0004:乙女的に絶対負けられない戦いがそこにはある
実は小心者な旋崎雨音が、友人を見失い死ぬほど心細い思いをしていた所に加えられる、手加減無用のサイドアタック。
「グエッッ!!?」
華の女子高生にあるまじき呻き声を上げる羽目になった、いつもはクールな雨音さん。
そして、襲撃者、カティーナ=プレメシスという古米産の金髪娘は、基本的に「手加減」という日本語を知らない。
「アハハハハ! ローゼキモノ(狼藉者)のアマネを打ち取っりデス!」
「…………」
飛び付かれた、と言うか轢かれたノリの雨音は、右に小型のクラスメイトをぶら下げ、左にあった自販機に頭から突っ込み、グウの音も出ない心境にあった。
◇
素人相手の尾行など、それほど難しくもないだろう。雨音はそう考えていたが、甘かったと言わざるを得ない。
カティは路上駐車しているクルマを横切った際、サイドミラーに写った雨音の姿を見ていたのだ。
しかもこれは、偶然というワケでもなかった。
「それでー、アマネはどうしてカティをチェイスしてましタ? 泳がせて黒幕の所まで案内させる気でシタ? ザンネン、カティのバックには勘定奉行も老中もいないのデス!」
「で……でしょうね」
相変わらず、日本文化における時代考証がズレてそうで、カティは今日も平常運転である。
確かに、この時代に弱い者を踏みつけにして賂を受け取ったり、黄金色の饅頭をかっ喰らう汚職勘定奉行や御老中はいないだろう。
だが、その代わりに国民の血税を流用したり着服したり、業者選定に便宜を図ってバックマージンを受け取ったり、歳出ばかり増やして増税の事しか考えない腐れ政治家は山ほどいる。
時代が変わっても、この辺の構図は変わっていないのだった。
それはさて置き。
カティの背後にお奉行も老中も若年寄も大臣も政治家もいないのは分かっていたが、もっと碌でもない、普通じゃない存在が関わっている、かもしれない。
雨音はそれを確かめたくて、かと言って確かめる確実な手立ても無いまま、こんな所まで友人の後を付けて来てしまったワケだが。
「……あのね……いや………何と言っていいのか…………」
いっそストレートに訊いてしまった方がスッキリするかも。
とも思う雨音だったが、どうにも言葉が出て来なかった。
そんな挙動不審なクラスメイトを見て、芽生えさせるイタズラ心が顔に出始める金髪娘。
「エエーイ吐かないならカラダに直接聞いてやるデスッッ!!」
「は? え!? ぅギャァァアアアァアちょっと待ったこんな所でやめなさいバカ娘!!!」
「問答無用デース! 良いではないカ良いではないカー!!」
この日本文化大好きっ娘は、何を勘違いしたか生娘独楽回し――――――着物の帯を引っ張っる例のアレ――――――をコミュニケーションかプレイの一形態と思い込んでおり、雨音にも時々仕掛けていた。
しかし、現状そもそも着物なんて着てない雨音さんだと、制服を剥かれるだけなので、生娘独楽回し全然関係無い。
これをクラスでやられるのだって大問題なのに、ここは天下の往来。
「待て! 待ちなさいカティ――――――わああああああ!? アンタどこで何をしてんのよ!!?」
「ウヘヘヘヘ、いまさら恥ずかしがる仲じゃないデスねー。アマネの恥ずかしい所は何度も見てるデース♪」
「殺すぞこのヤロウ」
公衆の面前。
パッと見可愛らしい女子高生どもがジャレ合ってるだけなので微笑ましいと言なくもないが、既にパンツを引き摺り下ろされていた雨音には、乙女としての死が迫っていた。
◇
雨音は必死の格闘戦の末、体格差を利用してのヘッドロックでどうにか不埒なセクハラ娘を仕留めたものの、問題が何ら解決してなかった事に気が付く。
このままでは単なる徒労。
しかも、意外とめげない金髪娘の、笑顔の追及は終わっておらず、
「彼氏でも出来たのかと思って、こっそり後を付けて来ちゃいました」
と、言ってる雨音本人も、「テメーこんなキャラじゃねーだろ」と無理筋の科白を吐く自分の胸座を掴みたくなった。
どうにかそれで誤魔化したが。
「えー!? そんなのいないデース。心配しなくても、カティはアマネ一筋デスよー」
このように眩しい笑顔で返されてしまい、小っ恥ずかしいやら申し訳ないやらの雨音さん。
たが、実は自分の方が誤魔化されていたのには気が付いていなかった。
そもそも、カティはこんな場所で何をしていたのか。
何を探し求めていたのか。
事の起こりは、雨音を異変が襲ったのと同じ、昨夜の話になる。




