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いまさら魔法少女と言われても  作者: 赤川
Wave-04 他でもない交戦規定はあなたの為に
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0018:権謀術数乙女の嗜み

 前に一度、雨音とカティは魔法少女な自分達の正体がバレた事がある。

 吸血鬼が世に(あふ)れた事件の時、吸血鬼にお持ち帰りされかかっていた桜花を助けた際に、雨音とカティの会話で、桜花に正体を特定されてしまった。

 だが、結局は桜花が吸血鬼を作り出した張本人だったワケで、秘密を共有する共犯者的な関係となり、正体を知る者が増える事は無かったのだが。


「で……誰? バレたってホントに? 誰に??」

「エ……と、どっかのせーとかいちょー(生徒会長)デース……」

「いや分からん。うちの生徒会長?」


 緊張した顔を見せるカティだったが、雨音は落ち着いた様子で話を聞き取っていた。

 カティの言う事にはそれなりに驚いていたが、全ての話を聞かない事には、事実かどうかも分からない。カティの勘違(かんちが)いや杞憂(きゆう)とも考えられる。


 その一方で雨音は、最悪の場合どうやって相手の口を封じるかという事まで、既に考えはじめていた。


 平穏な生活を脅かす者ならば、雨音は欠片も容赦する気は無い。

 これは、優先順位の問題である。


「あ、アマネさん?」

「…………大丈夫よカティ、どうとでもするわ」


 不安な顔をするカティの肩を、雨音は優しげに抱いていた。

 だが、今現在何よりカティをビビらせていたのは、完全に覚悟完了してしまった雨音の表情の方だった。


                         ◇ 

 

 昼休みが始まって直後、教師に呼ばれたカティは、『留学生代表として』ある人物と話をして欲しいと頼まれた。

 普段ならばそんなのお断りだったが、過剰なスキンシップ(セクハラ)(はか)ってくる長身のクラスメイトから逃げたかった事もあり、その教師からの頼みを受諾。

 案内され、生徒会室へ向かった。

 ちなみに、生徒会室の場所はその時初めて知った。

 道すがら事の仔細(しさい)を聞く所によると、場所は生徒会室だが、話をして欲しいという生徒会長は他校の生徒らしい。

 校名は忘れてしまったという。


 生徒会室に居たのは、ひとりの女子生徒だった。

 他校の生徒という事で、当然校内では見ない制服を着ている。

 身長はカティより高く、雨音と同じ程度。腰の位置より長く伸びた、ストレートな亜麻色の髪。

 学年が上のせいか大人びて見え、雨音やカティよりも落ち着きのある、穏やかで優しそうで綺麗な少女だ。


はじめまして(・・・・・・)、カティーナ、プレメシスさん? 雅沢(みやざわ)女子学園高等部で生徒会長をしています、荒堂(こうどう)美由(みゆ)と申します」


 カティは知らなかったが、雅沢(みやざわ)女子学園といえば、全国に名の通ったお嬢様学校である。

 茶道、華道、マナー、等をはじめとして、淑女として一流の素養を磨くカリキュラムが多く、『雅沢を出た』というだけで一種のステータスとなっている。

 その為か、子女を持つ良家や、将来は娘を良い所(・・・)(とつ)がせたいという一般家庭の親御さんが、こぞって雅沢へ我が子を入学させようとしていた。

 なお、雅沢女子発行の辞書には『男女差別』や『男女平等』といった単語は存在しないと、もっぱらの噂。


 どうしてカティが雅沢女子の生徒会長、荒堂美由に呼ばれたのか。

 彼女が言うには、雅沢女子は留学生の受け入れを全く行っておらず、異国文化との交流を行う機会がほとんど無いとの事。英語教師はいるが、外国人のネイティブスピーカーなどではなく日本人教師だ。

