甘い音
初投稿です。
読みにくいと思いますがどうぞ読んでやって下さい。
甘い音がする
甘い甘いオルゴールの音。
……雪くん……?
「宮川、宮川、起きなって。金谷がこっち睨んでるよ」
隣りの席に座っている小学校からの親友、河川が私を揺すり起こす。
「もう、授業中寝たらダメじゃない」
「うん、ゴメン。ありがとね、河川」
黒板の方を見ると音楽の金谷がオルゴールを手に持っていた。
なんだ、雪くんじゃなかったんだ……。
今から十年程前、私が四歳の時の事。
私には雪くんという幼なじみの男の子がいた。
雪くんはまるで女の子みたいな顔をしていた。色素の薄い髪に真っ白な肌と桃色の頬、長いまつげと真っ黒な瞳。私なんかより何倍も可愛かった。 そんな雪くんには宝物があった。
大好きなおじいちゃんから貰った黒い箱の形をしたオルゴール。
雪くんはオルゴールを貰ったその日に私の家まで自慢しにきた。
「見てー、奈緒ちゃん。おじいちゃんに貰ったんだぁ」
その時の雪くんはとても幸せそうな顔をしていた。
その数日後、雪くんはこの町から姿を消した。
「どうしたの、宮川? 教室帰んないの?」
どうやら私は音楽の授業が終わってからもずっと雪くんの事を考えてたらしい。
「うん、帰ろっか。河川」
教室へと帰る途中、河川が私の顔を覗き込んで言った。
「ねぇ宮川、もし悩み事があるんなら言って。私たち親友でしょ?」
河川が心配する程、雪くんの事を考えている私思い詰めた顔をしていたのだろう。
「ありがとう、河川」
もう大丈夫だよ、という意味を込めてにっこりと笑うと、河川もわかった、と言ってにっこりと笑った
今日、家に帰ったらお母さんに雪くんがどこに引っ越したか聞いてみよう。
多分、河川が心配する程、雪くんの事を考えている私は思い詰めた顔をしていたのだろう。
「ありがとう。河川」
私がもう大丈夫だよ、という意味を込めてにっこりと笑うと河川もわかったと、にっこりと笑う。
今日、帰ったらお母さんに雪くんの事聞いてみよう。
家に帰ると真っ先にお母さんのいる台所に向かった。 「お母さん、雪くんって覚えてる?」
「えっ? ……ああ、幼なじみの?」
「そう、幼なじみの」
「あの子もあの子の親御さんも本当に可哀想だったねぇ」
「? 何が可哀想なの? 」 「あんた、覚えてないのかい? 雪くんは誘拐されたんだよ。誘拐」
誘拐?
いきなり頭の中であの甘いオルゴールの音が鳴り響く。
ケーキの様に甘い音。その甘い音は、ケーキを何個も何個も食べた時みたいにだんだん気持ち悪い音に変わっていく。
雪くんは誘拐されたんだよ。
さっきの母さんの言葉が頭の中で何度も何度も繰り返される。それと同時に思い出された記憶の一片。
夏の暑い日の午後の神社。
私は雪くんと二人であの甘い音のオルゴールを聞いていると 「ねぇ、そこのお嬢ちゃんと坊ちゃん、それなぁに? 」
無精髭の全身真っ黒の服を着たおじさんがオルゴールを指差す。すると雪くんが自慢気に言う。
「これはねぇ、おじいちゃんから貰った僕の宝物のオルゴールだよ」
思い出した。全て思い出した。
雪くんはあの男に誘拐されたんだ。
雪くんが私の家に自慢しにきたあの日の後、私は雪くん家に遊びに行って雪くんのオルゴールを聞いてたんだ。素敵な音だと思った。だから言った、「絶対に外で聞いた方が素敵よ」って。すると雪くんは「神社に行こう」
と言って、私を外に連れ出した。
そして神社で二人、オルゴールの音を聞いていると、あのおじさんがやって来て、「このオルゴールは壊れているからおじさんが家で直してあげよう」
とか言って、雪くんを連れて行った。そして私は一人ぼっちになったから家に帰っていった。
なんで今まで思い出せなかったんだろう。自分の部屋のベッドにうつ伏せになる。
「雪くん忘れててごめんね」 私はそう呟いて眼を閉じる。
また頭の中にあの甘いオルゴールの音ともうひとつ雪くんの声がな鳴り響く。
「やっと思い出してくれた。奈緒ちゃん、次は僕とオルゴールを早く見つけて。僕はまた奈緒ちゃんと一緒にあの甘い音を聴きたいよ」 雪くんの声はとても寂しそうだった。
読んで下さってありがとうございました。
感想とか書いてもらえたら嬉しいです。