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いまさら魔法少女と言われても  作者: 赤川
Wave-04 他でもない交戦規定はあなたの為に
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0010:警官なので合法です


 今日こそは、4度目の正直と無法者の鎧武者とカウガールを確保しに来た、魔法少女刑事(デカ)率いる神奈川県警機動隊。

 これまでで最大の人数を投入し、鉄壁の防御で押し包み、相手の機動力を殺す作戦。

 その作戦通りに騎馬の動きは止める事が出来たが、カウガールの想像を超える機動力に翻弄(ほんろう)され、戦闘状況は混乱する。

 その上、警察側から見れば、とんでもない伏兵まで現れてしまう。


 誰の事かと言えば、初めからそこにはいたが、その格好から脅威とみなされなかった某猪武者の巫女侍である。



「逃げるなら追いはせぬデスが、死にたいヤツはかかって来るが良いデース!!」

「なッ!?」

「ぐぁあああああ!!?」

「ちょ!? 待て! 警官への暴うべぇええええええ!!?」


 不審者を拘束に来た完全装備の機動隊員に対して、巫女侍は何も考えずに大刀をフルスイング。ポリカーボネートの盾の上から、力任せに叩きつける。

 機動隊員は、たかが少女の攻撃など、簡単に跳ね返せると考えていた。

 どころが、最初のひとりが何メートルも宙を舞い、悲鳴とともに海に消えたその瞬間に、認識を改めさせられる事となる。


「こッ!? 後退しろ後退ー!!」

「なんだコイツはー!?」


 それまで、鎧武者とカウガールのやり様をウズウズしながら見ていた巫女侍は、雨音によって放たれた矢のように、三尺三寸の大刀を振り回しながら警官隊の壁に突っ込んで行く。 

 まさか警官隊も、防弾盾ごと大の男を吹き飛ばしに来る巫女さんの存在など、想像もしない。

 突如怪物が出現したに等しく、警官隊後方は大混乱に(おちい)り、対鎧武者の前線までが乱れ始めた。


「さぁて参るでゴザール!!」

「勝左衛門……怪我させないようにねー」


 そして現状役立たずの黒アリスは、落ちていた機動隊の盾を拾い巫女侍の後を付いて行った。


「斬り捨てッッゴメーン!!」

「ぎゃぁあああああああああ!!」

「うわッ!? ちょッッ!!」

「落ちる落ちる落ち――――――――――――!!」


 巫女侍、秋山勝左衛門あきやましょうさえもんも、馬に乗る二人の魔法少女に負けてはいない。

 巫女侍となったカティの最大の魔法は、そのバカげた馬鹿(バカ)力だ。あまりにも常識を外れているので2度言った。

 素手で車の衝突事故並みの破壊力を叩き出し、斬れ味不明の大刀による一撃は、大型観光バスから5階建の百貨店まで一刀両断して見せる。

 雨音から見て、いまいち威力が安定せずにムラがあるようだったが、これは性格に()るものだろうと考えている。

 だが、どれほど不調であっても、人間くらいならば楽に吹き飛ばせる巨大な(ちから)だ。

 巫女侍は大刀を機動隊員の盾に触れさせるや否や、


「セイ、バーイ(成敗)!!」


 その後方の機動隊員まで巻き込んで、一度に2~3人を防波堤から海に向かって(はじ)き出す。

 今度は先ほどまでと違い、防波堤の(せま)さと自分達の密集具合が、機動隊側の(あだ)となっていた。


「な……なによあのコー!? また悪い仲間を増やしたのー!?」

「あの方々は偶々ここに来ていただけでござる! 拙者と違い(とお)す意地があってここに踏み止まっているワケではござらん! 見逃(みのが)されよ!!」

「もう遅いよー! 警察官に対する暴力で逮捕だよー!!」

 

