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いまさら魔法少女と言われても  作者: 赤川
Wave-04 他でもない交戦規定はあなたの為に
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0021:コンクリートと言うよりセメントな感じで

 午後6時56分。

 お嬢様学園、雅沢(みやざわ)女子学園高等部の生徒会長、荒堂美由(こうどうみゆ)が武装した男達に誘拐されてから、約15分後。

 彼女の運転手から荒堂家へ、そこから当主が警視庁の知人に連絡を入れ、すぐさま対策班が作られる事となった。

 神奈川県内での誘拐事件だったが、そこは天下の首都警察。荒堂家の権力(ゴリおし)もあって、警視庁主導で事件の解決を(はか)る事になる。


「私が……ですか?」

「そうだ、三条君。キミが本部で第一特殊犯、それに県警の捜査員を指揮して速やかに人質を救出してくれたまえ」


 そして刑事部長は、偶々近くにいた扱い辛いキャリア、三条京(さんじょうみやこ)警視に陣頭指揮を()るよう命令を下した。


 男社会の警察の中で、優秀な(・・・)若い(・・)女性(・・)

 キャリアである以上は、妙な失敗などはさせられない。そして、あまり活躍させるのも気に入らない。

 そんな理由で組織内の調整の様な事ばかりやらされていた三条警視に、どうしてこの件のお鉢が回って来たのか。


 正直なところ、刑事部長はこの事案に関わりたくなかった。

 元々事件解決などで手柄を立て出世して来た男ではない。むしろ、何もして来なかった(・・・・・・・・・)からこそ、この地位にまで昇って来た。

 だが、事件の報告を聞いていると、どうにも最終的には責任問題が持ち上がりそうな予感。

 『荒堂』といえば、経産省を始めとして各省庁や政治家に影響力を持ち、皇室園遊会にも毎年のように呼ばれる名家中の名家。そこのひとり娘が拉致誘拐されたとなれば、当然大事件となる。

 荒堂家の顔色を(うかが)う警察上層部に、荒堂家からは「今すぐに娘を連れ戻せ」との矢の催促(さいそく)。その上で、「傷のひとつでも付けようものなら責任問題にしてやる」との、何ともやる気の出るお言葉。

 犯行グループは計画的に荒堂美由を誘拐しており、ライフルのような銃火器も装備している模様。乱暴なやり口を見ても、ヒトを撃つのに躊躇(ためら)いはない人種の様だ。

 凶悪な、武装したテロリストによる、政治的権力も強い名家の令嬢殺人事件。恐らくは、どうやっても無傷では済まない類の。

 つまり、三条京は(てい)の良い生贄の羊というワケである。


「了解しました。三条警視、捜査本部で指揮を執ります」


 そして、三条京はそんな刑事部長の思惑を察しつつも、何も言わずに命令を復唱していた。


                        ◇


 襲撃地点である高速道路入り口から、20キロ離れた地点。

 お嬢様生徒会長の荒堂美由を誘拐した犯行グループは、途中でクルマを2度乗り換えた後、操業を停止しているコンクリート工場に身を(ひそ)めていた。

 サビ付いた巨大なタンクが隣接して(いく)つも並び、露天の長大なベルトコンベアやパイプが何本も(なな)めに走り、コンクリートの材料になる砂が点々と小山を作っている。

 そのベルトコンベアやパイプが壁面から飛び出している建物の足元に、犯行グループのトラックが停車しているのを、上空を舞う無人攻撃機(UCAV)機首のタレットカメラが捉えていた。


「さーて……お雪さん、お願い出来る?」

「承知しました、雨音さ……あ、いえ、黒アリスさま」

「カティも付いてくデース」


 誘拐しようとしていた相手を、別口に先を越された形となった雨音、カティ、桜花に、マスコット・アシスタントのジャックとお雪さん。

 雨音とカティが魔法少女である事を知っている。

 そう(ほの)めかしたお嬢様生徒会長を拉致して誘拐して、とにかくどうにかしようと画策していた雨音達だったが、その計画が予想外の横槍によって続行不能となり、今は様子を見ている状態。

