0013:女たちの武蔵/MUSASHI
戦艦『大和』と言えば、約200年前の第2次世界大戦中に建造された、当時世界最大で、史上最大となった戦艦である。
第3次大戦後に同型5番艦の建造が本気で計画されていたが、その後計画中止となった為に、大和型戦艦はネームシップである1番艦『大和』と、2番艦の『武蔵』のみとなった。
その2番艦『武蔵』は全長263メートル、全幅約39メートル、排水量約73000トン。46センチ三連装砲、15.5センチ三連装砲、12.7ミリ連装高角砲、等、艦体にハリネズミの如く武装多数。
1944年10月24日、米軍機の空襲により撃沈。その沈没地点は当時の帝国海軍、武蔵搭乗員、撃沈した当の米軍で記録が異なっており、沈んだ艦体は現在に至るまで発見されていない。
ちなみに、乗員だけで3300名が搭乗可となっている。
◇
バタバタと激しく空気を叩き、輸送ヘリは戦艦『武蔵』の艦首甲板、46センチ3連装砲の真前に着地した。
着陸するや、機内から飛び出して来るのが、ミニスカエプロンドレスの金髪娘に、露出を増やした巫女装束に、着崩して肩を出したセクシー和服の女に、一際背の高い黒いスーツに厳つい体格を押し込むタフガイ。
4人は広大な無人の甲板を、艦橋構造体へ向かってまっしぐらに駆ける。
同じ頃、その艦橋から乗艦して来た4人を見ていた白い軍服の少女は、成す術もなくガクガクブルブルと震えていた。
「か、艦長! 艦橋を閉鎖するでありますか!?」
「え!? ぅ……いや……」
旧帝国海軍の二種略帽を被る下士官からの意見具申に、艦長の軍服少女は言葉に詰まる。
そうしたいところだが、そんな事をしたら、いったいどんな報復が待ち受けるのか。
以前、艦長である彼女とこの艦は、あのミニスカエプロンドレスの金髪少女によって、えらい目に遭わされているのだ。
そして、迷っている間にも輸送ヘリで乗り込んで来た4人は、艦橋構造体を駆けあがり、軍服少女のいる艦橋へ近づいて来る。
乗り込まれた時点で、艦長である軍服少女に出来る事など無かった。
「どーも、お久しぶり、です」
「今日は海賊船は一緒ちゃうデスー?」
「何しに来たのでありますかぁぁああああああ!?」
艦橋の扉がド突き倒す勢いで開かれ、白い軍服少女は腰を抜かしてへたり込んだ。
そんな怯え慄く『武蔵』艦長の少女に対し、黒アリスと巫女侍の挨拶は、実にあっさり軽いものだった。
豪華客船ヘイヴン・オブ・オーシャンと乗員乗客は、あと1~2時間で海中に消えるであろう。
謎の巨大怪獣に救助の船は半分沈められ、その怪物は今も生きていて、どこに行ったか分からない。
黒アリスである雨音の魔法では、全員を救助する手立てが無い。
どうにか貨客船の乗員乗客約7000名と、船を失った海上自衛隊員を救助する術は無いものかと。
そんな時に黒アリスの無人攻撃機が発見したのが、以前ちょっとばかり関わった事のある、失われた巨大戦艦『武蔵』と、その主である白い軍服の魔法少女だった。
初見ではない黒アリスだって驚いたのだ。自衛隊員の驚きは、尋常ではなかっただろう。
「あなたこそ何してるのこんな所で? もしかして、豪華客船の救助の手伝いにでも来た?」
世間話でもするように言う密航者(?)の黒アリスに、下士官に引き起こされている軍服少女の艦長は今にも泣きそうな表情。
黒アリスに対艦ミサイルで吹っ飛ばされたのが、よほどの恐怖体験となったらしい。
「そ、そうだ、で、あります……よ? ニュースで見てから、無線を聞いて近くに来てたのだ……であります」
「それから、海自や海保がいるのに手伝う事は無いとは思うけど、『もしかしたら』って、こっそり近くまで来てた?」
「そ、その通りで有りますが…………」
つまり、黒アリスの雨音と同じ事情であった。
それを聞き、黒アリスが感心したように頷く。
出会った時にはとんでもないハタ迷惑魔法少女だったが、この娘も根は悪い魔法少女ではないようである。
あるいは、海賊魔法少女と絡んでる時のみああなのか。
「ってか無線機使えるんだ…………。あたしも使えれば良かったけど」
「……海に出るのに無線機使えないのでありますか? それで『しもかぜ』の呼びかけにも応答しなかったのでありますね。海上自衛隊の言っていた『イージス艦』と言うのは貴女の事でありましょう?」
「あー……ほら、あたしそっちは本職じゃないし……。ところでさっきからなんでその……敬語っぽい?」
何となく無線技術必須な気がしていた雨音は、物知らずな自分が気まずく、艦橋の窓から明後日の海に視線を投げていた。
実際聞くと申し訳ない。
イージス艦の自分達を援護してくれた護衛艦『しもかぜ』は、支援する旨を無線で何度も伝えてくれていたのだとか。
「ま……こっちも死ぬ気であのバケモノ追っ払ったんだから、それで許してもらうわ」
「やられた船からも、ちゃんと脱出してましたデスしね」
巫女侍のフォローというだけでもなく、派手に押し潰されたように見えた護衛艦『しもかぜ』からも、乗員は全員脱出していた。
だからと言って黒アリスも、言葉通りに許されて良いとも思ってはいないが。
第一、まだ全てが終わったという事でもない。
「無線で聞いてたんなら状況は分かってるわね? 海保と海自は残った船で、沈みかけた船に乗ってるヒト達と船沈められた海自のヒト達、全員を助けられるの?」
「はっ……? いや、多分収容はし切れないだろうけど、可能な限り民間人を優先して救出すると横須賀には…………」
「そう、イヤな予想通りってか。じゃ行きましょうか」
「…………え? どちらへ、でありますか?」
当たり前のように言う黒アリスに、イヤな予感しかしない白い軍服の『武蔵』艦長は、半分答えの分かっている問いを口にしていた。




