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無言でルジュの心臓に大剣を向けたリリィ。
目をつぶり、大きく空気を吸い込むと再び目を開く。
「目を覚まして。あなたはもう死んでいるの。ルジュ=ソムティーズのお父さん」
「な、にを言っている?」
「あら、自覚ないの?落ちこぼれの思い込み勇者さん。言ったじゃない、あなたは死んでいるって」
リリィの言葉に困惑する三人。
勇者の面影は薄れ、ただの青年に戻りつつあるルジュ。
魔王の母と名乗り、我が子を守るために立ちはだかった強く凛々しい女性、ローザ。
世界にも人間にも興味を持たず、父の後を継いだ少年。
「まるで何もかも知っているような口振りね」
「そう。私は全てを知っている。だからここにいるのよ。あなたは小民族、闇竜の生き残りよね」
ルジュから視線を逸らす事なくローザの問い掛けに答える。
ローザは諦めたようにため息を吐き、大人しく話を聞こうと口を閉じた。
少し昔話をしましょう、リリィはにっこりと微笑み語り始めた。
昔、あるところに一人の男がいました。男は何事も努力をせずに権力の力だけで生きていました。
村の人々は男を恐れ、憎み、復讐しようと動き出します。
「ヤツを生かしておくな。今すぐ殺すんだ」
村長の一言で男の一族を殺そうと家に乗り込み、使用人や家族が次々と消される中で一人の少年だけが生き残りました。
少年を助けたのは隣の村に住む少民族の長の妻でした。
男は目の前で家族を殺され、焼け死ぬまでずっと「許さない」と呟いていました。悲しいことに村人にしてきた酷い仕打ちを忘れ、不幸なのは自分だと思い込んだ男は魂だけが残り、生き残った少年に取り付いて一つの村を潰してしまいます。
村人を人間を無差別に殺す魔物に仕立てあげ、それを倒した男は自らを勇者と呼び、この世界で生きるもの全てを魔物という敵にしてしまいました。
けれどもそれは男が作ったただのシナリオ。
やがて男は魔力が少し強いだけの少民族を魔王の一族と決めつけ、一族の住む村を焼き払ってしまいました。
魔王の一族を潰したことで男は完全に世界が自分中心に回っていると思い込んでしまいます。
魔王と決めつけられた一族の長は少年の姿をした男と戦う事は出来ませんでした。
女、子供に甘い長は少年を助けたい一心で油断をしてしまい助けたかった少年に殺されてしまいました。