 とは言え、最初は上手い事この状況を利用出来ないかと考えていた小賢しい黒アリスも、今は荒堂美由の身の安全を第一に考えている。

 ドライになり切れないクールJKであった。


 誘拐グループがコンクリート工場に入り込んだと聞いた雨音は、(しばら)くはそこから動かないと判断する。完全に(かん)ではあるが。

 桜花には、誘拐犯と思考回路が同じ、などと言われた雨音だったが、実際には相手がこれから先どう動くかなど想像もつかない。ただ、入り込んだ施設の規模から、単なる寄り道ではないと思ったまでだ。

 軽装甲機動車(LAV)という目立つクルマで路上駐車など出来ず、雨音は通りすがりに見つけた大型書店の地下駐車場に停車させる。

 そこで、それまで無人攻撃機(UCAV)の操作をしてくれた着物を着崩している美女、カティのマスコット・アシスタントであるお雪さんに、警察へ匿名電話での情報提供(タレこみ)をお願いしたのだ。

 普段この物理現実世界に存在しないマスコット・アシスタントは、通報を録音された所で個人を警察に特定される心配が無い。安心便利ではあるが、何となくこういった使い方に罪悪感を感じる雨音だった。そもそも雨音のマスコット・アシスタントではないし。


「……ジャック、監視は無人攻撃機(UCAV)に任せて。あんまりそこの上空に止まらないようにね。何ならヘリは放棄してこっちに合流しても良いわ」

『わーお、「ヘリは放棄して」とか、せんちゃんカックいー』


 無線越しに、桜花の能天気な声が聞こえてくる。

 雨音はそれにはリアクションを返さず、お雪さんから引き継いだ無人攻撃機(UCAV)に自動操縦を設定していた。

 高度と経路、目標を設定すれば、プログラムは条件に合う飛行を続けてくれる。恐ろしい兵器だったが、自分で使う分には頼もしかった。



 犯人グループが途中で乗り換えた冷凍車――――――外観のみ。赤外線カメラで確認――――――の周囲には、二人の男が立ちつくしているのが見える。

 ほとんど動いていないが、だからこそ周囲を警戒する微かな動きが浮き彫りになってた。


「武器は……見えないなぁ。人数とか武器とか調べるって、意外に大変…………ん? 日本人じゃないの、このヒトら?」


 無人攻撃機(UCAV)の映像は基本的に俯瞰(ふかん)――――――上から視点――――――によるものだ。当然、人間の顔などは識別し辛い。


「黒アリスさん、ただいまデース」

「ただ今戻りましたわ」

「あー、お帰りー。お疲れ様。どうだった?」


 無人攻撃機(UCAV)の高度を下げて顔を確認するべきか。顔なんて見ても、どうせ大したことは分からないのだから、このままで良いか。

 そんな事を考えてジェラルミンケースに収まる無人攻撃機(UCAV)操作機器コントロールモジュール(にら)んでいた所に、巫女侍のカティとマスコット・アシスタントのお雪さんが戻って来た。


「特に問題もなく、ですわ」


 今や数が少なくなった公衆電話機による、警察への匿名通報は無事済んだ様子。


「せっしゃ達、このままけーさつ(警察)にお任せデス?」

『えー? やらないのー??』


 助手席に戻った巫女侍は、再び無人攻撃機(UCAV)の映像を(のぞ)き込む。その科白(セリフ)に、無線の向こうにいるマイペース文学少女が、あからさまに()まらないと言いたげな声を上げていた。


「警察が解決してくれる分には良いんじゃないの?」

「でもー……せっしゃと黒アリスさんの秘密をしってるせーとかいちょー(生徒会長)はどうしマス?」

「そりゃー……仕方ないわよ。とりあえずは彼女が無事で帰れるようにしてあげないと」

『犯人が殺しちゃったー、ってなるとー、好都合だったりー?』

「…………結果的にそうなったらね」


 と、言いながらも、雨音もいざとなったら何が何でも助ける気ではある。


「一応……今のうちにあたしの考えを言っておくとー」


 当初の計画では、秘密を知られたと思しきお嬢様生徒会長をとりあえず拉致誘拐して、その後の具体的な行動計画はまだ無かった。こう言ってしまうと、どこが計画なのかと突っ込まれても仕方が無い。

