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知性あるもの

作者: 雷帝

「武器っちょ企画」参加作品です

 その魔術師は今日も今日とて書物をめくっていた。

 優れた容姿と才能を持ち、エルフという種族故に長寿を誇る。天に恵まれたその女性はけれども幾多の国に求められた仕官を断り、ある王国の王都にて私塾を開いていた。

 生活ならば冒険者時代に築いた莫大な富がある。権威なんて面倒臭い。

 そんな思いから比較的干渉の緩かったこの王国に居を定めて幾年か。知識を求めて学びに来る者は拒まない故に王国の宮廷魔術師団にも幾人もの教え子がおり、彼らは現在も彼女に礼儀を尽くすし、そもそも現在の団長自身が教え子な彼女に手を出す馬鹿はいない……例外を除けば。

 入り口付近が賑やかになったのに気づいて彼女は深い溜息をついた。


 「やれやれ、また来たのかい?」

 「当然!今日こそ良い返事を頂きに来た!!」


 足音を立ててやって来たのは筋肉質な大男。

 単なる無礼者ならばさっさと叩き出している所だし、そもそも彼女に手を出した時点で王国から追放される可能性すらある。

 だが、例外はこの男。

 王国第二王子にして近衛騎士団でも有数の腕を持つ人物。 

 教え子の一人である第一王子からは恐縮されたが、とりあえず彼らとしても対処に困っているようなのでこちらから手を出しても文句を言わない事を条件に放置している。

 ……多少煩いだけであるし、今日までは。


 「言っているだろう?私にはそのような事に興味はないよ」

 「いや、今日こそ良い返事を貰いたい!!俺の妻になれ!!」

 「断る」


 そう、この男は彼女を口説いていた。

 面倒な、と溜息をつく。

 こんなお婆ちゃん相手にしても仕方あるまいに。そうとも思う。

 何しろ、見た目こそ若いが彼女はエルフ故に長寿であるだけ。目の前の第二王子どころか王太子である第一王子が生まれる前から知っているのだ。

 この第二王子もおしめをしていた頃からよく知っている。……まさか小さな子供の頃の「僕はあなたを妻にする!」が本気だとは思わなかったが。

 まあ、それも自分が彼に甘い理由なのだろう、と薄々察してはいる。彼の両親や兄弟姉妹とも家族ぐるみでの付き合いのある、赤子の頃から知っている子供。子供を作ろうとしてこなかった自分には彼らは可愛い子供でもある。

 だからこそ、こんな行動に出るとは予想していなかった。


 「……だが、俺は…っ!」

 「!?」


 突然押し倒された。

 まさかこの子がこんな直接的な手段で来るとは想定外だった。

 ……思っていた以上に気持ちがたまっていたらしい。とは思ったものの、これは拙い。

 身を捩ってみたが、所詮自分はエルフの女魔術師。鍛え上げられた人間の男の騎士相手に腕力では敵わない。魔術を使えば別だろうが、吹き飛ばすのも何だし……。

 そう迷い、その迷い故に弾き飛ばされるのを免れた男はそれを了承と勘違いしたのか手を伸ばしかけて。

 

 『おい、ひとの女に手出してんじゃねえよ!』


 突然響いたそんな声にぎょっとして慌てて顔を上げて周囲を見回した。

 そんな馬鹿な、誰もいなかったはず。そう思ったのだが、確かに周囲には誰もいない。

 疑念を持った男の視界に僅かに片腕を動かす想い人たる魔術師の姿が映り……。


 ゴン!!


 と物凄い音がした。

 手で殴っても彼女の細腕なら、そう思っていた彼の想定外の強烈な一撃。


 「ど、鈍器……?」


 そう言って気絶する男をさすがに冷たい目で見下ろしながら魔術師は男を殴り倒した一品をそっと卓上に置く。


 『おいおい相棒。そういう使い方は勘弁してくれよ』

 「すまないね。一番早かったんだ」


 相棒のぼやき声に魔術師は苦笑しながらそっとその表紙にその細い指を這わせる。

 彼女の窮地に空を舞いやって来てくれた分厚く金属で補強された相棒であり、魔術師の彼女の武器たる「知性ある魔道書」を……。

ファンタジーでの武器と聞いて思い浮かんだお話です

こんな武器もあり、かな?

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― 新着の感想 ―
[一言] あま~い……のかな? しかし“武器”の出番が最後の数行ってw
[一言] 武器っちょ企画より参りました。 ヤキモチ妬きで『鈍器な』相棒いいですね。
[良い点] やられました! まさに短編! キレのいいオチに感服です!
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