!! アンドスラッシュ!!」


 チビッ子魔法少女刑事(デカ)が、魔法の伸縮式警棒(ステッキ)を振るうと、そこから黒い手錠が滑るようにして放たれる。

 放たれた手錠は3つ。それぞれが怪生物の足を縛り、あるは2匹を縛りつけ、そこに超音速の警棒突きを叩き込んだ。


「ゲァ……ゲー!!」

「ぅヒィッッ!?」


 ところがと言うかやはりと言うか、普通の人間なら骨くらい砕きそうな打撃も怪生物には効果が薄く。

 肉に警棒をめり込ませたまま、怪生物は魔法少女刑事(デカ)へ大口を開ける。

 近距離のチビッ子魔法少女刑事(デカ)は怪生物の口臭に気が遠くなるが、


「むぁッ!? マジカル……ライアットシールド!!」


 出現させた透明な防弾盾を大口に叩きつけ、口臭と無数の歯による咬み付き攻撃を阻止。

 渾身の力を込めて、警棒をのっぺりとした頭の頂点へと振り下ろす。

 固い体表を突き抜け、衝撃が内側の何かを砕く手応えが魔法少女刑事(デカ)の手に返って来た。


「た……倒した?」


 怪生物の一体が倒れ、魔法少女刑事(デカ)の気が僅かに緩む。

 が、その瞬間、


「エ゛ララララララララ!!」

「ッ――――――――――!!?」


 倒したと思った怪生物が長い腕を伸ばし、魔法少女刑事(デカ)の足が掴まれてしまった。

 筋肉なんかついてなさそうなくせに、骨を握りつぶすかと言うほどの力がチビッ子魔法少女刑事(デカ)(スネ)に加わり。

 そして、50口径の爆音がそれを阻止した。



「ジャック! 重機関銃(M2キャリバー)掃射!!」


 魔法少女刑事(デカ)が倒し損ねた生物を撃ち抜いた黒アリスは、間髪入れずに次を発射。

 魔法の杖ガンスミス・リボルバーから叩き出された弾丸は、次の敵には向かわず黒アリスの目前で静止する。

 高速で回転してた魔法の50口径弾は、一瞬で体積を数十倍に増やして軽機関銃(M249Para)へ変化。

 黒アリスは握り(グリップ)を掴み取るや、腰だめで怪生物達へ向け発砲を開始。同時に、指示を受け、防波堤入口の10式戦車に居たジャックも、砲塔上部の重機関銃(M2キャリバー)による援護射撃を始めていた。

 鎧武者の刀で、ビキニカウガールのショットガンで、魔法少女刑事(デカ)の警棒で、そして機関銃で吹き飛ばされていく怪生物の群れ。

 その時、黒アリスのすぐ脇の海から、怪生物が不意を打って飛び出して来る。


「ピッチャー返しー! デェェエエエエエエス!!」


 そこを直撃する、巫女侍の一本足打法。

 三尺三寸の打刀としては長過ぎる大刀で、見た目と違い過ぎる怪力の巫女侍が怪生物を打ち返す。

 怪生物は腕3本と胴を纏めてへし折られ、宙を錐揉みしながら海中へと叩き込まれた。


 この後、鎧武者の少女が更に一体叩き斬り、ビキニカウガールと魔法少女刑事(デカ)が2人して銃弾を叩き込み、例によって黒アリスが弾丸をバラ撒いて怪生物を殲滅する。

 しかし、動く物が見えなくなっても、安心は全くできなかった。


「おおお終わりでござるか……? もういないでござるか!?」


 先ほどまでの勇ましさはどこへやら、槍を低く構えて周囲に気を張り巡らせ、声を震わせている鎧武者。

 

「年齢詐称刑事(デカ)が、『一体だけじゃない』とか言ったから大量に出てきちゃったんじゃん?」


 いつも通り、陽気な軽口風に言うビキニカウガールだったが、周囲に転がる謎生物とそれが発する痛いほどの臭気で科白(セリフ)がやや固い。


「私のせいみたいに言わないで欲しいなー…………………………違うわよね?」


 防弾盾、伸縮式警棒、それにニューナンブM60(ジャスティスマグナム)というフル装備のチビッ子魔法少女刑事(デカ)が文句を言うが、現状を鑑み若干自信が無さげだった。そんなワケないのだが。


「黒アリスさん、だいじょぶデス? 生きてマスかー?」

「…………もう帰りたい」


 怪生物の体液に濡れて汚れた大刀『深海』に眉を潜めて言う巫女侍に、鉄火場で復活を見せた黒アリスが消え入りそうに返す。とは言え完全復活というワケでもなく、今も見ているようで、実は何も見えていない。

 それでも戦闘経験値故か、黒アリスが機械的に手持ちの軽機関銃(M249Para)魔法の杖(リボルバーキャノン)再装填(リロード)するのを見て、ビキニカウガールと魔法少女刑事(デカ)も慌ててリボルバーの弾を入れ替えていた。


「ジャック!」

「うん、援護(カバー)してるよ!」

「いい子ね。そっちから敵は見える!?」


 仲間が再装填(リロード)中に他の者が援護(カバー)するのは常識だ。雨音の場合は映画知識でしかないが。

 だが実際、雨音は魔法少女初期の頃に散々弾切れをやらかして痛い目を見ている。

 以来、大弾数武器を好んだり、サイドアームを用意したりとその辺に余念がなかった。

 

「ここからは何も見えないけど……」

「戦車のセンサー使って! IRカメラ!」


 ジャックに指示を出す一方で、黒アリスも軽機関銃(M249Para)に装備してある赤外線スコープで周囲の海をくまなく探す。

 必死な黒アリスの様子に、ビキニカウガールや鎧武者の少女も海面を見回してみるが、花曇りの下で多少海面下が見やすいと言っても、表層より下を見通せるほどではなかった。


「もう……いないんじゃないかしらね、黒アリスガール?」

斥候(スカウト)……って可能性もありますけどね、今の」


 先の見えない海が、すぐ足元にある。

 陸に居れば安全、という固定観念が崩れてしまった今、そこは確率50%の箱に等しい。

 このヴェールのすぐ下に、想像を絶するほど巨大な何かがいてもおかしくないのだ。


「ここから離れた方が良いわ……私もすぐに本庁に戻らないと」


 チビッ子魔法少女刑事(デカ)の言う事には大賛成で、全員揃って、しかし海に背中を見せず自然と早足の背中合わせになりながら防波堤を出る。


「黒衣殿は…………これからどうなると見るでござる?」


 海から離れ、一安心と言った感じの鎧武者の少女が黒アリスに問うが、そんなのは雨音の方が聞きたいと思う。

 だが、心配性で小心者で小賢しいという救いようのない三拍子を備えてしまう少女には、今後起こり得る最悪の展開と言うものが想像出来てしまった。


 防波堤を出て家――――――または職場――――――に帰った魔法少女達は、ニュース速報や通報によって現状を知るに至り、黒アリスの想像する最悪の事態が、既に始まっているのを理解する。


 それだけでも十分過ぎる一大事なのに、雨音とカティにはまた別の災難が降りかかろうとしていた。


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