0003:カッコつけてサバゲ部設立とかは言い出せなかった
旋崎雨音を魔法少女にした『ニルヴァーナ・イントレランス』とやらは言っていた。
「適性を持つ者に、特別な能力を与えた」と。
しかし、思い返してみれば、その「適性」とかいうモノが「希少」、あるいは「特別」だとは言ってなかった。
あるいは「適性」というのは、人間が普遍的に持つモノなのかもしれない。
そんな事を考えつつも、雨音はその可能性を否定したいところだった。
「いや無い…………無い無い無い。選りに選ってカティだなんて……。そんなね、知り合いやクラスメイトを狙って選んでるんかい、って話で………」
あの連中ならそれもあり得る。と、思えてしまうのが、また絶望的。
雨音はクラスメイトで友人の古米国産金髪娘、カティーナ=プレメシスを尾行しつつ、胸中の不安を振り払えずに内心で身悶えていた。
◇
カティが語る、昨夜見た奇妙な夢の話。
雨音は脳がその話に拒絶反応を起こし、詳しい事を聞く前に、不自然に話題を変えてしまった。
それから時が移り、昼休みから放課後となり、雨音は地味に後悔していた。
カティから話を切り出された時に、やっぱり全文聞いておくべきだった、と。
昼休みが終わってからの第五限では、雨音はとても授業(生物)どころではなかった。
あの威勢だけは良いヒヨコのような友人が、何やらとんでもない混沌の泥沼に足を突っ込んでいやしないか。
なんかもう致命的に手遅れでどうにも手の打ちようが無いんだよー、と雨音の中の誰かが言っている気がしたが、そんな意見は友人として断じて認めねぇ。
真偽が気になって――――――決して元素記号を覚えるのが面倒だからではなく――――――授業も手に付かず、気が付けば雨音はカティの方ばかりを見ていた。
それを教師に見咎めらたりしないようにするのが、旋崎雨音という少女の小賢しさではあった。
そして終業後、
「あー……カティ? 今日は帰りどうするの? またカラオケでも行ってみる?」
精一杯自然な風を装い――――――切れずに、雨音は友人の金髪娘に接近していた。
ちなみに、雨音もカティも部活動には所属していない。どちらも趣味に合った部活が無かったからだ。
このふたりの趣味に合う部活の方が、珍しいと思われたが。
お互い帰宅部であるという共通点も、ふたりを接近させる要因だった。学校帰りに遊びに行った事も何度かある。
雨音がカティを遊びに誘い、高校生らしく無駄話に花を咲かせ、その過程でのっぴきならない重大かつ決定的な事実なんぞがポロリと出てくれば、と。
雨音はそんな事を考えていたが。
「オー、ゴメンなさいアマネ。今日は探し物があるデスよ」
「買い物、とか?」
雨音の問いに、カティは笑って返すだけだった。
◇
いっそ直接訊いた方が早いか。
『カティ、昨日夢の中でニルヴァーナ・イントレランスとかいう声だけの相手に特別な能力とか貰わなかった?』
外した時のダメージが痛すぎる。
第一、確かめてアタリだったとしても、それからどうしようと言うのか。雨音だって自分の身に何が起こったのか、正直未だに良く分かってないのに。
(せめて見た目で分かる特徴とかないもんかしらね? 同じ能力者同士なら分かるとか、ありそうなもんだけど)
取るべき手立てが特に思い付かず、しかし目も離せず、我が身を顧みれば、今はお人形のような金髪美少女をこっそりと尾行している。
この状況を見る者が見ればどう思うか。
それを思うと、雨音は自分が情けなくなった。
(にしても…………こんな所で何を探してるのかしらね、あの娘?)
『探し物』、とカティは言ったが、今現在雨音がいる駅前通りの裏手は、乾物や商業雑貨の小さな店が点々としているだけの、小さな通りだ。
カティの趣味が特異とはいえ――――――雨音にヒトの事は言えないが――――――、この場所に何があるとも思えなかったが。
そんな事を考えていると、
「………あ」
不意に、金髪に覆われた背中が消えてしまう。
少し考えれば、考え事をしていた一瞬の間に脇道にでも入ったのだろう、と予想出来る。
だが、その消え方が何か暗示めいて見え、雨音の胸中に不安の影を落とした。
まだ、それほど距離は空いてない。角を曲がれば、すぐにカティの姿を見つけられる筈。
そう思いつつも足は勝手に駆け始め、そして雨音は曲がり角の入口に着く。
ところが、
「ッ………いないし!」
雨音の密かな恐れを現実にしたかのように、カティの小さな姿は忽然と消えていた。
一瞬、泣きそうになるほどの心細さに襲われた雨音は、すぐさま携帯を取り出し、通話アプリを呼び出そうとした。
カティの無事を確かめるので頭がいっぱいの雨音は、自分に忍び寄る小さな影の存在に気が付かない。
雨音は登録してある数少ないアドレスの中から目的の番号を呼び出し、親指で連打して携帯電話に通話を急かす。
そこに、
「クセモノー!!!」
と、真横にあったアパート入口から、雨音目がけて金髪娘が飛び付いて来た。




