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いまさら魔法少女と言われても  作者: 赤川
Wave-04 他でもない交戦規定はあなたの為に
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0006:戦国武者系・ミーツ・カウガール系

 本物の(サムライ)を前に、バッタもんの巫女侍が打ちひしがれていたその頃、防波堤からは直接見えない脇道に、複数台のワンボックスカーが停車していた。

 各車にはいずれも、表情は鋭く、緊張し、体格も並ではない男達が乗車している。総勢で20人以上いるだろうか。

 6月に入るか入らないかという時期の早朝に、(ほの)かな熱気を(まと)いながら男達は車外へ。口数少なく、押さえた声で主語抜きに、お互い何かを確認し合っている。

 しかし、


「彼女は?」


 男達の中で、年嵩(としかさ)の男が誰ともなく問うと、全員が一斉に顔を上げた。

 年嵩の男が誰の事を指して『彼女』と言ったのか、全員が理解している。

 しているのだが、その『彼女』が今、どこで、何をしているか、誰一人として答えられる者はいなかった。


「問題ないだろう。いつもの事だ」


 とはいえ、誰かが言ったように、特に問題視もしない。

 例え理性を欠いていると言われても、例え、後から冷静に考えれば誰が見たっておかしなことでも、この場にいる彼等は、誰一人疑問を持つ事は無い。

 それは、『彼女』のもたらす不可思議な現象が、事実彼等の使命と矛盾するものではないからだろう。


「あと15分だ。封鎖終わってるな」

「はい、予定通りにヘリも到着する筈です」


 男達はワンボックスカーの中から着替えやら装備(・・)やらを取り出すと、銘々(めいめい)に身に着けていく。

 ごく普通の格好をしていた男達が、全員で揃えの制服に着替え、


「よし――――――――――――」



「――――――――――イッくよー!!」



 準備が整うと同時に、剣呑な男達の中にあって酷く場違いな、(きら)めくような少女を迎えていた。


                       ◇


「…………ブシドー、って何デス?」

「目の前に本物がいるんだから聞いとけばいいじゃない」

「ぇえッ!!? そんな……拙者はそんな大した武士道(もの)なんか…………」


 巫女侍が体育座りで海を見ながら黄昏(たそが)れてしまい、生真面目な鎧武者の少女は自分のせいかとうろたえる(・・・・・)が、相方らしきミニスカエプロンドレスの少女はツレない態度。

 本当にこの人達何しに来たんだろう、と思わずにはいられない、戦国武将系魔法少女である。


「まぁ、あっちは後でどうとでもフォローしておくわ」

「はぁ…………」

「それより聞きたいんだけど、さっき言ってた他の能力者……魔法少女って――――――――――――」

「慰めてくだサーイ!!」


 相も変わらずドライに巫女侍を見捨て、さっさと話を次に進めようとする黒アリス。

 これも信頼故の事ではあったが、精神的に弱り切った巫女侍は我慢ならずに、半泣きで親友の背中に飛び付いていた。


「もー何よ勝左衛門……? 後で慰めたげるわよ。話が進まないのよ」

「カティはいま巫女侍というレゾンデートルに悩んでるデスよ!? ちょっとやっちまった感をカモし出してるデスよ!!? このカン違いを引きずったまま手遅れ気味に気付いていたたまれ(・・・・・)なくなってる親友を放っとけるアマネのクールっぷりが平常運転すぎてもうカティは実家に帰らせていただきたいデース!!」

「あー分かってる分かってる気持ちは分かる。でもね勝左衛門。今更過去は変えられなんだから、あんたもう魔法少女やめるか、勘違いしたパチもんのまま開き直るしか選択肢ないのよ」

「スーパードライデース!! そんな黒アリスさんにシビれるアコガれる!!」


 そして前回に続いて、2度3度と案の定口を滑らせ本名を口走ったカティへのお仕置きが決定していた。

 コイツやっぱり縛ったままクルマに置いてくるべきだったか。

 背中からカラダ全体をグリグリ()りつけてくる巫女侍を、どう処理してくれようかと黒アリスさんが、顔に影を落としてエグイ事を考え始めた、その時。


「あらあらあら? 何か今日は華やかな事になってるじゃないの」

「…………はぇ!?」

「あ…………!」


 唐突に覚えのない女性の声が聞こえたと思ったら、次に響き渡るのは、コンクリートへ打ち付ける(ひづめ)の音。


「ハァッッ!!」


 勇ましい掛け声とともに馬は(いなな)き、往く道を(はば)む鉄柵を、難なく飛び越えて見せる。

 まさにそれは、我が往くべき方向こそが新たなる道とでもいうべき開拓者精神フロンティアスピリッツか。


「ヤーハー!!」

「ぅわあッッ!!?」


 真っ白な四肢ある巨体が、黒アリスの目の前に降ってくる。

 全身筋肉の躍動(やくどう)収まらぬと、前足で大きく跳ね上がる、美しい白い馬。



 その背に(またが)っていたのは、ハチ切れそうなグラマーボディーに旧古米国旗(星条旗)柄のビキニ水着を身に着け、その上にカウボーイレギンスとジャケットを(まと)う、テンガロンハットを被ったワイルド金髪少女だった。



「なんと…………!?」


 ある意味においてあまりにも(いさぎよ)い格好に、黒アリスな身の上の雨音は思わず感嘆(かんたん)してしまう。

 本人に迷いが微塵(みじん)も感じられないのが良い。

 そんな、セクシー系カウガールのステレオタイプを体現したとも言える、このダイナミック乱入(エントリー)少女は一体何者かと言えば。


「ストーン殿!」

「ハーイ四五朗(ジゴロー)! 今日も陣中見舞いに来たわよん」


 島津四五朗(しまづじごろう)を名乗る戦国武将系魔法少女の既知である、カウガール系魔法少女であった。

 分かってはいたが、もう何でもアリである。


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