0012:燃え盛る何か色々
調子に乗ってハメを外していたのを、誰かに指摘されて我に返り、恥ずかしさに身悶える感じ。
それを1億倍したに等しいだろうか。
黒アリスに痛すぎる一発を喰らい、ハイレグビキニのカウガールによって容赦なく塩を擦り込まれたプラチナブロンドのチビッ子魔法少女は、羞恥と絶望を怒りに変えて、魂の叫びと共に警棒を振り上げ突撃する。
「この小娘どもぉおおおおおおお!! わたしはまだ三十路前だぁアアああああああ!!!」
馬上の鎧武者の少女を無視し、ミニスカエプロンドレスの黒アリスへと。
「ちょっと待ったぁぁああああああ!? なんであたしッッ!!?」
何故か自分の方へ飛んでくるプラチナブロンドの魔法少女に、雨音は抗議の絶叫を上げていた。
だが、何故も何もない。地雷を踏んだのは他ならぬ雨音である。
悲鳴を上げるだけで逃げる間もなく、アラサー魔法少女(?)の逆鱗に触れた黒アリスへ、チタン製の警棒が振り下ろされようとした。
しかし、雨音の用心棒がそれを許さない。
「フォッットォ!!」
「ッ……!? 貴女!!」
怒りの警棒は、巫女侍の大刀によって受け止められていた。
警棒と大刀を合わせつつ、地面に降り立つアラサー魔法少女と巫女侍は、そのまま鍔迫り合いの形に。
力に勝る巫女侍がその膂力で押し返すも、プラチナブロンドのチビッ子魔法使いは泣きながら、警棒を振り回し猛攻をかける。
「わたしだって最初はチョット『やっちゃった……』って思ったわよー! でもイイんだもんイイんだもんどんな姿になったってわたしは正しい事をするんだから!!」
「大変結構だと思います! 邪魔しないんで帰ってイイですか!?」
「こ、このオバさんケッコー強いネー!!」
「キサマ今何て言った!!?」
「火にハイオクぶっ込んでどうする勝左衛門!!?」
幼い容姿に不動明王の如き憤怒を宿し、烈火の勢いで雨音へ警棒を振るおうとするプラチナブロンドの魔法少女。
その中身は羞恥と自己嫌悪に狂う三十路前のお姉さんである。
ギャップとのダメージは高校生の雨音とは比較にならない。まさに、いまさら魔法少女と言われても。
その殺気、手負いの猛獣にして目に映る全てを生かしてはおかない修羅にも勝る。
目下、抹殺対象は地雷を踏んだ黒アリスひとりに絞られていたが。
剣道の心得があるのか、素人巫女侍の大振りはプラチナブロンドの魔法少女に簡単に見切られ、カラ振りの一撃は足元のコンクリートを叩き割る。
「フォッ!? トオッッ!?」
「強制制圧スラッシュ!!」
攻撃をスカされ隙を作る巫女侍へ、チビッ子魔法少女はとんでもない鋭さで斬り込んで来る。
面を打ちに来る一撃と次撃の袈裟斬りを、巫女侍は辛うじて止める事が出来た。
しかし、プラチナブロンドの魔法少女は小さな体を旋回させると、巫女侍の無防備な横っ面を警棒で襲う。
「ッッィイット!!?」
「チィッ!?」
野生動物の様な直感で、巫女侍は間一髪、その一撃を回避した。
前髪を黒いチタンの鈍器に揺らされ、カティは冷や汗をかきながらたたらを踏む。
「ッッデム!!」
負けん気の強さからか、背後に雨音も居るという事で、カティは即座に逆襲へ転じた。
コンクリートの地面を踏み砕かんばかりの勢いで大刀を振り回すも、プラチナブロンドの魔法少女には、もう少しといったところで届かない。
逆に、攻撃後の隙を突かれて攻め込まれ、巫女侍は受け止めるのに精一杯で防戦一方。
そのクセ、プラチナブロンドの魔法少女が恨み節で睨みつけているのは、目の前の巫女侍ではなく黒アリスの方であった。
「フシュー…………!!」
「ヒィイイ…………!?」
率直に言って、雨音は魔法少女刑事が恐すぎて、漏らしそうになっていた。
「黒衣殿! 秋山殿!!」
「行かせるなぁ! トリアちゃんを援護ぉお!!」
いきなり目の前の相手に無視された鎧武者は、プラチナブロンドのチビッ子魔法少女を追おうとするも、既に鎧武者を馬ごと囲んでいた機動隊員に動きを封じられてしまう。
機動隊員達の動揺は一時的なものだった。
プラチナブロンドの魔法少女は完全に取り乱しているが。
「女の歳の事を……しかも微妙なところを論う小娘は死刑ぇえええええええ!!」
「お姉さん警官じゃないの!?」
「黒アリスさん! さがってるデス!!」
胴を叩きに来た警棒の一撃を、巫女侍が大刀を立て喰い止める。
だが、直後に警棒は上から振り下ろされ、巫女侍は歯を食いしばって素手でそれを迎撃する
プラチナブロンドの魔法少女は、巫女侍と違って型の出来た技を振るっていた。
以前にもカティは技に勝る相手に手も足も出なかった事があるが、このチビッ子魔法少女も同じ手合いだ。
「そっか……警察官なら剣道とか……!?」
「てか年の功ってヤツじゃないかしらヒャッハー!!」
どうして雨音の呟きが聞こえたのか、機動隊員を二人を一度に縄にかけて引き摺り回すビキニカウガールが余計な事を。
そして、煽られたプラチナブロンドの魔法少女の怒りは、当然のように雨音の方に向けられた。
