0001:警察には酷な話だと思われ
ここ最近、ニュースにて奇妙、あるいは奇天烈な出来事が報じられる事が多くなった。
千葉県にある国内最大のアミューズメントパークが無数の犬に占拠され、山手線内をSLが暴走し、首都高では夜な夜な異なるスポーツカーが高速機動隊と追いかけっこを演じ、強盗されまくっている銀行は軒並み信用を落とし、路上駐車しているクルマが破壊される事件が頻発し、霞が関では暴力事件が立て続けに起きており、国会には正義のレスラーが乱入し、某国に不法占拠されている島には謎の釣り人が上陸し、東京湾には海賊船が出没し、戦国武将が無法釣り人を海に叩き込み、テンガロンハットのガンマンが愛馬シルバーで渋谷を駆ける。
もうワケが分からない。
それらの事件に共通しているのが、一件として犯人が逮捕されていない事だ。
「警察はもっと優秀だと思ったんだけどなぁ…………」
と言いつつも、捕まらずにいたのは雨音も同じ事だったが。
この春に高校に上がったばかりの成り立て女子高生、旋崎雨音は、風呂上がりで身体をホカホカさせ、髪の水気を取りながらテレビのニュース番組を見ていた。
そこで報道された異常な事件の背景に、雨音は心当たりがあり過ぎた。
「案の定大変な事になってるし…………」
不特定多数の人間に、特別な能力をバラ撒いている連中がいる。
『ニルヴァーナ・イントレランス』を名乗る何者か。その正体は、結局最後まで分からなかった。
その何者かは、『適性』とやらがある人間を強制的に拉致し、特別な能力を押し売りして来るのだ。
雨音以外の人間の中には、喜んで能力を受け取った者もいたらしい。
だが、どんな裏があるか分からない、どんなリスクがあるか分からない、どんなしっぺ返しを喰らうか分からない、そんな碌でもないモノに、自ら手を出すなど、ロクな結果を招かないだろうと思う。
とはいえ結局、雨音もその押し売りからは逃げられなかった。
多少賢しい所を見せても、所詮雨音はただの人間でしかなく、超常の存在相手では刃が立たなかったのだ。
そして雨音が危惧した通り、ここ数日でどう見ても普通ではない事件が山ほど起きている。
いっそ、世間の常識感覚が塗り替えられるほどの勢いで、だ。
『ニルヴァーナ・イントレランス』は、能力の使い方には一切関知しないと言った。
ならば、犯罪に走る人間が出るのは、火を見るより明らかだろうに。
「一体何を考えてるんかな、あの連中は」
あるいは、この混乱こそが目的か。
それとも他に何か狙いがあるのか。
雨音をニルヴァーナ・イントレランスへと導いたBDディスクは、気が付いたら影も形も無くなっていた。
一瞬、夢オチを期待したが、夢ではなかった事は、その場ですぐさま証明されてしまったが。
「うぅ~~~~。とにかくもう関わらない…………。何が起こっても首突っ込まなきゃいいんだから……もう二度と使わない……使わない」
頭からタオルを被り、俯く雨音は念仏のように繰り返し唱える。
『それでは、昨日の神奈川県室盛市で起こった事件の続報です――――――――』
その念仏が、ピタリと止んだ。
ニュース番組のアナウンサーが、次のニュースへ話題を移す所だった。
『昨日、神奈川県室盛市の上空にUH-60「ブラックホーク」と思われるヘリが侵入、地上へ向けて無差別発砲を行いました。奇跡的に死者は出ませんでしたが、転んだなどして軽傷を負った方が複数出ています。警察ではこのヘリの捜索を続けていますが、現在までに行方を示す手掛かりはなく、今後は自衛隊とも連携し――――――――』
ニュース映像には、一般視聴者が携帯電話で撮影した事件の動画が映し出されている。
「…………うぅ、エライ事になってる」
両手で顔を覆い、今にも死にそうな呻き声を上げる雨音さん。
映像の中では、ヘリの中から街中へと、哄笑を上げてドアガンを撃ちまくる、黒いエプロンドレスの金髪美少女が、しっかりと映っていた。
 