 ちょっと(見逃してくれないかなぁ)と、鎧武者とプラチナブロンドの魔法少女の会話を聞いて、期待してしまった雨音であった。

 大きな瞳を吊り上げた縦ロールの魔法少女は、槍を振るう馬上の鎧武者から、器用に機動隊員の鉄兜を足場に使って大きく距離を取る。


「しょうがない……これは使いたくなかったけど!」


 幼い顔を苦そうに(しか)めるプラチナブロンドの少女は、微動だにしない機動隊員の上で手にした警棒を(かか)げ、クルクル回ってミニスカートを舞い上げたかと思うと、



「マジカル! ウェストタイトロープ!!」



 警棒とは逆の手から、猛烈な勢いでヒモのような物を発射した。


「なっ――――――――――――!?」


 ヒモが鎧武者の胴に巻き付くと、プラチナブロンドの少女の方へ引っ張られる。

 更に、慌てる鎧武者の少女へ追い打ちをかけるように、プラチナブロンドの魔法少女が警棒を回すと、金属の擦れる音を立てて、何かがそこに(まと)わり付き。



「アーンド! マジカルワッパー!!」



 警棒は鎧武者の少女の方へ振るわれ、飛び出した手錠(てじょう)が鎧武者の少女の片手を捕らえた。


「ッ!? 何と!!?」

「子供相手にこんな事はしたくなかったけど、これ以上罪を重ねない為にも強引にやらせてもらいます! 親御さんを泣かせない為よ!! 観念しなさい!!」

「今までのは……本気ではなかったという事でござるか……」


 鎧武者の少女が焦りを(にじ)ませる。今まで手を抜かれていたという悔しさもあった。

 だが、不利に追い込まれたとはいえ、まだ勝負が決まったワケではない。


「若いうちならやり直せるんだから、お願いだから大人しく捕まってね!」

「なんの……ならば拙者も本気を出させてもらうだけの事! トリア殿を幼子(おさなご)(あなど)っていたのを謝るでござるよ!」


 鎧武者の少女はヒモで繋がれたまま、槍を背負うと腰の(サヤ)から刀を抜いた。

 プラチナブロンドの魔法少女は「んもー分からずや!」と(ほお)(ふく)らませて、鎧武者の少女を繋いだロープを持つ手にも、もうひと振りの警棒を握り、



「『幼子』……ってか、お姉さん(・・・・)、お(いく)つ?」



 何故か、良く響いた黒アリスの科白(セリフ)に、その姿勢のまま硬直してしまった。


                        ◇


 やや舌ったらずな幼い声色。だが、その口調と語る内容には、かなりギャップがある。始めは、子供が大人ぶって喋っている様なものだと思っていた。

 だが、落ち着いてよく聞くと、実際には大人が(・・・)子供の口で(しゃべ)っている様な印象を受ける。

 現場の混乱の最中で雨音が感じた違和感は、その後の鎧武者の少女とのやり取りを見ているうちに、確信へと変わっていく。

 事によっては、この科白(セリフ)は残酷なものになると雨音には分かっていても、鎧武者の少女が形勢不利となれば、その()いを疑惑の少女に(ただ)さないワケにはいかない。

 つまり、残虐非道の精神攻撃である。

 雨音だって身につまされる。その気持ちはよく分かる。だから、こんな事言いたくない。

 でも、どうやらこのチビッ子魔法少女をどうにかしない事には、全員で逃げるのは不可能なようで。


「……20代から30代、って所ですか。そんな大人がその格好……後で我に返った時に、死にたくなったりしません?」


 可能な限り相手を思い()った(?)優しい口調が、黒アリスの問いを、返って歴史上類を見ないほど、残酷なものとしてしまった。


「なぁ……ぐ!? ってぇ……ぉお……!!?」


 年齢の予想は、完全に当てずっぽう。大体この辺と言っとけば当たるだろう、程度の考えだった。

 ところが、雨音の予想を遥かに超えたダメージが入った様子で、プラチナブロンドの愛らしい魔法少女は、その顔を真っ青に染めて小刻みに震えている。酸素欠乏(チアノーゼ)状態である。


「トリアちゃん!?」

「大丈夫かトリアちゃん!?」

「と、トリアさん? 大丈夫!?」


 行動不全(フリーズ)(おちい)ってしまった我らが魔法少女刑事(デカ)を、動揺する機動隊員達が見上げていた。一部若い警官からは、既に『さん』付けなのが、またダメージが大きい。

 そして、そのトドメに、


「ぶはははははは! なにアンタそんなブリブリな変身して三十路(みそじ)越えてんの!? 痛タタタタタタ!! アハハハハハハハハハ!!!」


 警官を引き摺りながら馬を疾走させるハイレグビキニのカウガール魔法少女が、器用にもその状態でプラチナブロンドの魔法少女を指差し、爆笑していた。

 プラチナブロンドの魔法少女は、追い打ちを喰らい顔色を青から白へと変えてしまう。

 雨音の予想外過ぎた。ちょっと動揺を(さそ)って、鎧武者の魔法少女の援護が出来るくらいで良かったのだ。


「と……トリア、殿?」


 一騎討ちの相手が完全に固まってしまい、鎧武者の少女も対応に(きゅう)す。まさか斬りかかるワケにもいかない。縄を解かないのが、鎧武者の少女らしい(・・・)が。


「これは……いかんかも」

「どうしてデス?」


 向かって来る警官がいなくなり、手持無沙汰(てもちぶさた)の巫女侍が、黒アリスの(つぶ)きに首を傾げていた。

 確かに、雨音の狙い通りに相手に心理ダメージを与える事には成功した。

 繰り返すが、ちょっと動揺を誘うだけのつもりだったのである。

 だが、結果は動揺どころの騒ぎではない。うっかり急所に入ってしまったのか、相手は精神的に死にそうになっている。

 ここまで相手を追い詰めてしまった場合、この後に予測できる展開と言えば。


「こ…………こ…………この…………!!」


 小さく、可憐で、愛らしい少女の(くちびる)が小刻みに震え、耳を疑うような低い声が、防波堤に響きだす。

 切っ掛けを作ってしまった雨音は、ポリカーボネートの盾に隠れるように縮こまり。



「この小娘どもぉおおおおおおお!! わたしはまだ三十路前だぁアアああああああ!!!」


 

 プラチナブロンドを豊かな縦ロールにした愛らしい魔法少女は、その場の全員の(きも)を潰す程の怒声を吐き出していた。


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