「ぐぅう…………もはや情状酌量の余地無し! 青春を塀の中で過ごすが良いわ!!」
「それって検察とか裁判長が判断する事ですよね!!?」
と黒アリスは突っ込むが、恐らく捕まればリアルにその辺りが実現しそうな予感。
もはや検事と裁判長を兼任する勢いで、愛らしいチビッ子魔法少女がドスの効いた声色で叫びながら、肉食獣のように低く構えた。
「黒アリスさんに手出しする事、マカリ(罷り)ならんデスよ!!」
同じく中身は野生動物に近い巫女侍も、大刀を正面に構えて唸りを上げる。
カティは頑張っているが、正直目の前のプラチナブロンドの魔法少女を相手にするには分が悪い。
(やっぱやるしか…………いや、いくらなんでも警官の前じゃ拙い…………)
雨音の魔法は、見た目といい危険度といい、戦国武者やカウガールや巫女侍とは比較にならない。使ってしまえば、警官隊を今まで以上に本気にさせてしまうだろう。
かと言って、雨音にはビキニカウガールと違って他に魔法もない。
どうにか雨音が魔法を使わずに済むよう、カティやカウガールや鎧武者に頑張って欲しい所だった。
が、しかし。
「ギャンッッ!!?」
「カッッ――――――――――勝左衛門!!?」
三度チタン警棒と刃を合わせた巫女侍のカティが、大刀を絡め取られて跳ね上げられたその瞬間に、こめかみに一撃を喰らってしまった。
脳を揺すられ、カティがその場でへたり込む。
そして、魔法少女刑事がそんな隙を見逃す筈もない。
「逮捕よ! マジカルウエストロープ! アーンドワッパー!!」
黒い魔法のステッキが振るわれると、その先端から飛び出す黒い手錠。
おまけに、プラチナブロンドの魔法少女刑事の手から延びるロープ。
それらは脳震盪を起こした巫女侍を絡め取り、ガッチリと拘束した。
「アッ……ヤバい!?」
「秋山殿!!?」
助けに入りたくても、カウガールと鎧武者は機動隊の方から手が離せない。
雨音は危険な状況だというのも忘れて駆け寄ると、目の焦点を無くしてフラフラしているカティの、殴られた頭を診る。
すると、巫女侍の額の横は真っ赤に腫れてしまっている上、切れた部分からは出血までしており、
「フハハハハハ! 大人とかお巡りさんを舐めるとこうなるのよ! さぁ大人しくなさい!!」
哄笑を上げて巫女侍を捕らえたロープを引く魔法少女刑事に、
「…………銃砲形成!!」
今度は黒アリスがブチキレる。
◇
当日、魔法少女刑事の応援要請を受け現場に出動していた機動隊員は、後にこう語る。
「戦争が始まったかと思った…………」、と。
それまで、ただ慌てふためいていたミニスカエプロンドレスの少女が、改造巫女装束の少女が傷を負った途端に、顔色を変えていた。
コンクリートの地面にへたり込む改造巫女装束の少女を、ミニスカエプロンドレスの少女が支えている。
そのエプロンドレスの少女の目だけがキロリと動き、魔法少女刑事と視線が合った瞬間、尋常ではない気配に全身が粟立った。
「ッ……マジカルライアットシールドッ――――――――――!!?」
プラチナブロンドの魔法少女は、咄嗟に防御シールドの魔法を展開。
機動隊御用達、ポリカーボネートの防弾盾と同様の形状をした、強固な守りを自分の左手に出現させる。
途端に、魔法少女刑事の小さな体は、盾ごと吹っ飛ばされていた。
「痛ゥッッ!!!?」
爆音とともに放たれた銃弾。50口径S&W M500マグナム弾は、ただの一撃でポリカーボネートの盾を真っ白に染め上げて見せる。
いつの間にか、エプロンドレスの少女の手には、あまりにも大きく不釣り合いな回転拳銃型の拳銃が握られていた。
エプロンドレスの魔法少女。『黒アリス』の旋崎雨音が振るう魔法の杖。
その魔法は、単に既存のS&W M500の模倣に止まらない。
「トリアちゃん!?」
「銃だ! 全員盾構え!! トリアちゃんを防御!!」
相手が槍や大刀、あるいは投げ縄よりも遥かに危険な凶器を所持していたと知り、機動隊員達が怒声を上げながら魔法少女刑事の前に固まった。
機動隊員達は一斉に、ポリカーボネートの盾をミニスカエプロンドレスの黒いアリスの方へと向ける。
だが、黒アリスはお構いなしに、引き金を引き魔法の銃弾を発射。
ただし、銃弾は機動隊員達には届かない。
放たれた銃弾は、黒アリスのすぐ目の前で、回転しながら空中に止まっていた。
しかも、その弾丸はあたかも魔法のように、アッと言う間に数十倍に膨らみ形を変える。
これこそが、黒アリスの魔法。
リボルバーキャノンを金床に、魔法の銃弾を素材として、撃鉄であらゆる銃火器を自由自在に打ち出す。
黒アリスの『銃砲形成』。
誰もが、悪夢を見る思いだった。
エプロンドレスの少女が、空中で掴み取った大型火器。
それは、6連装回転砲身を持つ、本来はヘリなどの銃架に搭載されていた物を、携行型に改造した大火力兵器。
M134機関銃、ミニガン携行型。
盾を構えた密集陣形で身動きが取れない、ついでに防波堤の中で逃げ場もない機動隊員達を、秒間100発、7.62ミリ弾の業火が襲う。




