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いまさら魔法少女と言われても  作者: 赤川
Wave-01 そもそも魔法少女である必要があったのか
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0011:魔法少女テンプレート



 そして話は冒頭へ戻る。


 強いアルコールでも()ったかのように、旋崎雨音(せんざきあまね)の世界が揺れ、全ての記憶が意思に反して勝手に開示されていく。


「ぉ………ぅおぉ………?」


 見えているのに何も見えず、雨音は何もない空間でたたらを踏んだ。

 何かに掴まろうと手を伸ばすが、既に木のテーブルも焼き肉テーブルも射撃のレンジも、その場には存在していなかった。

 幸いな事にその症状は長く続かず、間もなく雨音は正常な感覚を取り戻す事が出来たが。


「…………お? あ??」


 いつの間にか目を(つむ)っていたらしく、気が付いたら目の前が真黒でビックリ。

 そうして(まぶ)しいのを(こら)えて目を開いたならば、雨音の前に、ヤクザかギャングの如き中年タフガイが(たたず)んでいたと、こう言うワケだ。


                        ◇


『以降、ガイダンスプログラムは「魔法少女・トランスライザー」付属コンポーネント、「マスコット・アシスタント」として正規IDを持つ「魔法少女・トランスライザー」ユーザをサポートします。なお、マスコット・アシスタントの視覚データはユーザーの擬態偽装(トランスミミック)参照データ内より関連する別の人物をモデルに候補を選択していただいてます』

「そこは重要なポイントじゃないかな事前に説明を要する所じゃないかな!!?」

『複数パターンから貴女に選んでいただいたモノですが』

「ウソッッ!!? そんな物あたしは選んだ記憶…………あれ? あったっけ?」

「……………」


 あたしは無実だと勢い込んで()み付いたものの、言われてみれば、酔っ払って頭がグルグルしている最中に、そんな事を()かれたような気も。

 だがそんなのは雨音のせいではない、と言いたい。あの状況でまともに頭を働かせる事が出来ようか。


 やっぱり登録の事も含めて再度抗議したい雨音だったが、そこでフと、自分の背後に立ち尽した、静かなるオヤジの存在を思い出す。

 恐る恐るといった様子で、腰の引けた雨音はゆっくりと振り返った。いつでも逃げ出せる体勢である。


「………これが、ボク?」


 いつの間にか姿見が現れ、極道風オヤジが自分の姿をマジマジと眺めていた。

 しかし口調からして中身は少年のまま。ショタ趣味の婦人、ないし腐人なら、その存在を許してはおかないだろう。

 雨音としても、何と言っていいかは分からない。大塚〇夫のような激渋の声色が、一層残念だった。


                       ◇


 (うずくま)って泣きじゃくる見た目40代のオッサンを前に、未だ人生経験浅い女子高生でしかない雨音としては、かける言葉が見当たらず。

 そして現実逃避気味に、自分が手にしていた鉄の塊に目を移す。

 過大な修飾を一切排して、ただそのモノを一言で言い表わすのならば、「銃」である。

 それは良い。その様に雨音はオーダーしてしまったのだから。


 ただこの凶器、どうやら魔法少女繋がりで「魔法のステッキ」として分類(カテゴライズ)されるらしい。

 つまり、雨音が何かしら特殊能力を行使しようと思ったら、そのビッグマグナムをぶっ放せ、とこう(おっしゃ)るのだ。


「…………なんで、そんな面倒な仕組みに」

『「アドバンスド・コンポーネント」の仕様として、起動ツールを介しての能力使用がひとつの本人認証となっております』

「あたしが言いたいのは、誰がこんな趣味的な作りにしたのかちょっと正座させて問い詰めたいんだけど。アレ(・・)の事も含めてね」


 どこの誰でも良いが、こんな仕組み――――――この空間と可哀想なマスコット含め――――――考えた誰かさんは頭がおかしい。


『付け加えますと、貴女の起動ツールは実銃としても使用可能となっております』


 それも雨音にはどうでも良い事だ。全てが無理繰り魔法少女という(ワク)に押し込めているだけではないか。

 魔法のステッキ、マスコットキャラ。その実態は、象でも打ち殺せそうなマグナムキャノンに、クライムムービーで警官相手に銃でも撃ってそうなバットガイ。

 クールでソリッドでノーマーシーな安全装置付き銃愛好家御用達能力ならともかく、悪ふざけとしか思えない魔法少女変身セットは要らんのです。


「………返品で」


 ところが、その訴えは聞き届けられないとのたまう声。

 それは何でだ話が違う。ここまでの(1~10)を全て引っ繰り返してでも、こんな似非(エセ)魔法少女変身キットは断固返品させてもらう。

 雨音は当然、そう気勢を上げるつもりだった。

 魔法少女なんて恥ずかしいモノに成るなど聞いてない。

 ところが、


「………アマネちゃんはまだイイじゃないかー!!」

「ッぉおう!?」


 魔法少女の物言いに何やら思う所があるのか、肥満手前のマッチョに肩を(つか)まれ、その気迫に言葉が詰まった。


「アマネちゃんは可愛く変身出来ているじゃないか! 何が不服なのさ!? どうしてボクの方はこんなエンディング5分前で滅多撃ちにされて死にそうな見た目なのさー!! こんなの魔法少女のお伴じゃないー!! 強盗かテロリストの運転手役だよー!!」

「ってかアンタ……!? どうしてそんな魔法少女に拘りが………それでも割とカッコいいと――――――――!!?」

「ワァアアアアアアアアアアアアアアァァアァアアアアアアアアアアアアアアァアアアアアアアン!!!」


 雨音には相手の生まれや背景を知る由も無いが、その涙と叫びには、魂から発するものを感じる。

 この連中にも、色々将来の夢とか希望とかがあったのかもしれない。

 魔法少女がこんな感じな時点で、夢も希望も遥か彼方に放り投げていたが。


 こんな魔法少女、荒野のガンマンスタイルで日陰をクライムムービーよろしく小さな幸せに背を向けて明日無き明日に当てどなく踏み出すだけであった。

 そんな現実逃避を、大男に肩をガクガク揺さぶられながらしていた雨音さん。

 正面を直視できず、顔を背けると、そこには魔法少女のマスコットに一家言あったギャングスタが、己の惨状を確認してしまった姿見が。


「ん…………?」


 姿見は雨音ともうひとりの方を向いているので、当然雨音と悲劇のマスコットキャラクターが写り込んでいる筈であった。

 号泣している四十男は、しっかり写っているので良い。


 だが誰だろう。

 雨音よりも少し年上に見える、やたら短いスカート丈のエプロンドレスに身を包んだ、この世の無常を忘れ去ろうとする表情をした金髪の美少女は。



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― 新着の感想 ―
読み直してみるとつらつら思うが、特に事件があった訳でもないのに、ここまで魔法少女に変身するまで話を要した小説も珍しい。
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