 ところが現実にはそこまで考える必要もなく、雨音達が誘拐計画を実行に移す直前、正体不明の犯行グループに目標のお嬢様、荒堂美由は連れ去られてしまっている。

 犯行グループの目的は不明だが、雨音としては当面は彼女の身の安全と無事の解放を、優先度の最も高い(プライオリティー1)目的とする。

 その手段だが、最も望ましいのは警察による速やかな救出であり、雨音達は自分達が厄介な事に巻き込まれない程度にこれを援護する。主に、情報面だ。黒アリスである雨音の情報収集能力に関しては、今更言うまでもないと思われる。

 また、警察の救出が上手くいかない場合。あるいは、警察が間に合わない(・・・・・・)と思われる状況を確認した場合は、雨音達が独自の判断で救出作戦を決行するものとする。具体的な作戦は、都度状況に合わせて策定する。

 最後に、彼女の身の安全は最優先しなくてはならないが、自分達の身の安全にはまた別格とする。

 例え彼女、荒堂美由を見殺しにする事となっても、自分達が死んだら意味が無いのだ。


「…………こんな感じじゃない?」

「ォオー…………。アマネ、スーパークールデース…………」

『せんちゃんは将来何になりたいの? 戦場の狼?』


 素直に褒められていない気がするのは、雨音の気のせいなのだろうか。特に桜花。

 とにかく、行動指針(プロトコル)というのは必要だ。いざという時、何をしていいか分からずに硬直するという事が無い。これまで遭遇して来た事態を振りかえり、雨音なりに考えていたのだ。

 それに、映画でもガッチリ勉強しておいた。実は半分ほどは、映画で見た戦略、そのままだったりするが。


「そうなると……いよいよもう少し詳しい情報が欲しいわねー……。人数、武器、人質の位置……」

『アマネちゃん、パトカーがたくさん来るよ!』


 ヘリ型無人攻撃機(UCAV)でも出して偵察するか。いやいやそれは危険すぎるだろう。

 迷っている雨音に、未だ武装ヘリで上空にいるマスコット・アシスタントのジャックから緊急の報告が。

 タイミングと規模から察するに、警察の人質救出部隊と想像するのに難くなかった。


「オゥ!? 早くないデス?」

『おーおー! こっちも映画みたいだよ。西部なんたら、みたいなー』

「確かに対応が早く感じるわね。ま、銃だったりお嬢様だったり理由は色々あるんじゃない? この際有難いわ」


 警察の動きが早い理由は概ね雨音の想像通りだったが、雨音が予想もしない――――――うっかり忘れて――――――要素も含まれていた。

 そして、雨音の側でもまた、想像もしなかった事が起こってしまった。


 何重にも重なり急接近して来る警察車両(パトカー)のサイレンの音に、誘拐犯行グループの男達はコンクリート工場の建物から飛び出してくる。

 その最後に、後ろ手に拘束されている制服姿の少女、恐らくは荒堂美由と思われる人物を確認。

 もはや隠す気が無いのか、誘拐犯達は手に手に長物の火器を持っており、周辺を警戒しながら擬装された冷凍車周辺に集まって行く。

 警察に包囲される前に移動する気か。

 そう思いながら無人攻撃機(UCAV)のカメラ映像から目を離さなかった雨音だったが、



 不意に、無人攻撃機を見上げる誘拐犯のひとりとモニター越しに目が合ってしまった。



「…………へ?」


 無論、それは雨音を見たワケではなかったのだろう。

 しかし、夜闇の空に、高度を5000メートルまで落としていた無人攻撃機(UCAV)を発見されたのは事実であり、地上の誘拐犯は擬装冷凍車の中から細長いコンテナケースを取り出すと、中身を取り出し()の先端を無人攻撃機(UCAV)へと向ける。



