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ここは、自然が枯れ、不気味な雰囲気を醸し出す北の森。
灰色の鎧を身に纏った青年が金色の大剣を左手に、もう片方の手には血塗れの真っ黒な狼を無造作に引きずり、鎧独特の音を立てながら濡れた大地を踏みしめ、目的もなく、ただ、ゆっくりと歩いていた。
雨が降ったのか、所々に水溜まりが出来ている。
透き通った水面に写るのは青く、白い空。
葉のない木々によって作られた影が森全体を薄暗く、ひんやりとさせていた。
「……誰ですか?」
何かの気配を感じ、背後に向かって語り掛ける。その声は低く、堂々としていた。だが、振り向くこともせず、ゆっくりと歩き続けている。
「尾行されているのは分かっています。 出てきなさい」
なかなか姿を現さない何かに苛立ちを感じ、音を立てて赤黒い狼を草花の上に落とした。瞬間、静かな森に金属音が響き渡った。
「……強引ね」
「すみません。気が短いもので」
何かの正体は幼さが残る美しい少女だった。
白く、細い両手でサバイバルナイフを握りしめ、青年が振るったであろう大剣を器用に受け流していた。
「道に迷ったようではなさそうですね。この森の守護霊でしょうか?」
青年は大剣を下ろし、座り込んでいた少女に手を差し伸べた。突然斬り掛かられたのにもかかわらず、少女は素直に青年の手を取り、優雅に立ち上がる。
「守護霊? 違うわ。私はリリィ。ある森で生まれた妖精よ。数年前にこの森で眠りに就いたの」
「妖精、ですか?」
「そうよ。実体を取り戻す為にこの森の命をお借りしたの。数年前と姿が変わらないのが残念だわ」
「そうですか。今のままでも十分美しいですよ」
自らを妖精と主張し、リリィと名乗る少女。
それに対し、紳士のように振る舞う青年。




