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魔王様のリコル  作者: aaa_rabit
人界篇
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後悔先に立たず

久しぶりの更新です

 ジェイルは焦っていた。と言うのも予想以上に得られる情報が少ないからだ。人間共による拉致被害は絶えないものの、被害者の多くは中位や下位の、それこそ取るに足らない者達ばかりである。上位魔属達はそれらも含めて管理する立場にあるが、その内容は専ら他族との軋轢を生まないような、例えば淫族の地でドラゴンが暴れていれば竜族が狩りにくるといった、その程度のものである。名の知れた個体ならば兎も角、基本的には個人主義なので率いる一族の全てを把握するといった事はしない。それが仇になった。


 天界に比べれば余程国としては成り立っているが、人間のように末端に至るまで目を掛ける事は決して無い。彼等にとって弱者は淘汰されて然るべき存在だからだ。


 人界からの召喚(コンタクト)を待つ、それも事情を理解している上位の、となれば確率は限りなくゼロに近い。そして一、二体だけではリコル様の捜索をするには少なすぎる。


「忌々しい人界の者共め」


 盛大に舌打ちしながら、ジェイルが向かう先は伏魔殿だ。そこには魔属に帰化した元人界の人間、ブルーフがいる。彼の者ならば現状を打破する手の一つや二つ持ち合わせているだろう。


「ブルーフはいるか?」


 乱暴に開け放たれた扉の先には、何事かと振り返る人間の雌。元花嫁にして現在ブルーフの4子目を宿している、名前は確か……。


「イーシャ、だったな」

「ご無沙汰しております、宰相閣下。夫でしたら階下の宮に。本日でしたら5の間に居ると思いますよ」

「ああ」


 伏魔殿の地下には膨大な量の知識や宝物が詰め込まれている。花嫁向けの図鑑から竜族の遺骨まで、あらゆるものが無造作に置かれているのをブルーフは一々確認しては整理しているのだ。一つの巨大な宮の様相を呈しているが、部屋毎に別次元へと分かれているので探すだけでも時間と手間がかかる。一刻一秒を争う今は魔力を出し惜しみしている場合ではなく、ブルーフの作った召喚陣で喚び出した。急激に減っていくような感覚と共にひょろ長の男が現れる。


「おや、閣下とは珍しいお客様ですね。随分と魔力濃度も多いようですが……どうされましたか?」

「リコル様が人界に召喚された」


 細長くて普段は殆ど見えない瞳が薄らと開かれる。


「まさか!」

「実際は淫族の子供が召喚されようとしていたのを強引に書き換えたそうです。陛下に鍛えられているあの方なら、咄嗟に対象を自身へと変えるのも難しくないでしょう」


 自衛の為に教えた技が奇しくも発揮されてしまったのだ。


「人界は陛下の力及ばぬ()。我々とて自由には動けない」


 嘗ては天界に並ぶ近しい世界であったが、強欲なばかりに争いごとが絶えず界の安定を保てない人間達を両界の王が見限ったのだ。それでも愚かな人間達は一方的な干渉を続けているが。


「事態は分かりました。私も力を尽くしましょう。彼方とは時間も違うので急がねば」

「頼む」


 その身が害されることは万一も無いだろうが、ルーデリクスの不安定さは天界の比ではない。なるべく早急に取り戻さなければ魔界が消滅してしまう。刻一刻と広がりつつある王の魔力にジェイルは唇を噛み締めた。




 唐突に魔力が収縮する。急激な変化に一瞬だけ意識が遠のく。


「アイサカ!?」

「大丈夫、だから」


 目敏く感づいたディスの視線から逃れるように、目を閉じて深呼吸する。器を溢れんばかりに満たす力の源を意識し、何時もと変わらぬ様子に詰めていた息を吐く。ディスの心配を他所に止めた歩みを再開させながら、ここ最近起こる異変について不安を隠せないでいた。魔力が揺らぐのはよくあることだが、今のように感応力の鈍い自分ですら感じるほど大きな揺らぎは無かった事だ。それも、魔術で何らかの現象を引き起こした訳でもなく魔力が減るなど不気味でしかない。自分の中で一体何が起きているのか。ともすれば悪い方向へと陥る思考に、体を震わせる。


「怖いよ、 」


 此処にはいない存在へ縋るように、声なき声でその名を呼ぶ。音にしてしまえば最早立っていられないような気がして、滲みそうになる視界を爪が皮膚を破る痛みで止める。


 不安定になっている自覚はあった。会えない距離が恐怖となり、隙を見ては平静を保とうとする理性を吹き飛ばして意味もなく叫びたくなる。息を吸い大きく口を開き。


「おい、聞いているか!」

「……ええと、聞いてないかな?」


 途端に遠ざかっていた景色が戻ってくる。直前の行動を思い出せば、危うく変人扱いされるところだった。


「お前は!!……はぁ」

「ごめんごめん。今のは本当にわざとじゃなくて」

「つまり普段はわざと無視していると」

「4割くらいはね」

「俺じゃなかったら今頃確実にキレてる場面だって分かってるのか、お前?」

「あはは。別に攻撃しても良いけど、力加減するの難しいからやめてね。うっかり殺しちゃうかもしれないし」


 私が冗談でもなく本気で言っているのは分かっているのだろう。ディスは舌打ちしたけど、それだけだ。からかっているのを聞き流す事も出来ず、然りとて下手に苛立ちをぶつけることも出来ず、彼が出来るのは我慢することだけだ。その様子に少しだけ溜飲が下がる。八つ当たりだと理解していたが、不調を悟られるわけにはいかなかった。


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