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木々の隙間からこぼれた太陽の光が金色の大剣に反射し、既に息絶えたであろう赤黒い狼を不気味に照らす。
一瞬、狼を瞳に捕えた。
眉を潜め、顔を曇らせるリリィ。
「僕はルジュ=ソムティーズ。この名を知る者はみな、僕を勇者と呼びます」
リリィの変化を無視し、笑みを浮かべて自己紹介をする青年。
エメラルドグリーンの髪が綺麗な顔を引き立てている。
やわらかい笑みとは対照的にひどく冷たい口調。
「貴女の目的は何ですか?」
栗色の柔らかい髪が目立つ美しい少女、リリィの首元には大剣。
少しでも気を抜けばそのか細い首筋に鋭い刃が容赦なく皮膚を斬り裂くだろう。
「本当に気が短いのね。この大きな剣はそこに横たわる“魔物”が斬れるようね?」
生きるか死ぬかの恐怖の中でリリィは微笑んでいた。
死ぬことを恐れていないのか、平然と質問を質問で返す。
「そうですよ。この大剣は対“魔物”用に作られた勇者の為にある武器です。実体の掴めない“魔物”が斬れるということは実体がない“妖精”も斬れます」
「あら、私も殺す気なの?その魔物のように?」
「女性を手にかけるのは気が進みませんが、僕の目的を邪魔するようでしたら……殺します」
青年の灰色の瞳が少女の青い瞳を射ぬく。
口元は笑っている。だが、灰色の瞳は敵を見るかのように冷たく、鋭い。
「私の目的はこの森に城を持つ魔王、グランフィルドに会うこと。それだけよ。貴男に近づいたのは貴男を利用しようと思ったから……これでいいかしら?」
「残念ながらグランフィルドという魔王は亡くなっています。僕の父が数年前に殺しました。利用、とは僕を味方にして魔王を殺してもらうためですか?安心して下さい。僕はこれから魔王一家を殺しに行くつもりです。現に魔王の息子、フィルドが新たな魔王となりました。フィルドは貴女くらいの少年です。子供を殺すのは心が痛みますが仕方ありません。世界が望んだことですから」
ルジェは淡々と恐ろしいことを丁寧に語った。
未だ大剣を向けられているリリィは身動き一つとろうとしない。
再び静まり返った森。
左右どこを見渡しても見えない出口。森はゆっくりと闇に染まってゆく。




