そして、二人は袂を分かつ
新章突入~。短めです。
「最っ低ー。ルードの馬鹿。あんぽんたん。変態」
憶えている限りの悪態をつくアリサにも涼しい顔をしたままだ。虚しくなって途中で止める。
朝早くから散々責め立てられ、体中が痛い。気づけば風呂の中で、ルードの身体を背もたれ代わりにして入っていた。身体は洗われた後なのか、ルードは満足そうにアリサを支えている。
一度快感を覚えてしまえば二度三度と求めてしまう気持ちは分かる。だからといって睡眠を妨げる行為は決して許してはいけないのだ。それなのに、ルードの至極嬉しそうな顔を見てしまえば、まぁいっかと思ってしまう辺り、アリサは甘いなと思わずにはいられない。味を占めれば止められないのだ。身体を繋げる行為は、一時でも心を埋めてくれるから。
朝食を食べ終えたアリサは、ザイをお供に城下へ降りていた。制御付ながらも魔力をある程度抑えることが出来るようになったため、最近では城外に出ることも許されている。
「今日は何を買おうかな」
「あちらなどはいかがです?今、若い女達の間で人気の商品で……」
驚いたことに、魔界ではきちんとスイーツなるものが発展している。あくまで娯楽(食糧事情はそれぞれ違うので)の一環なのだが、アリサにとってはこの上なく嬉しい文化だ。人型を取れば栄養になるかは判らないが一応食べられるので、人型をとれる魔属に好評である。
因みに魔属にも位があって、言葉を解せず人型もとれない魔属を下位、言葉は解せるが人型をとれない魔属を中位、言葉を解し人型をとれる魔属を上位として分けている。どの魔属も上位魔属が中位、下位魔属を従えている状態だ。
城下は人型しか入ることを許されていないので、住んでいるのは必然的に元から人型の種族か上位魔属となる。しかし、上位魔属にも力の差は千差万別で、各種族の族長と末端の一族とを比べれば天と地ほどの差があるらしい。
そして力の差は貧富の差でもある。
「魔界ってホントにシンプルだよね。力があれば本能で従っちゃうんだもん」
今だって、外見を変え制御装置をつけているアリサはともかく、ザイはむき出しのままなので目立っているのが判る。圧倒的な力を前に自然と頭が下がるとは、魔王に謁見した者の言葉だ。
すれ違う度に頭を下げられることに辟易しながらも、慣れている自分がいる。ルードとの同居が今や当たり前になっているように、その内何とも思わなくなるのかと少しやるせなくなる。地球とは価値観が違うのだと判っていても、やはりそう簡単に割り切れるものではない。半歩後ろを歩くザイを窺い見れば、特に気にする様子もなく周囲に目を光らせている。
少し居心地悪く思いつつ、散策していると前方から悲鳴が上がった。甲高い子供の声。
「リコル様!?」
人混みを掻き分けたアリサは、初めての光景にただ首を傾げた。光が複雑な文様を地面に描き、文様の中心で男の子が泣き叫んでいる。周囲の大人たちは目を背け、助ける様子はない。
なぜ?
それは単なる好奇心だったのだろう。降りかかる火の粉くらい対処できると過信していたのかもしれない。気づけばザイの制止を振り切って、アリサは駆け出していた。そのまま、子供を突き飛ばして文様の外へと追い出す。
その直後だった。光が一層強くなり、景色が白くなっていく。
ごめん、ザイ。
転移する時のような浮遊感を感じて、アリサは為す術もなく身を任せた。