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魔王様のリコル  作者: aaa_rabit
天界扁
36/66

魔王+天王代理=?

 ジェイル、と名乗った美丈夫は自分達が魔界の者であること、また、アリサが行方不明になっていることをアオイに説明した。


「そうだったのか。じゃあ、あの人がアリサさんの……」


 何処からか独りでに取り出した椅子に腰掛け、目を閉じているルーデリクスの横顔を見、アオイはそっと視線を外した。本能的に畏怖を憶えてしまう存在を前にして、彼の花嫁だというアリサは大物だ。我が道を行くタイプのアリサが、魔王である彼と普段どんな様子で接しているのか気になるところではあるが、生憎と藪をつついて蛇を出す趣味はない。


「陛下は此度の件に関して、大変ご立腹されています。花婿殿はリコル様のことで何かご存じないでしょうか?」


 ルーデリクスに報告する為に立ち上がったジェイルに代わってウォーリアスが口を開く。


「そう言われてもなぁ、アリサさんと別れた時は普通だったよ。俺この部屋から出れないし」

「出られない?ああ、そうでしたね」


 ここまでの道のりの中で障害がなかった為に疑問を憶えたウォーリアスだが、扉前で気絶している侍従達とルーデリクスの破った結界の存在を思い出し、納得する。


「だから、ごめん。俺には分からないんだ」

「……っ!いけません、陛下!」


 静止の声が虚しく響く。何を、と思う間もなく、アオイは強烈な圧迫感に顔を歪める。何処までも静かな瞳を見下ろし、自分が宙にぶら下げられていることを知った。空気を求めて口が動くも、肺が何かを吸い込むことはなく息苦しさを助長させるだけだ。


『アリサは何処だ?』


 低く、それでいて阻害されることのない美しい旋律が空気を震わす。空気がなければ音が届くはずもないのに、アオイは確かにルーデリクスの声を聞いた。けれども答える術はなく、ただ苦し紛れに首を横に振るしかない。それが答えだとは捉えられず、向けられた手に力が篭もるだけだった。


「ですから、外交問題ですって」

「呑気ですねジェイル様。この惨状を見て代理陛下が何と思われるか……」

「ああ、それなら」


 言うが早いか、何もない空間から蒼白を隠そうともしないジルシールが現れる。酷な話であるが、魔属の二人にとっては天界の要人だろうが、ルーデリクスの怒りの前には些事なのだ。主君の意に逆らうつもりは毛頭無く、だから今も手出しはしない。


「やめてくれ、甥っ子!アオイが死んでしまう!……違う。その子は本当に何も知らぬのだ!」


 アオイを解放しようとジルシールの魔力が動くも、破るには圧倒的に力が足りない。これこそが魔”王”であるルーデリクスとただの”王族”であるジルシールとの差だ。


「頼む……!我にはアオイが……っ、ああそうだ!お前のリコルはジグの元だ!……無理だ。ジグの元には我ですらも……やめてくれ、分かったからっ……ロシェ!ロヴィ!」


 同じ容貌(かたち)をした少年達が呼び掛けに答えて現れるのと同じくして、ジルシールが咳き込むアオイの元へと走り寄る。


「ああ、アオイ!」

「ゴホッゴホッ……触ん……ゴホッ」


 払いのけようとする弱々しい手を避けると、ジルシールはアオイを強く抱き寄せる。酸欠から解放されたのに再び酸欠状態にされたアオイはがむしゃらになって手足を動かす。漸く違和感を憶えたジルシールが彼を手放すまでに暫しの時を要した。




 何の拷問だ、これは!


 ジルシールの膝の上で横抱きされているアオイは、忍耐という二文字に全力で集中していた。ジェイル達にとっては見慣れた光景であるだけに、微笑ましいとしか映らないのであるがそれを彼が知る由もない。だが、アオイにとっては向けられる生ぬるい視線がどうにも耐えがたく、それでも抵抗しようとしては無言の圧力に負けて身動きが取れないのであった。


 ジルシールと言えば先程の取り乱しようなどまるで無かったように腕に納めたアオイを愛でており、正面から発せられる怒りを受け流している。


「うふふ、やはりアオイは愛いな」

「……おい、馬鹿陛下。いい加減にしとけ」

「我の花はそなたしかおらぬ。そなたこそ我の宝、我の美しき花よ」

「……いつまで花畑に頭突っ込んでんだよ。マジでやべぇって!」


 ロシェが空気を読んで声を荒げるも、ジルシールが意を返すことはない。ただでさえ意識が混濁しているのに、これ以上魔王の気に触れていると発狂しそうだった。


「天王陛下が待っている間、ただ待っているのも暇です。ここは有意義に此度の事態についてお話しようではありませんか。ねぇ、ロシェ殿?」


 いつの間にか隣に立っていたウォーリアスに呼ばれ、ロシェははっと我に返る。途端に抜けていく全身の力に逆らいながら、ウォーリアスの種族を思い出していた。魔族の食事は魔力そのもの、現在進行形で食事中の彼の傍では常時魔力が吸収されている為一種の安全地帯になっているのだ。ジルシールが全く頼りにならないので、自身の安全を取ってロシェは素直にウォーリアスの提案を受け入れた。


「やあ、久しぶりだね。ロシェ殿」

「ご無沙汰しています、ジェイル殿。姉がいつも世話になってます」

「うん、ロリエなら元気にしているよ。もうすぐ3頭目が産まれるところだ」

「それは、おめでとうございます」


 ロシェの姉がジェイルに嫁いでいる関係で、二人は既知の間柄だった。


「ジェイル様、邪魔しないでくださいよぅ」

「おっと、悪い」


 話の主導権をウォーリアスに譲り、ジェイルは一歩下がる。天界の領分は外交官であるウォーリアスに一任している以上、いくら宰相であってもでしゃばるのはよろしくない。


「じゃあ、早速教えてもらいますよ、ロシェ殿」


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