意志+理由=?
そんなこんなで、現在に至る。天王の作った小さな世界の中では、あるのは花と花とナツメと私だけだ。魔界と違って変わることのない空は、動くこともなくただ同じ空を映し続ける。風すらも感じられないのだからちょっと不気味だ。
なんでも風は花を揺すって花弁が散ってしまう恐れがあるため、必然空も停滞させているとのこと。ならば受粉も出来ないのではと疑問に思ったが、そこは全く問題ないらしい。枯れることもなく、天王が存在する限り永遠に咲き続けるのだとか。薄っぺらい偽物と同じだ。変化するからこそ美しいのに。完成された美も確かに美しいのだが直ぐに飽いてしまう。その最たるものが彼等の容姿だ。幾ら美しかろうと、それが当たり前になってしまえば感動も薄れてしまう。
「それはお前のせいでもあるのだぞ」
この登場の仕方も既に慣れてしまった。ただでさえ、ルードのお陰で無口になりつつあったのに、ここに来てからは殆どの意思疎通は心で行われている。口を動かさければ表情筋も衰えて、将来的に皺になりやすいのだが。
「何を心配することがある?余らは老いぬぞ」
「貴方方はそーですけど。私、人間ですから」
人間辞めた憶えはありませんよー。
「未だ人だの王だのと括りに囚われるとは憐れよの、あれも」
何故に私じゃなくてルード?と思ったけれど口にはしなかった。相手には駄々漏れだがこの際気にしない。というか気にしたら負けだと思う。
「……お前は変わったモノだ」
天王は苦笑すると、地面に身体を投げ出した。
大の字になって寝転がる超絶美形に、絵的に如何なものかと思う。せめてそこは片膝を立てて空を仰ぐポーズにして欲しい。その方が断然格好いいと、雑誌のモデルさん達を思い出す。
「ん?こうか?」
「いや、別に実行してくれなくていいです」
ばっさりと切り捨てるアリサに、気を害した様子もなくジグリースはからからと笑う。
「ロシェのお兄さんはまだ戻ってきませんか?」
「ロヴィは気紛れ故にな。我ですら、把握しておらぬ」
胸張って言うことでもないでしょう。大体ご自分の従者なんだから把握しといてくださいよ。
溜息の代わりに偶々指で遊んでいた花を引っこ抜く。珍しく焦ったような天王を横目に、アリサは土一つ無い白い根っこごとぽいと無造作に捨てる。
「何をするのだ!」
「従者の責任は主の責任。とっととここから出してください」
「だから断ると言っておろう。余は外の世界が煩わしくて嫌いなのだ」
「嫌いだろうと、私を連れ出した原因は貴方なんですから何とかしてください」
「あれは余ではなくロヴィが勝手にしただけのこと。余には関係ない」
結局いつもの堂々巡りになってしまう。
ロヴィというのがアリサがここに居る元凶で、しかも驚くことにナツメちゃんの恋人なのだ。二人の馴れ初めは長いので端折るとして(前に惚気られたから大体は知っている)、天王の従者であるロヴィ(←ここ重要!あれはロシェじゃなくて双子のお兄さんだったらしい)がナツメちゃんを本来の天界から連れてきちゃったらしい。ここの世界の主は天王だし良いんだろうかと疑問に思ったが、ジグ様曰く、気にならないのだとか。何でも魔(天)術っていうのはこうしたいっていう意志(想像)が重要で、その発現の規模、つまり魔(天)力の大きさに比例して意志の強さも同様な訳。で、ジグ様にとってナツメちゃんは取るに足らない、魔(天)力が小さいから勝手に届いてしまう意志力が弱い、まぁ一人くらいなら大して気にならない、ということらしい。
因みに従者であるロヴィは魔(天)力もそこそこあるのだが、それを隠す術を心得ているとのこと。是非とも伝授していただきたいものだ。
「何故だ?お前は煩くとも余は問題ないぞ?」
「ですから、そうやって思っているのを勝手に読まれるのが嫌だからに決まってるでしょーが」
一々反応されたら会話をするのも一苦労である。
「ならば、言の葉に乗せずとも構わぬであろう?甥っ子のように、余とも会話すれば良いのだ」
「どうしてそこでルード?」
「あれは口にせずとも意志を他者に伝えることに長けておる。ある意味ではお前と同じではないか」
どうやらあれも魔術の一部だったようです。あれ?でも、初期にはルードと会話を成立することなんて無かったような……。
「あれもまた巧妙故に、乗せたい意志だけしか伝わらせぬ。第一受け手であるお前が未熟であれば、伝わらぬのも無理からぬこと」
「それは私に読み取る術が身に付いていなかったと」
「うむ。とはいえ、心を読み、伝える術は元々天のもの。魔であるお前が少なからず会得しているのはあれの影響か」
「源は同じですからね~」
それぞれ天術、魔術、人術に分類されてはいるが、力の根元は同じである。簡単に分類すると精神や肉体そのものに影響を及ぼすのが天術、物理的な現象を及ぼすのが魔術、それ以外を人術と便宜上しているが、それは魔属が天術を使えないというわけではない。単に本人達の性質や好みの問題であって、魔属が好んで使う術を魔術と呼んでいるだけのことだ。
「って、話逸らさないでくださいよ!」
「お前から振ったのであろうに……」




