序
それは突然空に現われた。
仄暗い祭壇の前で美しい少女が一心に祈りを捧げている。
「ζ※Πτд∬‰ ιΔшЦтыξ」
異国の言葉なので少女の言葉は理解できないが、透明感の高いその声音が美貌ともあいまってか、言葉は通じなくともただただ絶望に打ちひしがれている事は胸を貫くような痛みと共に伝わってくる。
「ζ※Πτд∬‰ ιΔшЦтыξ(女神様は私達をお見捨てになられたのですか?)」
耳に自信はないが先程と同じ内容を繰り返したように思う。
意味が分かったのは画面右にテロップが表示されたからだ。
突如場面が変わり、松明を掲げどこか暗い場所を歩いている集団が映された。
カツーン、カツーンと歩く音がやけに響く事を考えると洞窟の中ということだろうか。
彼ら?は全4人のようだが全員頭までをすっぽりと覆うローブを着ているためにどのような人物なのか判別できない。
「このままでは、そう遠くない未来に・・・」
少女にまた場面が切り替わったと思うや否や、フード付きローブの人物の独りが遠くまで見渡そうと松明を高く掲げる様子へと切り替わる。
「魔の物共に・・・世は・・・」
少女とローブの集団との場面が交互に入れ替わる。
松明を持っていない別の人物がやおら手を上方に伸ばすとそこから光球が斜め前方に打ち出される。
ひゅるひゅると光は進み予定の高さまできたのかその動きを止めた所で再度少女へと切り替る。
「・・・覆い尽されて・・・しまいます」
上げた視線先には、少女の言う女神様だろうか。
何者をも拒絶するような厳しい表情にも見えるが、全てのものを慈しみ包み込むような表情にも思える。
ボッという音と共に光球はまるで昼間のような明るさまで辺りを照らすと、そこには首をもたげたドラゴン!!
今まさに炎を吐こうと息を吸い込む。
ローブの人物達は一瞬互いの顔を見合うと、二人一組になり左右に分かれて走り出す。
それと共に危機を煽るような音楽が流れ出す。
ドラゴンは自分の右側に来た二人に炎を吐こうといたところで、突如左側に体勢を大きく崩した。
結果、炎もあらぬ方向へと放出されていく。
足元を見ると地面が大きく割れており、そこに落ちてはまり込んだようだ。
体勢を崩した後に、杖を持ったローブの人物が映ってにやりと口元を歪めたところを見ると魔法のような超常の手段を用いてドラゴンの足元を掬ったということだろうか。
一方でこれをチャンスとばかりに、左側からは巨大なハンマーを掲げた人物、反対側からはこれも巨大な剣を肩に担いだ人物が接近して一撃、二撃とドラゴンに打撃を叩き込んでいくが、龍鱗がとても頑丈なためか目に見えるような傷はできていないない。
そうこうしている間に残りの二人も氷の塊などを射出して攻撃していくが、ドラゴンも負けじと振り回した尻尾にハンマーの人物が打ち据えられて壁目掛けてぶっ飛んでいき、岩を砕いてめり込んだ。
「くっくっくっ、貧しい善良な臣民から金を巻き上げる事しか能がない貴様らにこの事態を乗り越える手段があるとでも?」
「な、女神様にお使えする我々をその様に侮辱するとは、女王たるあなたとてただではすみませんぞ!」
「ほう、ならばどうするというのだ」
「っ!!」
燃えるような赤髪の王たる威厳を備えた女性が、太った神官服を着たような人物を椅子から見上げるように睥睨している。
まさに役者が違うという事のお手本のような場面だ。
ドラゴン戦に切り替わると、先程ぶっ飛ばされた人物が凶暴な笑みを浮かべてめり込んだ壁の中から出てくる。
先程攻撃を受けた為なのか、あれほど激しく動いてもフードすら脱げなかったローブを纏っていなかった。
その容貌は所謂、ドワーフいう種族を感じさせるものだが、体躯は大柄でがっちりしたものであり短躯短肢の矮人といわれるそれとは全く異なっている。
男は、獣のような雄たけびを上げつつ戦線に復帰していった。
その後も主要人物と思われる数名が思わせぶりにセリフを述べる場面と戦いの場面が交互に繰り返されたところでついに青く光を放つそれで、大剣持ちの人物がドラゴンの首を跳ね飛ばした。
「門を開きなさい」
「門を・・・」
「そうです。その先に希望が眠りに就いています」
少女と女神像の場面に切り替わる。
先程までと異なっているのは女神像が青白い光を放っており、少女に対して声を発している事だろうか。
カツーン、カツーンと響く足音と共に光射す出口に一歩一歩近づいていく。
光の奔流をくぐったと思われる瞬間、空から一気に崖に向かってズームアップされると今まさに洞窟から出てきたと思われる4人組を捉える。
ドワーフ顔の大男がいるのを見ると先程ドラゴンを倒した一行だろう。
「疾く、辿り着かねば・・・な。もう時間は残りすくなかろうから・・・」
4人組の視点に切り替わる。
眼下の鬱蒼と広がる森の先、険峻な山の頂付近に大きな門が見える。
これまでどれほどの距離を移動してきたかは不明だが、彼方の山の頂まではまだまだ時間が掛かりそうだ。
「急ぎなさい、人の子達・・・」
場面は暗転し、言葉だけが紡がれる。
「約束の刻はもう直ぐなのですから・・・」
それは終わり、始まる前と同じように雲ひとつない青空のみとなった。