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それを見た長の妻は息子を連れて森の奥へと逃げ込み、魔力を使って一つの城を作りました。
シナリオ通りに幼かった息子を魔王とし、少年がこの城にたどり着くまで待ち続けようと決めます。
森に住むほとんどの生き物を殺し終えた少年は青年へと成長していました。
幼かった魔王も少年になり、男のシナリオを信じて城で暮らしていました。
人間のためと魔物を退治し、魔王を倒そうとする勇者は青年の仮面を被ったただの嘘つきピエロ。
自分を魔王の息子と信じ、男のシナリオの一部となった小さな魔王はただの少年。
このお話はまだ始まったばかり、終演の幕が下りるのは役者次第。
「あなたのシナリオはめちゃくちゃね。本当はただの人間なのに。勇者なんて存在しないのに。何を考えているの?」
リリィの話を聞いて固まる小さな魔王、フィルド。
カタカタと音を立てて震えだす勇者、ルジュ。
「嘘だ!そんなことはただのデタラメ。僕は完璧な勇者。キミはただの妖精だろ?この世界の何を知ってるというんだ!!」
カタカタと音を立てて震える鎧。
緑の髪は乱れ、顔は青白く、完全に怯えている。
リリィはゆっくりと大剣の先をルジュの首元に近付けた。
「世界?知らないわ。そんなの。ただ、ここにある真実を見つけただけ。証拠にこの大剣は私を斬れない。ただの剣よ」
重そうな大剣を大きく振り上げ、一気に振り下ろした。
ザシュと何かが斬れる鈍い音が大広間に響き渡り、シミ一つ無かった黒い絨毯に真っ赤な液体がルジュの周りに広がる。
「ぐ、ぅ、うわぁぁあああ!!」
鎧と共に斬られた体。
右肩から斜めに綺麗な斬り傷。
痛みに耐えられず赤く染まった絨毯に倒れこむルジュ。
「痛いでしょう……でもね、あなたに何の罪もないのに斬られた人間と動物はもっともっと痛かったはずよ。勇者も魔王もただのシナリオの登場人物。この世界には存在しないの。いいかげん目を醒ましなさい」
リリィは静かに静かに怒鳴り付けた。まるで他人事のように。とても静かに。
いつの間にか雷が止み、太陽が雲から顔を出している。
長細い窓から暖かい光が伸びてきた。
朝日が差し込むようにゆっくりと大広間に広がる光。