 一方、カティの学校は多くの留学生やネイティブスピーカーの教師が在籍する、国際色豊か(インターナショナル)な方針を取っている。

 雅沢女子では近々、同世代の海外の少女生徒――――――女子高の為限定――――――を招き、生徒会主催で交流会を企画しているとの事だ。

 このまま全く外国人との接触を持たずに卒業してしまうのは、戦争を経て再び国際交流盛んなご時世において、雅沢学園が時代の潮流に取り残されかねない故、というのが動機らしい。

 その為に、雅沢と同県にある留学生の多い学校から、留学生を借りてこようと、こういうワケだ。

 そして、残念な事に(・・・・・)カティことカティーナ=プレメシス嬢は、この学校における留学生の筆頭と言って差し支えない。可憐で愛らしい容貌に、お父上は古米の在日本総領事と来ている。留学生と言ったら、外すに外せない人材だった。


 だが、カティは決してそう言った事(・・・・・・)に向いた少女ではない。


「んー……めんどいデース」


 カティは友人相手ならともかく、誰にでも愛想がよいワケでもなく、八方美人な性格でもない。見た目同様、子供っぽい性格をしている。

 社交性が無いとは言わないが、よく知りもしない相手の為に、骨を折りたいとも思わない。

 雅沢女子学園生徒会長の言う『交流会』とやらに出る気も起らなかった。


「それにー、カティは色々忙しいデスよ。りゅーがくせー(留学生)はいっぱい居マスから、カティ以外を連れてってくだサイ」


 何と言うかもう、学校側のメンツも体面も何も考えない清々しいほどのお断りをするカティだったが、生徒会長の荒堂美由は気分を害した様子も無く、相変わらず穏やかな微笑を(たたえ)えていた。

 困ったように眉を(ひそ)める事も、怒ったように(まなじり)を吊り上げる事もない。

 まるで想定の内だったかのように生徒会長は(うなづ)き。



「そうですか……秋山勝左衛門(・・・・・・)様は日本文化に興味が御有りのようでしたので、歴史ある本校でその理解を深める機会としていただきたかったのですが…………」

「…………………ン?」



 実にサラリと、当たり前のように巫女侍(・・・)の名を口に出され、目を丸くするカティは、無意識に自分の身体を見回してしまう。

 背を覆う緩やかに波立つ金髪。カティの歳としては、日本人平均にも届かない体躯。服装も、学校の制服のまま。

 どこをどう見ても、カティは魔法少女には変身していない。

 ならば何故、雅沢女子の生徒会長は巫女侍の名を口にしたのか。


                       ◇


「それで、それからなんて?」


 終業後の放課後、カティと桜花は雨音の家に集まっていた。桜花は初めてのお呼ばれである。

 追い詰められた様子のカティを落ち着かせながら、雨音と桜花は昼休みに何があったのかを、順を追って聞きだしていた。


 カティを困惑の渦に叩き落とした雅沢女子の生徒会長は、「交流会は来週ですので、カティーナさんもよろしければ是非」と言い残してカティの前から去って行った。

 おまけに、「黒いアリスさんもご一緒に」と。

 カティがトイレの前で切羽詰まったような顔をするワケである。

 完全にバレている。


「そこで自分の格好確認するとかいう反応しちゃダメだわー、カティー。そーです、わたすが魔法少女です、って言ってるようなものじゃんよー」


 桜花が手元の布地(・・)を伸び縮みさせながら、耳を伏せた子犬のように落ち込むカティに追い打ちをかけていた。


「うぅー……だ、だって……寝てる時にウッカリ変身したりするデスから……またやっちまったかと思ったデス……」

「何してんの、カティー?」


 それで朝、目が覚めた時に寿命が縮む思いをするは一緒に寝ている雨音なのだが、この際それは置いておく。そもそも変身して学校に来ていたら、いくらなんでも雨音が気付かないワケないだろう。


