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いまさら魔法少女と言われても  作者: 赤川
Wave-05 話とか色々大きくなり過ぎたのは誰のせいか
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0002:家出娘のヘヴンアンドヘル

 ベッドに寝そべる長い金髪のお嬢さんは、和服を着崩した美人のお姉さんに膝枕されていた。


「アマネー、一本くだサーイ」

「ハイハイ、あんまり食べカス落とさないでね」

「ハーイ」


 寝転んだままヒヨコのように口を開けた少女は、放り込まれたスティック状のチョコレート菓子を(くわ)えてご満悦の様子。


「ぁ……お、お雪サン。そこ、気持ちいデース……」

「ここでよろしいですか、勝左衛門さま?」

「ぉうッ! ……んァン!? アーンお雪サンそんな奥までされたらカティ、イケない所がジンジンしちゃいマース……」


 優しく耳掃除され、心地良さそうに喉を鳴らしているのは、古米国(オールドアメリカ)から留学して来た小柄な金髪娘、カティーナ=プレメシス嬢である。

 愛称は『カティ』。

 全体的に同い年の少女達よりも小柄で華奢(きゃしゃ)な体型をしており、パッチリとした目に可憐な唇という愛らしい顔立ちで、表情もコロコロと良く動き、膝まで届くほどに長い金髪は柔らかな錦糸の如し。

 仕草も子犬のように可愛らしく、クラスメイトにはマスコット的な可愛がられ方をしていた。


「やぁん……お雪サンくすぐったいデース……。アマネ……次は白いのくだサーイ。できれば口移しを希望しマスよ?」

「何アホな事言ってんのこの()は……。ほれ、二本あげるから」

「ウゥー……! んぅー……あむっ!」

「ヒャウッ!? こ、こらカティ!?」

「んフフフフ……♪」


 その子犬系金髪少女に菓子ごと指を(くわ)えられ、部屋の主である旋崎雨音(せんざきあまね)は素っ頓狂な悲鳴を上げていた。


 身長は160センチ前後。体型は成長中。3サイズは極秘。

 髪は肩にかかる程度の黒髪ストレート。ヘアスタイルにお金をかけたくないような性質(タチ)で、重くならないようにすいて軽くする程度。色を抜いたりもしていない。

 顔立ちは整っており容姿は良い方。その冷めた(クールな)目で見られるのが(たま)らないという隠れファン急増中である。


「おんどりゃー!!」

「ふみぃいいいいん!?」


 イタズラを成功させてニンマリとしていたカティへ、恥ずかしい二穴――――――鼻――――――にスティック菓子をブチ込むリベンジャー雨音さん。

 (ひざ)の上で乙女二人が暴れていても、着崩した和服美女のお雪さんはニコニコと微笑んでいた。


                        ◇


 何の因果か、雨音が高校生にもなって魔法少女などと言う恥ずかしいモノになってしまったのが、ひと月と半分ほど前の事。

 多少前後しているが、ほぼ同時期に雨音同様の能力者(魔法少女)が多く生まれているらしく、その後雨音は多くの能力者と遭遇する事となる。

 クラスメイトであるカティも、そのひとりだ。


 法に縛られない能力者達は、表に裏に世間を騒がせていた。

 単純に金儲けの為に犯罪行為に走る者、暴力欲を満たそうという者、とにかく特別な能力を思うがままに振るいたい者、自分の意思を通そうとする者、あるいは正義の為に力を尽くそうという者。

 中には、自分が特別な能力者だと気付いていなかった者もおり、無自覚な能力の暴走によって一時社会は大混乱に叩き落とされた。


 銃砲系魔法少女の『黒アリス』である雨音は、能力を振るう事も他の能力者のやり方に口を出すのも好まなかった。面倒事に巻き込まれるのはゴメンだし、何より、どんな能力者がいるかも分からず、恐ろしいというのが本音である。

 だが、事が自分や家族、又は友人に及ぶとなると他人事ではなく、雨音は自身の能力を以ってこれに介入する事に。

 一旦は社会的にも安定を取り戻したものの、また同じような事件が起きる事を恐れた雨音は、事前の対応として能力者達の情報収集を始めた。

 その過程で、とあるご令嬢の誘拐事件を解決したり、非道を働く能力者や他人迷惑な能力者を撃滅したりと、情報収集に(とど)まらない事態にも度々(たびたび)発展しつつも、黒アリスと相棒の巫女侍は明日の――――――自分の――――――平和の為、危機管理(?)に励んでいたのだが。


