至宝+執着=?
本日第二弾
そんな世界をコロコロ変えちゃっていいのかよ!という突っ込みはさておき、魔力酔いで皆さんグロッキーらしいです。私は割と普通なんだけど、その辺りは単に鈍いからだそうで。私くらいの魔力があれば簡単に世界が作れるとお墨付きまで貰えました。
……世界って何なんでしょうね。
「典型的なのは竜族ですね。個体差にも依りますが、この部屋程度の界は誰でも持ってるんですよ」
「へ?へ~そうなんですか」
「大事なモノを仕舞うには色々と便利でして、結構重宝するらしいです。竜族は収集癖がありますからね」
「成る程。四次元ポケットみたいなものですか」
「よじげ……?」
猫型ロボットには欠かせないですよね、あのポケット。
まとめると、世界というのは厳密に界と呼ばれるもので、空間のこと。それを魔力で作れてしまうのが驚きだけど、彼等の存在が仰天ものだから今更だ。この世界に来れば、我々の常識なんてくだらないものなのだよ。
「馴染んでいるようで何よりだ」
「ええ、全く」
ジグ様も元に戻ったみたいで何よりです。
「……さっきから、あんたは一体何なんだよ!ジルと同じ顔してこいつよりもっとおかしいじゃんか、この人!そっちの魔王様もだけど、あんたら何なわけ?」
堪忍袋の緒が切れたのか、漸く回復したらしいアオイがヒステリー気味に叫ぶ。
……いやいや、ルード。アオイも悪気があるわけじゃないから駄目だよ。消したらジル様が泣いちゃうじゃないですか。
「我が君に暴言を吐くとは、とんだ下郎ですね。代理陛下の花婿殿は」
「ジェイルさんもここは収めてくださいよ。彼、一番の被害者ですから」
この中で状況が分かってないのは、アオイだけだろう。ナツメちゃんは……駄目だこりゃ。すっかり二人の世界に入り込んでる。
「余はジルの兄だ!」
「んなの見りゃわかるわー!!」
「ふふ、アオイは可愛いだろう?」
「確かに。だが、余は煩いモノは好かぬ。アレの方が良い」
「……」
「少しくらい良いではないか、ルドヴィー。我もお前のリコルならば、アオイと同様に可愛がってやろうぞ」
「……」
おおう、こっちにまで余波が及んできましたよ。ま、ここはルードに一旦任せ、と。
「ジェイルさん」
「はい、何ですか?」
「さっきの、というか、現在進行形ですけどルードは何がしたいんですか?魔力が薄いとかって言ってましたけど」
ルードに直接触れられるのは、風呂で慣れてるし、まあベッドでも……だからね!流石に人前では無いけど、ルードの上着のお陰で絶対誰にも見えてないはずだし(じゃなかったら羞恥で死ねる)、兎に角何がしたいのか全く分からないわけです。これが男心か?とも思ったけど、それにしてはルードの萌えポイントがよく分からん(エッヘン)。
「”宝”に他者の力が帯びれば、怒るのも当然であろう?……ところで萌とは何ぞ?」
「萌というのは……って、もうまた勝手に人の心を読まないでください、ジル様!」
今はジェイルさんと話してるので邪魔しないでください!
「だが、お前は知らねばならぬ。そこなモノもな」
「へ?俺?」
ジル様とジグ様に挟まれ、当初の怒りは何処へやら、兄弟間での(魔王も加わっていた)くだらない遣り取りに、半ば思考を放棄していたらしいアオイは、突然話を向けられて困惑している。
「どういうことだ……いや、ですか?」
「気分が良い余が説明してやろう。そやつらがあまりにも不憫である故にな」
ジグ様の言葉にルードは余計なお世話だと言わんばかりに顔を逸らし、ジル様はアオイを見つめているだけで幸せそうだ。その二人が不憫……しかも原因は私達?
「そうだ。こやつらにとって、お前達と出会ったことは至上の歓びであろうが、未だ巡り合わぬ余からすれば憐れとも言える。一つに縛られるなど実に愚かしい」
ジグ様は今の説明に一人で頷いているけど、全然、全く、これっぽっちも理解不能だ。それはアオイも同じらしく、二人してブーイングの嵐だ。
「む?余の説明は完璧ぞ」
駄目だこりゃ。こんな時こそ、ジェイルさ~ん!……ん、何、ルード?困った時はジェイルさんでしょ?……私は?、ってルード程説明役が合わない人もいないんじゃないかな。だって、ルードって私が何で理解出来ないか分かんないんでしょ?だからだめ~。もう、拗ねないの!
「ゴホン。……宜しいですかお二方?」
「あ、ごめんなさい……ところでジェイルさんは何時から私とアイコンタクトが出来るまでに?」
「陛下に比べればリコル様は格段に分かりやすいですよ」
ジェイルさんてば、笑顔で誤魔化すのがお上手なんですから。日本人としてはなんだか負けた気持ちになるのです。
「……」
「これは俺のせいじゃ……はいはい、仰せのままに、陛下。……とはいっても、俺としても上手く言えないんですけどね。何処から話したものか。例え話をするとですね、その昔火蜥蜴という竜族の下位種があったんですが、その内の一匹がある竜族の子供が大事にしていた宝物を奪ったことがありました。次の年から火蜥蜴という種は、魔界から消えました。その原因は竜族の子供が怒り狂って根絶やしにしたからです。この場合、竜族の子供の正当性が認められ、子供は咎めを受けませんでした」
「……え~と、どこから突っ込めばいいのか」
「それって凄い徹底ぶりですね。一つの種が一人の都合で絶滅したって事でしょう?しかも、公認で」
異世界事情に疎いアオイでも、私の言った意味は通じたらしく、驚愕に目を丸くしている。どうやら、答えは的を射ていたようでジェイルが満足げに頷いた。
「その竜族の子供にとっての”宝物”が、今の貴方方の立場になります。ここまでは宜しいでしょうか?」
「…………はい?」
竜族の子供にとっての”宝物”は、一つの種族を滅ぼすのと同程度の価値があると見なされるってことで、ええと、それが私達の立場で、つまりその、ジル様にとっての”宝物”がアオイで、ルードにとっての”宝物”が――――。
不意にルードと目が合い、私は顔が赤くなるのを感じた。にやけそうになる顔を隠すように俯いていると、ジグ様の低い笑い声が耳元に届く。ああ、こんな時ジグ様の能力は厄介だ。
「嬉しそうだな」
そりゃ嬉しいですとも。だって、それってルードにとっての特別って事でしょ?私の一方的な想いじゃ無いってことだもん。
「余はお前に言ったわけでは無いのだが。……怒るな甥っ子」
「……」
「ならば精進することだ。ソレは嫌がるだろうがな」
ふわりと慣れた気配が揺れた。
目に痛々しい室内は落ち着いた黒の色調に変わり、すっかり馴染んだ柔らかな感触が背中に返ってくる。
「帰ってきたの……?」
周りを見回そうと起こした身体が、やんわりと寝具に戻される。意識を逸らす事すら許されぬ深い口付けに、そっと腕を伸ばして自らも求めた。初めて私から求めたことにルードが驚いているのを、私は笑いながら封じ込める。
精一杯の大好きを込めて、愛しい魔王を抱いた。
詳細は活動報告にて。