「お嬢様学校の生徒会長……。まぁ、どうやってカティの事を知ったかは知らないけど、ある程度はアタリを付けて来てたんでしょ? でないと、わざわざ来ないと思う」


 ベッドの上で体育座りな雨音は、特に感情を込めない冷静な物言いだった。

 そもそも、カティと秋山勝左衛門あきやましょうざえもんでは、外観が全く違う。ある程度の確証が無ければ、カティがそうだ(・・・)と決めつけたりはしないだろう。

 その場でカティが上手く誤魔化したとしても、何かが変わったとも考え辛い。


「あー、そっかー……別に確認しに来たワケじゃないってかー……。じゃ何しに来たの、その生徒会長さんて? そもそもどうしてカティーの事バレたん?」

「バレた理由については特に不思議じゃないわ。この()しょっちゅう変身状態で自分の名前名乗ってたから」

「ひん……めんもくしだい(面目次第)もゴザらんデース…………」


 いずれこうなる気はしていた、と気が抜けたように言う雨音に、ただでさえ小さなカティは消え入りそうになっていた。

 思い出して、桜花は感心したかのように(うなず)いていたが、


「あれ? それじゃもしかして、あたしの事もバレてーら?」


 ハッと、他人(ひと)事ではない事に気付く吸血鬼系魔法少女。

 だが、妙に落ち着き払っている黒アリスの中のヒトは、(かぶり)を振って否定する。


「生徒会長さんが北原さんの事知ってたら、カティの正体を知ってるぞー、みたいなアホな(ほの)めかしはしないと思うわ」

「どーして?」

「だって、北原さんの能力を知ってたら、自分の素性がバレるのがどれだけ絶望的か分かる筈だから」


 雨音が(くだん)の生徒会長の立場なら、桜花だけは絶対に敵に回さない。そして、雨音が桜花の立場なら、正体を知られた可能性が出た時点で、大量の吸血鬼を送り込んで生徒会長を拘束するだろう。それが分からないほどのアホだとは思えない。

 それなのに自分から名乗り、桜花の友人であるカティに変な接触をして来た。桜花の存在と能力を知っていれば、絶対にやらない事だ。

 無論、桜花の能力も分かっている上で、仮に吸血鬼を刺し向けられてもどうにか出来る自信を持っている可能性もあるが。


「せんちゃんはー…………あたしの事、過大評価し過ぎじゃね?」


 雨音の見解を聞き、やや沈黙して考え込んだ後にマイペース文学少女は、眠そうな目で首を傾げる。

 雨音の言い方では、ほとんど自分は魔王か何かだ。吸血鬼の女王ではあったが。


「北原さんの能力は、上手く使えば本当に世界を変える能力だと思う。吸血鬼に対する人事権、っての? 吸血鬼に変える人間を厳選すれば、それを戦力に王道だって覇道だって歩める力ね。暴走したら吹っ飛ばしてあげるけど」

「い、いえっさー」


 釘を刺すのを忘れないクレバー魔法少女に、吸血鬼の女王も胸に手を当て誓いを立てていた。存在を知られない事が桜花の能力を最大限に生かす事なら、存在を知られてしまう事が、桜花の能力の最大の弱点となりえるだろう。


「あの……アマネの事もバレてるデス?」


 正体がバレ、責任を感じるカティがおずおずと口を開いた。

 生徒会長は去り際の科白(セリフ)で、黒アリスの事にも言及していたが。


「カティの正体が分かれば、あたしを黒アリスと予想するのは難しい事じゃないと思う。変身してない時も、いつも一緒だし。少し観察すれば、あたしと黒アリスを関連付けるのはむしろ自然な事ね」

「せんちゃん、カティーの嫁だしね」


 桜花の『雨音はカティの嫁』という発言に、カティは火照る頬を押さえて嬉しそうに頭を振っていた。

 だが、流石に浸っている場合ではないと我に返る。


「ど……どうするデス? カティのせいで、アマネまで正体知られちゃってマス……」

「うーん…………」


 ベッドの上で膝を抱えたまま、雨音は自室の天井に視線を泳がせていた。

 沈黙の黒アリス――――――の中のヒト――――――に、不安そうな顔のカティと半眼の桜花が顔を見合わせる。


「せんちゃん……それならいっそさー、にーちゃんを吸血鬼にして生徒会長(せーとかいちょー)に催眠でもかけさせる? 『二人の正体は誰にも言ってはならない~』とかさー」