 そんなある日。

 カティが家出して来た。


                        ◇


「ハァーン……ワが世の春デース……」


 などと言うカティは、膝枕の太腿(フトモモ)の柔らかさを堪能しながら、緩んだ笑みになっていた。

 目には涙が浮かび、鼻も少し赤くなっているが、重要なのはその結果ではなく、そうなった経緯である。


「あら? カティったら鼻でお菓子食べるの気にいった? そんならほれ次は炭酸飲料を」

「ぎにゃぁあああああ!? パチパチしてツーンと痛いダブルアタックは嫌デース!!?」


 そこに、雨音がニヤリとした悪魔の(かお)で迫ると、カティは鼻を押さえて和服美人の後ろに逃げ込んでいた。二度も喰らいたいとは思わない。


「ふええええん! お雪サーン、アマネがSモードデース! 恐いデース! 何が恐いってカティが変な趣味に目覚めそうなのが恐いデース…………!」

「新しい扉を開くのは時として恐ろしいものですわ、勝左衛門(しょうざえもん)さま」

「イヤ肯定しちゃあかんがな」


 腰に(すが)りつく小型金髪娘を優しく抱き止める和服のお姉さんは、名を『お雪さん』といった。

 『ニルヴァーナ・イントレランス』によって特別な能力を与えられた者のうち、更にある一定の枠組みにいる能力者を魔法少女という。

 その魔法少女には、魔法少女が能力を使うのを助ける『マスコット・アシスタント』と呼ばれる存在が付属する。魔法少女にはお(とも)となるマスコットキャラクターが必要、というどこかの誰かさんの(こだわ)りによるものらしい。

 しかし、普通マスコットキャラクターと言うと、犬やウサギ、ネコやオコジョといった小動物をアニメ調にデフォルメしたものが連想される。

 ところがカティの魔法少女形態、巫女侍のマスコットアシスタントはと言うと、長く(つや)やかな黒髪に妖艶な美貌の、肩や胸元を大胆に出した着物の着方をしている、妙齢のお姉さんである。

 はっきり言ってセクシー過ぎてどこがマスコットやねん、と思う雨音だったが、その容姿が将来の雨音を想定して仕立てら(デザインさ)れているとは知る由もない。

 ちなみに、黒アリスである雨音のマスコット・アシスタントは、見た目40代のガッシリした巨漢(タフガイ)である。どうしてそうなった。


 基本的にカティのやる事には全て肯定なお雪さんに突っ込みを入れつつ、雨音は少しホッとする思いだった。

 数時間前である。

 珍しく連絡も無しに雨音の家にやって来たカティは、玄関先で出迎える雨音に肩をいからせ、


「家出して来たデスよ…………。アマネ……今日、泊めてくれマスか?」


 と、(たかぶ)っているのかヘコんでるのか分からない様子。

 そんな事今更言わなくたってアンタ月の半分はうちに居るでしょうが、と雨音は気にもしなかったし、雨音の母はカティを我が子のように可愛がっている。

 その辺は何の問題もなかったが、カティの家庭事情を知る立場の雨音としては、そっちの方が心配になっていた。


 カティの父親は、東西に分裂した北米大陸の旧合衆国(アメリカ)、現在の西アメリカ、古米国(オールドアメリカ)から日本に派遣されてきた総領事だ。

 両親ともに忙しいらしく、ひとり娘であるカティとは、ほとんど一緒に過ごす事が無いのだとか。事実、何度もカティの家に行っている雨音も、父親も母親も帰っているのを見た事が無い。

 時々聞くカティの発言からも、両親との仲があまり上手くいっていないのを想像するのは難しくなかった。


 そして、ついには決定的な何か(・・)が起こったという事か。

 ひと様の家の事情に踏み込まないのが雨音のスタンスだが、カティが悩んでいるなら、放っておくのも心苦しい。

 かと言って、雨音はヒトの心情を察したりするのは苦手だ。いや、察する事ならいくらでも出来るだろうが、それから何をどうしたものか。

 心遣いからした事が余計な事だったり、見当違いなお節介だったりしやしないかと思うと、どうしても踏み込み辛いものがあった。

 マスコット・アシスタントというイレギュラーな存在ではあるが、お雪さんがいてくれて良かったと雨音は思う。

 カティが辛い思いをしている時でも、確実に傍に居てくれるであろうお雪さんの存在は、雨音にとっても有難いものだ。

 叶うならば、雨音は自分もそうでありたいと願っているが、


「ヨシッ! アマネ、今日は一緒にお風呂入るデスよ! ニッポンてきハダカの付き合いデース!」

「何が『ヨシ』だ、いきなり。ひとりでお入りなさい」


 口に出すと調子に乗る小娘さんなので、あえて心の中に留めておく事にした。


 結局お風呂には一緒に入ったが。


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