再会+奇行=?
短めです。やっとこさ、再会を果たした二人ですが……。
はて、今度は何処だろうか?
転移に慣れないナツメは酔いを起こして座り込んでいたが、アリサはルーデリクスによって散々慣らされていた為に両足でしっかりと地面に立ち、周囲を見回す余裕がある。
天界にしてはやけに明るいというか、上空から見下ろした時のあの殺風景な景色とは少なくとも違う。緑の絨毯が建物の周りを覆い、きらきらと輝いて見えた。そこはあの完成された世界とは似て非なるもので、久方ぶりに受ける風を全身で楽しむ。
気付いたのはほんの偶然だった。空を仰いだ拍子に見下ろす黒い瞳とぶつかり、視線が交わり合う。
「っ……!」
ずっと会いたかった。
胸に過ぎる思いを自覚しながら、しかしそれを素直に表すことは出来なかった。言えば、自身の弱さが露呈するようで許せなかった。戒めるように拳をきつく握りしめ、熱くなる目頭を冷ます。
自分のことで手一杯で、アリサはルーデリクスの変化に気付けなかった。
……アリサ。
沈みかけていた思考の海から引っ張り出されたアリサは、呼ばれるままルーデリクスへと意識を戻し、次の瞬間には後悔した。黒の瞳には怒りが宿り、今にも射殺さんばかりの視線がアリサへと向けられていたのだ。
ど~すんのさ!めちゃくちゃ怒ってるよ?!!
再会から今までの行動を顧みて、何処にルーデリクスの琴線が触れる部分があっただろうかと考える。
心当たりは、無い。まさか、直ぐさまルードに気付けなかったのがいけなかったとか?いやいや、ルーデリクスはアリサの魔力探知能力の鈍さを十分理解しているはずだ。となると、それ以前の問題?あのルードが傍目から見ても分かるくらい怒るなんて要素が一体どこに……。
「アリサ」
脳内に直接響く声では無く、耳から聞こえる声にひくりと喉が鳴った。
相変わらず良い声してるなぁ。じゃなくて!いつの間にこんな近くに居たのだろう。そして久方ぶりに間近で見るルードは見間違いなどでは無く、やっぱり怒りを身に纏っていた。
あ、詰んだかも。
こちらへと伸ばされる手の動きをスローモーションで捉えながら、脳裏に浮かんだのは漠然とした死だ。このまま跡形も無く消されるのだろうか、でもルーデリクス自身の手によって処分されるならそれはそれで良かったのか?せめて最後くらいは認めた人の手で逝きたい。
けれども、アリサを襲ったのは予想外の衝撃だった。
遠慮無く口内に侵入した長い指が喉奥まで深く入り込み、舌の付け根部分を押さえたのだ。一旦は死を覚悟したからこそ、アリサは突然のことに対処出来ず、暴挙を許してしまう。
そんな思考とは反対に身体は素直で、侵入した異物を容赦なく押し戻そうと働き出す。想像してみてほしい、喉の奥を容赦なく突かれたら何が起こるのかを。いくら括りが人から外れていると言っても、身体の構造は変わらないのだ。生理的現象も当然ながら起こる。
簡単に言うと、吐いた。
思いっきり地面に。
それも何度も、口から半透明な唾液と胃酸しか出なくなるまで強制的に吐かされた。
どんな嫌がらせだよ!いくら何でもこれはない。色んな方面で吹っ切れつつあっても、最低限の羞恥心までは捨てていないつもりだ。こんなギャラリーのいる面前で涙でぐしょぐしょになりながら吐かされるとか、嫌すぎる。
けれども、ルーデリクスの怒りはその程度では済まなかった。
まだ足りぬとばかりに、息も絶え絶えに膝をついている私の顎を掴んで仰向かせると、今度はなんと自身の人差し指と中指を綺麗にすっぱりと切断して見せたのだ。突然の奇行に絶句していると、ルードは再び私の口の中に指を突っ込んだ。その傷口ごと。
嫌悪感に私の胃袋は即座に収縮するが、生憎と出せるものは出してしまった為にせり上がってくるものといえば胃酸くらい。それがルードの傷口から滴り落ちる血と混ざって口の中は何とも言えない味が支配する。逃れようにも後頭部に回された腕に固定されて身動きも取れず、しかもルードと来たら、舐めろの一点張り。傷は唾を付けたくらいじゃ治りません。しかも、傷口に唾をつけるのは反って余計な細菌が入る恐れがあるので止めましょう、っていうのは常識だよ、ルード!
そんな奮闘も虚しく、最後は鼻を摘ままれて無理矢理飲み下しさせられましたとさ。けっ。
ルードの奇行については次回明らかにします。