 桜花は直接吸血鬼の力を振るえるワケではない。桜花の能力――――――――――魔法は、言ってしまえば吸血鬼を作るだけ(・・)の能力だ。

 吸血鬼にする際にいくつか条件を付けられるらしいが、吸血鬼になった本人が何をどうするかは、基本的に本人に(ゆだ)ねられる。

 その代わり桜花は、吸血鬼にするorしない、という点においてのみ、絶対的な権限を持つ事となる。

 『人事権』とは、地味に正鵠(せいこく)を射た例えだった。

 先の事件で世間を大混乱に(おとしい)れ、桜花は自分の魔法を軽々しく使わないと決めている。実際には従兄(イトコ)に――――――本人同意で――――――ちょくちょく使っていたが。

 だからというワケではないが、今回に関しては、雨音とカティの為に使っても良いケースに思えた。

 だが、


「そんな細かい設定が出来たっけ、治郎兄さんの暗示って?」


 雨音の疑問に、桜花は表情を変えずに肩を落とす。

 従兄が下手なのか、それとも吸血鬼の暗示能力自体がそうなのかは分からないが、雨音の言う通り、それほど細かい命令が出来るのかは(はなは)だ疑問だった。

 何せ以前、治郎は催眠暗示にかけた女性に食事を取らせようとして、結果女性二人は体重に致命的な傷を負ったのだから。

 このアイディアは良い、とカティも思いかけていただけに、落胆の色を隠せなかった。

 吸血鬼の暗示で『誰にも言うな』とか命令しようものなら、誰とも一切喋らなくなる。そんな予想が出来てしまいそうだ。

 もはや、それならそれで良い気がしてしまうカティだったが、


「それに多分……雅沢女子の生徒会長には、吸血鬼の暗示、効かないんじゃない?」


 嫁――――――――――ではなく雨音の科白(セリフ)に、理解が及ばず眉を(ひそ)めた。


「『効かない』って、どういう事? 催眠術がー、変にバグるんじゃなくて?」

「いや……色々考えてみたんだけどね」


 それまで考え込んでいた雨音は、桜花の疑問に直接は答えない。

 自身、どう話して良いか迷っている様子で、何もない空中で何かを(つか)もうとするかのように、手を彷徨(さまよ)わせている。

 見ていて何故か、不安になる姿だ。

 釣られて、桜花も手の中の(ぬの)の穴に指を通して広げたり引っ張ったり。

 そんな桜花の様子に気付かず、雨音は自分の考えを整理するように続ける。


「雅沢女子の生徒会長がよっぽどのアホじゃないと仮定した場合」


 雅沢(みやざわ)女子学園高等部の生徒会長、荒堂美由(こうどうみゆ)は、留学生を招いての異文化交流会を行いたいという名目で、他校に(おもむ)き留学生であるカティを呼び出した。

 そこで、カティが(ちまた)を騒がす能力者――――――――――魔法少女のひとりである巫女侍で、それを自分が知っている事を(ほの)めかす。ついでに、相方である黒アリスの正体も、だ。

 どうしてそれを知ったのか、はこの際問題としない。心当たりがあり過ぎるからだ。これまでカティが関わって来た事件で、この(むすめ)何度自分を「カティは~」と自己紹介して来ただろう。

 要点は、何をしに? 来たのかである。


「多分、『知っている』と知らせるのが目的じゃないかな、と」

「…………せんちゃん?」

「…………どゆことデス?」


 いよいよワケの分からない事を言い始めた、と心配し出すカティと桜花だったが、雨音は構わず続ける。


「正体を知っている、と言えば、言われた方は口を封じに来る可能性くらい考える筈。いくらお嬢様と言ってもね。なら、法や科学で立証出来ない手段を持つ相手を、(いたずら)に挑発はしないと思う。よっぽどの考え無しじゃない限りね」

