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魔王様のリコル  作者: aaa_rabit
人界篇
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怪我の功名

 その情報はジェイルにとって意外なところから齎された。


「リコル様が『神殿』に?」


 神殿とは、天術と引き換えに人界の物を貰う、唯一天属が人間と交流する場であったはず。物好きな天属とは違って、召喚による被害著しい魔属は基本的に人間とは関わりたくないので、そういった場に好んで近付くとは思い難い。


『リコル様とは断定出来ないんですが、神殿の担当者が上位魔属を見たとか〜。うち(天界)の縄張りを奪う気かと苦情が来たんです〜』

「そうか。また情報が入ったら教えてくれ」

『はい〜』


 はらはらと中心部から仄かな燐光を散らしていた石が沈黙と共に熱を無くす。界の隔たりを越えて繋げられる遠声器は、ブルーフが作った魔術装置の一つだ。使用時には魔王城に漂うルーデリクスの魔力が使われており、自らの魔力を使う必要はない。アリサが友人たる天王の花婿との連絡手段として発案し、実用化されたもので、魔力の消費量から気軽に界を渡れない者達には非常に重宝されている。己れの脆弱さに甘んじない彼等の姿勢は決して嫌いではないのだが、そんな彼等が頭を悩ませる一端であることもまた事実だ。これ以上の干渉を避ける方法を考えつつ、すっかり通い慣れてしまった扉を叩く。


「ジェイル様……」


 疲労の色が濃いブルーフが立とうとするのを手振りで制し、今し方仕入れたばかりの情報を手早く伝える。


「神殿がある、となると場所は大分絞られますね。多少距離が離れたとしてもリコル様の魔力量ならすぐに見つかるでしょうが……」


 言葉を濁すブルーフに、ジェイルもまた渋面を浮かべた。


「確かな情報ではない上に、簡単には見つからない可能性もある。何より俺たちが探索に向かう手段が無い」

「それなのですが、私が彼方で皆さんを招くというのは如何でしょうか?」

「出来るのか!?」

「構成は何とか。ただ、界を通り抜けた後の座標が違うと迷う可能性があるので大分不安定なんです。私の血を座標軸に固定するので一族が絶えていれば終わりですし、上手くいったとしても行けるのは私だけになってしまいます。ですが、彼方には魔界に干渉する術が確立されてますから、私から皆さんを喚ぶことは可能です」

「すぐに取り掛かってくれ」

「はい」


 ジェイルは素早く人員の招集をかけ、ルーデリクスへも報告する。


(一刻も早くリコル様を見つけなければ)


 彼の顔には依然として焦燥が浮かんでいた。


***********************************************************************************


 (アイサカ……如何して俺に反応しないんだ)

 

 うんともすんとも言わぬ腕の契約紋に、幾度となく何故だと問い質さずにはいられない。


 あの日、城内で暴走したアリサの身柄を王子が拘束したという報せがきてから全てが一変してしまった。本人から話を聞こうにも門前払いをくらい、監督の責務を怠ったとして兄姉らが捕らえられた。アリサの暴走に巻き込まれたらしい両親は意識不明の重体で、予断の許さぬ状態だ。その間に他国へ派遣していた陣術師達が殺されたという一報が駆け抜け、更には陣術師達の受けていた不当な扱いが明らかになり、我が国を震撼させた。同時に陣術師を排斥しようとする動きとそれに抵抗する者達との争いが各国で頻繁に起こり、各地で弾圧を受けた多くの陣術師達がこの国に流れ込んできている。日を追いごとに力を持たない者達への悪感情は高まり、つい先日までは善き隣人であったのが、気の有無で迫害するようになった。何かがおかしいと思った時には、既に反体制派の国々へ向けて宣戦布告が為されており。予備役として学院生であるディスワードの元へも徴兵令が届いていた。王子の近衛である次兄は帰ってこず、アリサが如何なっているのかも分からない。毎日が徒労に過ぎるばかりで、状況が打破出来ないことに歯噛みするばかりだ。


 「くそっ!」


 ディスワードは、自身の使い魔が暴走したという事実を信じてはいない。あの桁違いな能力を持つアリサが暴走したら、一部屋だけ半壊なんて小さな規模では済まないだろう。自分勝手ではあるものの最低限人として行動をする彼女が、無闇矢鱈に人を傷付けるような行いをしたとも言い難く、万一そうだとしても何らかの要因があった筈だ。喧嘩別れしたままの兄姉達はこうなる事を予想していたのだろうか。だから、彼女に対して身柄を奪われないようにあれ程注意を払っていたのか。


 いったい誰に?


 がらがらと足元から崩れていくような気がする。ディスワードはとっくに辿り着いている答えを認めたくなかった。幼馴染の自分だけはどんな彼でも信じようと決めていたから。


 だが、そんな決意を嘲笑うかのように、突如として巨大な陣が宙に浮かぶ。陣術師の端くれだからこそ、その緻密ながらも洗練された陣に見惚れずにはいられない。


 (転移陣の応用か?いや、それにしては要素が多過ぎる。あれは……座標固定の繰り返しに支点が水……?)


 普段であれば間違いなく彼は警戒し、対象が現れたと同時に攻撃出来るように術を発動させていただろう。だがこの時、性とでもいうべきか見知らぬ陣術を前にして興奮していたディスワードは、己の身を守るということに対して無防備になっていた。結果として彼は、


 (時間差……火……風!?)


 人影が形を成すと同じくして起こった爆風に巻き込まれることになった。

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