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いまさら魔法少女と言われても  作者: 赤川
Wave-04 他でもない交戦規定はあなたの為に
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0001:突撃隣の魔法少女

 月に一度くらいのペースで、夕方のニュースの特集コーナーに『困った人間大集合』なるものが放送される事がある。


 もはや珍しくなくなった、家の中にゴミ――――――個人的価値観にもよる――――――を()め込む隣人。

 河川敷(かせんしき)で禁止されているゴルフの打ちっ放しを行う会社員。

 砂浜で禁止されている花火を打ち上げる若者。

 ブレーキの無い自転車でアーケード街を突っ走る子供。

 進入禁止の通学路を我が物顔で押し入ってくるダンプカーと運転手。


 と、扱われるヒトの迷惑行為は、枚挙に(いとま)がない。

 それこそヒトが(ひし)めき合う社会であり、また人間に自由意志と自由な行動が許されている以上、利害の異なるヒトとヒトとの間で摩擦(まさつ)や衝突が起こるのは必然だ。

 つまり番組制作サイドがネタに困る事も無いのだろう。

 そんな特集にあって、定番ネタとでも言えるものがある。



『あのーすいません! ここって立ち入り禁止ですよね? 看板に立ち入り禁止って書いてありますよ?』

『…………』

『入ったら危ないですよ!』

『…………』

『ここの鍵ってどうやって手に入れられたんですか?』

『…………』

『すいません――――――――――――』

『あー邪魔だ邪魔邪魔! 何様だお前らブッ殺すぞ!!』

『でも入っちゃいけない所ですよねー?』



 レポーターがインタビューを(こころ)みるも、顔にボカしを入れられ声も変えられている男性はインタビューを無視し、レポーターがしつこく食い下がろうとすると、ついには声を荒げて恫喝(どうかつ)する。

 そして男性は悪態をつきながら、鉄の門や有刺鉄線で封鎖された防波堤へと様々な手段で潜り込み、危険な立ち入り禁止区域で堂々と釣り針を投げるのだ。

 その防波堤を管理してる東京都は、波に(さら)われたり海に落ちたりする危険性があるとの理由で、防波堤への立ち入りを禁止している。

 しかし、大物が釣れる魅力的な釣り場である防波堤には、禁止されても無視して入り込み釣りをする、所謂(いわゆる)『無法釣り人』が後を絶たない。


 当初は単なる(さく)だけの封鎖が、そのうち鍵が付き、鎖が巻かれ、有刺鉄線が張られ、鉄の門が出来、更に門が二重になり、と大仰になってゆき、そして釣り人は何が何でもそれらを()い潜って防波堤に入り込み、釣りを(たの)しんで来たのだ。

 なお言うまでも無いが、釣り人の阻止行動には税金が使われている。

 この、行政と釣り人のイタチごっこ(・・・・・・)が、『困った人間大特集』の最右翼として、長くコーナーの()りを飾って来た。


 ところが、このコーナーはある日を境に急激な方針転向を迫られる。


                      ◇


 ある日曜日の午前6時。

 昇りつつある太陽の光を反射し、海が真っ白に輝いている。

 東京某所の防波堤には、今朝も早くから釣り人の姿を見る事が出来た。

 そして、防波堤入口に近い道路の路肩には、一台のワンボックスカーが停車していた。


「…………今日も来ますかね?」

「そりゃ来るだろう。毎週来てるんだから」


 ワンボックスカーの中には、3人の男女を見る事が出来る。ワンボックスカーはテレビ局が借りた物であり、乗っているのは局の人間。担当D(ディレクター)一名、カメラマン一名、紅一点のレポーター一名だ。

 彼等は夕方のニュースで使う映像素材の取材(クルー)であり、(くだん)の『困った人間大集合』も彼等が受け持っている。

 カメラマンは機材の確認がてら、車内から防波堤の入口を撮影していた。カメラの前でまたひとり、蛍光色のベストに釣竿と言う格好の釣り人が、防波堤の中へと消えていく。

 しかし、今となっては(・・・・・・)テレビクルーの被写体(ターゲット)は、彼ら無法釣り人ではなかった。


「おい丈井、しっかり見張っとけよ? 来たらすぐ出るからな。」


 後部座席をリクライニングさせ、半ば寝そべりながらタバコを吹かすヒゲ面の男は、ダルそうな口調で前席のレポーターに言う。


「で、でも古浦さん……相手、()で来るんですよね?」


 一方の前席、レポーターなのに運転させられている新米レポーターの丈井女史は、緊張に顔を強張らせていた。

 無法釣り人へ体当たり取材するにあたり、暴力を振るわれる可能性も十分にあったレポーターやカメラマンには、普段からそれなりの備えがしてあった。

 だが、今回の備えは今までの比ではない。

 丈井女史は『安全第一』と書かれた工事現場ヘルメットに、トラックに踏まれても痛くない安全靴という装備。カメラマンも似たような格好だったが、ただひとりディレクターだけは無防備な普段着だった。


                        ◇


 ある放送回から、立ち入り禁止の防波堤を巡る報道は、完全に(おもむき)の異なるものとなってしまった。

 撮影した直後は、『こんな絵(映像)使えねー』と言われてお蔵入りになりかけたが、制作局トップの『イケる!!』というツルの一声で放送に使われるのが決まり、実際に電波に乗るや、大きな反響と物議を醸し出した。その後の『吸血鬼報道』によって吹き飛んでしまったのも事実だが。


 だが、今回の取材は、その第二弾。

 取材対象は毎週のように防波堤を襲っている(・・・・・)のが確認されており、取材班は対象が現れるのを今か今かと――――――ディレクターだけかもしれないが――――――待ち受けていたのだ。

 来ないと取材にならない。放送素材も撮れない。仕事にならない。

 しかし、今回の放送対象のスゴさ(・・・)は無法釣り人の比ではない。

 来て欲しいような来て欲しくないような。

 レポーターの丈井女史は複雑な想いに下っ腹を痛くし、ハンドルに顔を突っ伏させていた。


 その時、丈井女史の耳に入る、微かだが小気味良いテンポのスタッカートが。


「…………あ?」

「あ、お!? おい来たんじゃないの?」

「あ、はい、音入ってます」


 何かを打ち鳴らす乾いた音は、徐々に大きくなってくる。音の主が、取材班のクルマに近づいて来ているのだ。

 3人がそれぞれ、運転席から前を、後部から後ろを注視する。

 発見したのは、後部ハッチの窓から道路の先を見ていた担当ディレクターだ。


「おい来た来た来た来た!! カメラカメラカメラカメラカメラ!!!」

「ハイハイハイハイハイ!!」


 車内が慌ただしくなり、3対の目とカメラがワンボックスカーの後方へ向けられる。



 その直後、赤備(あかぞな)えの鎧武者が(たくま)しい栗毛の馬を駆り、彼らの真横を駆け抜けていった。



「おーし来た来た来たぁ!! 行くぞ取材行くぞ!! 亀さんいいとこ取り逃がすなよ!!」

「はーいはいはい、丈井さん行くよー」

「分かりましたー…………」


 ディレクターとカメラマンが車外に飛び出していく。

 レポーターという立場上残る事も許されず、丈井女史は不承不承に返事をすると、運転席から外に出て、


「どうも申し訳ございません…………」


 いきなり謝ってくるミニスカエプロンドレスの少女(?)によって、その鼻先に銃口を突き付けられていた。


 『いまさら魔法少女と言われても』はフィクションです。

 登場する人物、場所、出来事は、実際のものとは一切関係ありません。

 第4章開始です。お付き合いいただければ幸いです。 

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