「…………じゃ、何考えてるデス?」

「…………え? そういう事??」


 カティは相変わらず雨音と生徒会長の(・・・・・)意図を(つか)みかねているようだが、流石に桜花は分かり始めたようだ。


「カティが変身し、秋山勝左衛門を名乗って何をしているか、最低限そこは知っているでしょ。カティがその名を名乗るのは、常に変身して暴れている時だもんね。そんな相手を前に堂々と自分をアピール出来る。これは、ある種の保険が無いと出来ない事よ」

「つまり……向こうから来ちゃった、ってことかー」

「来た……デスね?」


 以前、雨音は吸血鬼の催眠暗示にかけられそうになり、その結果酷い苦痛を被った事がある。

 黒アリスと吸血鬼。同じ『ニルヴァーナ・イントレランス』という根っこを持つ能力者同士では、この自由意志を奪うような能力行使は『規定違反』となる。

 暗示をかけられそうになった雨音は、その瞬間に精神を守る防壁(コンポーネント)機能によって自分の意思を守る事が出来たが、同時に凄まじい副作用に苦しめられるハメになった。

 そもそもどうして違反された(・・・)雨音が苦しまねばならなかったのか。

 今に思うとその辺りが釈然(しゃくぜん)としないが、逆に考えてみると、件の生徒会長を同じ目に遭わせてやれるかもしれない。

 やる気も無かったが。


 つまり、雨音が何を言いたいかというと、だ。



「雅沢女子の生徒会長さんはこう言ってるワケよ。わたしも魔法少女です。はじめまして」



 ベッドに寝っ転がり、頬杖をつく雨音は、「よーやるわ」と誰かさんに向けて(つぶや)いた。

 桜花も溜息をつき、背凭(せもた)れに体重をかけて仰け反っている。

 しかし、カティだけは未だに納得できていない様子で。


「え? ……でも?? 何でデス?」

「さてね、改めて言われると相手の動機なんか分からないんだけど」

「いやー……せんちゃんの言いたい事は分かるけど、実は単なるお馬鹿さん、って事は無い?」


 桜花の言う事が正解ならば、それはそれでカティと雨音の危機である。バカはどんな不条理で非合理的な行為でも平気で行うからだ。

 が、仮にも生徒会長である。

 学校にわざわざ来たのは、痛い所を突かれたカティが暴走しない状況を作り出す為。

 そして、決して『異文化交流』などの学校間の行事で適任とは言えず、教師としても本来は指定する筈の無いカティを呼んだのが、他ならぬ荒堂美由だとするならば。

 事実はどうであれ、雨音はこう想定しておいても損は無いと考える。


生徒会長(せーとかいちょー)さんは、あたしらと同じ魔法少女の能力者ー。で、自分もそうですよー、とアピールする為にウチらのガッコに来て、カティと二人きりで会えるようにしたー。っていうせんちゃんの予想通りだとしたら、やっぱり分からんわー」


 手持ちの材料から組み立ててみた予想は、概ね桜花の言った通りだった。結局目的不明という部分も含めて。

 その先は、本当に憶測でしかない。

 友好か、挑発か、それとも他に狙いがあるか。


「カティ」

「は、はいデス!?」


 現状でそれ以上答えが得られないと考えた雨音は、早々に次の手に打って出る事にした。

 今回それほど迷いが無かったのは、地味にお尻に火が付いているからか。


「あちらさん、『交流会』に来てくれって言ってるのよね?」

「え? い、言ってたデス」

「黒アリスともども出席させてもらうって連絡を。連絡出来る?」

「それは……とりあえずセンセーに言ってみるデスけど……」

「せんちゃん、まさか魔法少女モードで行くの?」


 まさか、と雨音は胡散臭そうに言う桜花に応えると、人差し指を口に当て、


「交流会の前にね、今度はこちらからお(おうかが)いしてみようと思うわ」


 内緒話のように、低い声で(ささや)いた。

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