 旧ソビエト連邦製、携帯式地対空ミサイルシステム。

 9K34「ストレラ-3」

 


「でぇッッ!!?」

「アマネ……?」


 その存在を銃砲系魔法少女の黒アリスが確認した瞬間、地上で白煙が上がり、その映像を最後に無人攻撃機(UCAV)はコントロールアウトしてしまう。

 何故か、などと考えるまでもない。撃墜されてしまったのだ。


「う、ウソでしょ!? なんで誘拐犯が地対空ミサイルなんて持ってるのよ!!?」

「ワッツ!!?」


 突然空の目を封じられてしまい、所詮は素人JKに過ぎない黒アリスはどうして良いか分からずに混乱する。さっき指針(プロトコル)を決めたばかりなのに、もう予想外の事態である。

 だが、ここで頭の中に閃くものがあった。


「ジャック! 今すぐ空域から避退!! 高度を落として出来るだけそこから離れて!!」

『り、了解!』

『今ミサイルっつったー!?』


 流石にマイペース文学少女も、空にまで危険が及ぶとなると、声が裏返っていた。

 しかし、危険なのは武装ヘリのジャックと桜花だけではない。

 雨音も警察も、相手の武装レベルをアサルトライフル程度だと考えていた。

 ところが、現実はコレこの通り。

 誘拐犯行グループは、何故地対空ミサイルなんて用意していたのか。勿論、空の敵を排除する為だろう。

 何を打ち落とすつもりか、誰を警戒していたのかは知らないが、少なくとも日本で無人偵察機(UAV)無人攻撃機(UCAV)を警戒していたとも思えない。

 それに、地対空ミサイルは素人がお手軽に扱える物でもない。


「ヤバい……警察、全滅するかも」


 黒アリスさんの顔色が一気に悪くなった。

 警察が本気になれば大抵の事は解決できる、なんて甘い考えだったか。

 魔法少女や能力者でなくとも、単純に火力と戦闘能力で上回れば、警察には勝てるのだから。


「連中、誘拐専門のプロかも……どう思う?」

「分からんデスけど……黒アリスさんとせっしゃ達なら勝てるデスよ?」


 何が問題なのだ、とでも言いたげな巫女侍に、黒アリスは溜息をつかずにはいられなかった。こういう所が不安である。

 正直、このまま移動するのは危険過ぎる。カティが。

 この猪武者、戦場を見渡せる位置に移動した途端、銃を持った相手に突っ込んで行きかねない。


「……ジャック、北原さん連れてこっちに合流して。迎えに行くわ」


 黒アリスは軽装甲機動車(LAV)のカーナビから地図を検索、コンクリート工場を視認できる位置を確認。

 工場は丘陵地帯の窪地にあった。戦場を見下ろせる地点(ポイント)は多い。


「よし、まあまあね……。警察を援護射撃しに行くわよ」

「せっしゃが突撃して悪を斬っちゃダメです?」

「ダメです」


 危惧したとおり、尻尾を振る大型犬の如く落ち着きが無くなっている巫女侍。

 その娘さんに、黒アリスは正面からガバッと抱きつく。


「フォッ!? あ、アマネさん!!?」


 突然のご褒美に、驚きながらも頭にハートが飛ぶ巫女侍。

 黒アリス、ではなく雨音は、カティの背中にしっかり手を回して耳元に(ささや)いた。


「あんたと違ってあたしは弱っちぃんだから……しっかり守ってよね、用心棒さん」

「い、いちぶいぎ(一部異議)もう(申)したてまつ(奉)りたいですけど了解デース!!」


 ご主人様にこう言われてしまっては、番犬(カティ)としても大人しくしている他ない。

 それに、敵を斬るより雨音の用心棒になれるほうが、カティとしても嬉しいのだ。


                        ◇ 


 同じ頃、空からの監視が他にもあると警戒した犯行グループは、移動を中止しコンクリート工場内に一時撤退する事にした。

 そして雨音の予想通り、日本の警察ごとき(・・・)に全く負ける気の無い犯人達は、まるで戦争でもしに行くかのような重装備で身を固め始めていた。

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