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魔王様のリコル  作者: aaa_rabit
間章
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晴、時々曇

間章です。

「ルードのご両親ってどうしてるの?」


 花嫁から発展してこの世界での結婚の定義をナツメと話していたアリサはふと疑問に思い、答えてくれそうな人物を求めて執務室の扉を開けた。何事かと振り返った補佐官はアリサの存在を認めると、手短に報告するとその場を譲り、足早に退場していく。魔王とそのリコルによる、主に精神被害を防ぐ為の措置であり、この暗黙の決まり事を知らぬは当人達だけである。


 すっかり定位置になったソファに腰を下ろそうとしたアリサを手招き、己の腕の中へと閉じ込めたルーデリクスは再び仕事へと没頭してしまう。


 ……消滅はしていない


「え、何その微妙な答え方。つまり生きてるって事だよね?」


 ……ジェイルに聞け


 面倒ごとは全てジェイルに丸投げするルーデリクスに、アリサは素直に頷いた。そうと分かればここには用事が無いのだが、腕の囲いは本人が満足するまで外れる事はない。仕方なく、手慰みに魔術の練習をしていると、運良くジェイルが顔を覗かせた。


「陛下。先程から不気味な土人形が城内で暴れ回っていると報告が……犯人はリコル様ですか」


 おおー。流石はジェイルさんです。


 何を隠そう、犯人はこの私。土人形の土は、練習用にルードがくれたやつで作成しました。因みにモデルはケルちゃんと三つ子ちゃん達です。出来上がりはどうでしたか?


「……あれ、腐獣じゃなかったんですか」


 ジェイルの微妙そうな顔つきに、アリサは胸を押さえた。あれでも結構力作だと思ったのだが、それにしても腐獣って……酷すぎる。


……腐獣だな


 しかもルードまで!?


 ショックを受けながらルードの持つ水晶球を覗き込んだアリサは、土人形の醜悪な姿に絶句した。三つ首は所々爛れてこぼれ落ち、土人形が通った後には泥の跡が点々と付いている。土人形というよりも泥人形といった方が正解だ。丁度行き会ったらしいサハンがなんじゃこりゃー!と叫びながら土人形に立ち向かっていく。


「魔力と土が上手く絡み合って無い状態ですね、これは。しかし、他者の無形物に天術を使うとはやりますね。結構難しかったんじゃないですか?」

「そうなんですか?ルードのは慣れてるせいか結構掛けやすいんですけど」


 魔王城内は特にルーデリクスの支配力が及ぶ場所だから、そう簡単に操れないはずなのだが、それもアリサの魔力具合を見れば十分納得出来てしまう。アリサ自身がルーデリクスの魔力と馴染んでいる証拠だ。


 ……アリサ


「はぁい」


 土人形達に供給していた魔力の糸を断ち切ってやる。たちまち泥と化した土人形に、通りかかった者達が顔を顰めながら避けていく。やっぱり片付けもしないと、と立ち上がりかけたところで水晶球に映っていた泥達が瞬く間に消えた。行方を探ろうと自分の魔力を辿っていき、探索の網が途中で阻まれる。


「ん?んむ~~」

「落ち着いてください、リコル様。それ、陛下の結界ですから」

「なんで?」


 強引に壊そうとするのを止め、アリサは目を開けた。


 ……多い


「そんなに出力を上げられると、また城内の機能が停止してしまうので自重してください」


 つまり魔力の込めすぎで、それにいち早く気付いたルードに阻まれたということらしい。ぐうの音も出ない。


「こればかりは練習あるのみです。陛下だって若かりし頃はよく先代に弄ばれてましたからね」


 今聞き慣れない言葉を聞いたような。ルードが弄ばれる?うーん、イメージが湧かない。あ、そうだった。


「ジェイルさんはルードのご両親について知ってます?」

「ご両親?……ああ、先代ですか?先代なら御夫君と隠居生活されてますよ」


 意外と普通の答えが返ってきた。ルーデリクスが意味深な言い回しをするから、もっと想像出来ないような凄いことになってるかと思ったのだが。


「なんだ。ちゃんとご存命だったんですね」


 ところがジェイルは狐につままれたような顔をしていた。何故そこで首を傾げる。


「いやあ、なんだか新鮮で。存命、存命ね」


 ジェイルさんの説明によると、魔王族、別名王族には生死という概念が無いそうな。その生態はよく分かっておらず、気付けば王位が替わり、先代は何処かへ消えるそうな。消滅という形で魔界を維持する魔力の一部になるという説もあれば、新たな世界で生きているという説もあるらしいのだが、定かでは無い。だから生死不明という括りにされるらしい。


 ……狂うのだ


「ルード?」


 ジェイルが本日分の仕事が終了したことを告げて出て行き、天気も良いからと二人は広大な庭に出ていた。お気に入りの迷宮庭園の中心で膝枕をしていたアリサは、髪を梳いていた手を僅かに止める。


 ……番を失った王は狂う。王を消すのは王の役目だ


 静謐な黒の瞳がアリサを射貫く。


 ……先代に会いたいか?


 アリサは小さく、けれども覚悟を決めて頷いた。


 それきり口を噤んでしまったルードからは何の感情も窺えない。


 次の日、ルードはアリサの前から姿を消した。

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