毒を食らわば皿まで
連投1弾!
切欠は少し肌寒いなと思ったことだった。雪を見れば寒いと感じるし照りつけるような日差しを見れば暑いと感じる。だが、例えば遮断された室内にいてルーデリクスが薄布一枚で過ごしていたとしたら、実際は凍りつくような温度であってもやや暑いと感じていただろう。だから、微妙な温度差を感じたことは久しくなかったのだ。現実から目を背けるようにして、その日は隅に丸まっていた毛布を被って寝た。
それからも変化は続く。爪や髪が伸び始め、眩暈や倦怠感が付き纏う。こうなると嫌でも悟るしかなかった。自分は人であったのだと。
溢れるほどにあった魔力は今やその片鱗も感じさせず、首にぶら下がる赤い石が光彩を無くして久しい。唯一の拠り所だったそれに、ルーデリクスとの微かな繋がりすらも断ち切られたような気がして絶望した。只人になってしまえばどのみちルーデリクスの側には居られないのだが。いや、それよりもルーデリクスがアリサに対する関心を失った可能性の方が高い。正確な日数は分からないが、朝と晩には必ず食事を与えられるので、閉じ込められてからどの程度経ったのかは何となく把握している。
最低でも半年、この世界に召喚されてそろそろ一年だ。一年なんてあっという間に過ぎるものだったのに、只人となってからは長く感じられるのだから不思議だ。いや、人だとか人でない以前に環境の問題だろう。動ける範囲は目算で精々8畳ほどだが、魔力を絞り取られて動く気力すら湧かないのだから肉体は日々衰えるばかりだ。
「こんな最後なんて想像できなかったなぁ」
これがまだ地球にいた頃に世間で騒がれていた、孤独死というやつだろうか。今更になってあの頃の生活が思い出され、これが走馬灯なのかと嗤いたくなる。諦めて無理矢理納得して、他力本願で周りに流されるまま享受するだけの自分。結局、一度だって自分から動いたことは無かった。今だってこんなところに囚われて、ただ人に助けられるのを待つばかり。悲劇のヒロインぶって、なんて可哀相な私とでも思っていたのだろうか。
(ばっかじゃないの。甘ったれるなよ、私)
ここまで放置し続けた己に向けて、ふつふつと怒りが湧いてくる。諦めるよりも前に、みっともなくていいから足掻いてみればいいのだ。この期に及んで格好つけたところで、惨めな最後が待ち受けているだけだ。死なば諸共、こんな理不尽な扱いを黙って受け入れるほどマゾでなければ、お優しい人間でもない。
感情に呼応したのか、身体の奥底からドクンと何かが脈打った。
漆黒に彩られた静謐な玉座に、ルーデリクスは一人座していた。濃密な魔力が渦巻く今、王族を除けば最強とされる竜族ですら彼へと近付けるものは既になく、孤高の王は独り在る。然しながらルーデリクスは、常に側にいる側近すらもいないことへ気にする素振りもなく前を見据えていた。だがその目は眼前の光景を映さず、遙か彼方にあるものを探している。
『陛下』
何の前触れもなく、ルーデリクスの耳元へ不鮮明な音が入り込む。界を隔てたここまで思念を届けるのは、幾らジェイルとて無理がある。複数人の魔力の気配がすることから、大方ブルーフあたりがいつものように魔導具だか魔術陣で仕掛けをしているのだろう。然程興味もなく、ルーデリクスは無言で続きを促した。ジェイルはともすれば乱れそうになる呼吸を抑えながら淡々と報告を終え、束の間の空白が生まれる。
「そうか」
部下への気遣いも労いもなく、ルーデリクスが放ったのは一言だけ。しかし、幾重もの意味を持たせたそれをジェイルは正確に理解し、それと共に戦慄が駆け抜けた。ジェイルだけでなく、居合わせていた全員が感じたことだろう。絶望的なまでの力で完膚なきまでに叩き潰される未来が確定された瞬間だった。
『っま、待ってくれ!!』
『貴様!邪魔をするな……あ、陛下!?』
瞬間的にルーデリクスはソレを引き寄せていた。哀れな青年は足元が揺らぐ間もなく濃厚な重圧感を全身に浴びて、打ち上げられた魚のように床で喘ぐばかりだ。ルーデリクスが見つめるのは一点のみで、興味の赴くままルーデリクスが空間を超えてその手を掴むのと、肘から先を無くした青年が悲鳴を上げるのは同時だった。
「……」
「ゴホッ……駄目ですよ陛下!今彼を殺してしまったら、リコル様の痕跡が無くなっちゃいますから」
強引な界渡りの負荷に身体が耐えきれず、血をまき散らしながら玉座の間に現れたブルーフが言う。ルーデリクスは苛立たしげに指を叩くと、凝縮された魔力の塊がディスワードの無くなった腕に纏わり付き、何事も無かったように腕を形成する。痛みの恐怖で泣き叫んでいたディスワードは、痛みの消失と共に無くしたはずの腕が戻っていることに気付いてひくりと喉を鳴らした。
「なっ、」
もう用済みになったとばかりに、ルーデリクスはソレを元に戻す。ルーデリクスの手元に残された腕とブルーフだけが先ほどまでの強行を物語っていた。
「えーっと、結構独占欲強いんですね陛下って」
「……」
「すみません。私にはジェイル様ほどの疎通能力はないので困ります」
「……」
「……私も戻してもらっていいですか?」
予備動作もなくブルーフの姿が消える。再び取り戻した静寂だが、少しばかり魔力の気配が柔らかくなっていた。
野郎の片腕を愛でる魔王(アリサの気配付)。
中々シュールな絵面ですよね・・・。
~簡単な腕の解説~
ルーデリクスにすぱっと綺麗に切り取られた
→ディスワード悶絶!腕の持ち主死んじゃうと契約も無くなっちゃうよ。アリサの手がかり無くなっちゃうよ。
→で、しょうがなくディスワードにくっつける。でも、アリサの手がかり(痕跡)を自分以外の誰かが持っているのは許せないルーデリクス君は考えた
→魔力で擬似的に繋がっていることにしちゃえ♪
ディスワード君にくっついている腕はルードの魔力を元にした腕です。なので、実際はディスワード⇔ルードの魔力⇔ディスワードの腕のように繋がってます。腕は、ディスワード君の身体の一部としてちゃんと活躍しています。




