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魔王様のリコル  作者: aaa_rabit
天界扁
31/66

アンケートお礼SSその1

大分前に行ったアンケートを沢山頂き、ありがとうございました。リクエストにあった中から幾つか選び、書かせて頂きました。お礼SS第一弾です。楽しんでくだされば幸いです。


~注意~

これはあくまで番外編的なもので、若干設定に違いがありますのでご了承お願いします。

 規則正しく文字を刻む音が執務室に響く。静かだ。あまりにも静かすぎて逆に恐い。半ば逃げ帰っていく文官とすれ違いに執務室へと足を踏み入れたジェイルは、異様な空気に呑み込まれながらも持ってきた書類を山の一番上に乗せた。ルーデリクスはそれを一瞥し、再び視線を机に戻す。


「お父様、機嫌悪い~?」


 宰相の背中にへばりついていた子供は、両親譲りの大きな黒眼をぱちぱちさせながら肩へとよじ登る。子供の不安定な体勢にはらはらしながらジェイルは直立不動していた。万一にも怪我をさせたらジェイルの命が危ない。なんせ相手はこの国の皇子なのだから。


「ねぇねぇ、ジェイル。どうしてお父様ご機嫌悪いの~?」


 肩車で落ち着いた子供はこてんと首を傾げた。子供だから許される発言なのだが、今それをルーデリクスに言うのは得策ではない。


「陛下はお忙しいんですよ。それよりも皇子。門番達と約束があったのでは?」

「お母様いないからやめたの~。ケロちゃん、お母様にしか懐かないし」

「それはそれは……後で言い含めておきましょう」


 世継ぎではないが皇子には違いない。上位種に敬意を払わない同族にはきちんと指導する必要があるだろう。双方のために。


「め~だよ。心はその人だけのものってお母様言ってたもん。無理矢理は駄目なんだって。あと女の人には優しくしなさいってゆってた。毎日は身体が保たないから駄目なんだって」


 よくわかんないけど。


 と、からから笑う皇子はこの部屋の魔力濃度が急激に上がっていることに気付かない。頼むからこれ以上口を開かないで欲しいと願いながらも、相手は子供だ。自覚がないから余計に始末が悪い。ただでさえ、リコル不在の今、ルーデリクスの機嫌は底辺にまで落ちているのだから。


「そういえばお父様。お母様は?」


 ぴたりと、絶え間なく動いていた手が遂に止まった。その表情は高い書類山脈に隠されて見えないのが唯一の幸いだろう。これ以上この場に居るのは得策ではないとジェイルが回れ右するよりも早く、膨大な力が発せられるのを感じた。その源は当然一人しかいないわけで。


「これより、我々は最低十日間はお休みさせて頂きます……」


 霞む視界の中で、黒色の衣が翻るのを最期に意識を失った。





 気を失ったジェイルの上に休暇申請の許可証を一筆書きして置いておく。掌を広げれば独りでに筆はペン立てに収まり、それを見届けることなく息子の襟首を掴んで、目の前にぶら下げた。子猫のようにぶら下げられた息子は理解出来ていないのかきょとんとしたまま周囲を忙しなく見ている。


「お父様、ジェイルが倒れちゃったよ?」


 ……問題ない。


 少なくとも新たな陽が昇る頃には目を覚ますだろう。他の者はもう少しかかるだろうが。


「そっか~」


 それきり関心を無くした息子はぶら下げられたのが楽しいのか喜んでいる。


 理解出来ない生き物だ。


 荷物のように小脇に抱えながら、ルーデリクスは不思議なモノを見る目つきで息子を見下ろす。この強い輝きを秘めた子供は確かに自分とアリサの子供に違いはないのだが、そこに生まれる感情はアリサに向けるものとはまた違う。一番近いのはジェイル達家臣に向けるものだろうか。


 魔属達は、例え自分の子供であっても種族によって向ける感情は全く違う。例えばジェイル達獣族では人間が子に向ける感情とほぼ同じだが、淫族などは子育てすらしない。というか、”子”という概念がない。淫族という大きな括りになっている。


 だからルーデリクスが抱く感情は別段おかしなことではないのだ。


「お父様?」


 だが、この息子は違う。魔王たる自分を父と呼び、慕う。同じように想いを返すわけでもないのに、気にした様子もなく過ごしている。やはり変な生き物だ。


 そう結論づけ、ルーデリクスは思考を切り替えた。突然膨大な魔力を注がれた伏魔殿では、今頃大混乱に陥っているだろう。召喚が整うまでの時間を移動に費やしながら、ふとルーデリクスはアリサが現れた時のことを思い出す。あの時は”異界の花嫁”に大した興味もなく、伏魔殿の要請で魔力を供給してやったのだった。アリサには知られていないが、実はこれまでにも幾度か要請を受けて召喚を行ったことがあるのだ。ところが肝心のルーデリクスが顔合わせをするよりも前に、魔界の空気に呑まれて発狂した者や命を絶った者、また、高位魔属に見初められて候補でなくなった者、と実は一度も会ったことがなかった。そしてルーデリクスも特に興味を払っていなかったのだ。


 だが。


 アリサ達三人の召喚は、魔界至上でも類のない当たり回だった。王宮を揺るがすほどの巨大な三つの魔力に誰もが期待をした。その時もまた、常と変わらず仕事をしていたルーデリクスが自ら赴いたのは、単なる気紛れと繁栄に繋がるだろう者達を見てやろうと思い立ったからだ。自身のテリトリーに入り込んだ異物に多少興味が惹かれたせいもある。ともあれ、アリサと出会うあの時まで、ルーデリクスは孤高の王であったのだ。


 一目見て惹かれた。


 一目見て強い衝動に駆られた。


 あれは自分のモノだと、これまでに縁の無かった欲に突き動かされたのを憶えている。


 気付けばその身体を浚っていた。胸に湧き上がるのはただただ愛しいという感情と強い独占欲。その声を聞くだけで身体が震え、温もりを感じるだけで歓喜した。全てを自分のモノにしたいとさえ思った。事実、ルーデリクスにとって実行するのは他愛もないことだったが、何故かそれは躊躇われた。嘗て、性交の最中に果てた亡骸が過ぎったからかもしれない。兎も角ルーデリクスは湧き上がる衝動とは別に理性で押さえ続けた。結果として、それは良い方に働いていた。アリサがルーデリクスに興味を持ち、特別だと思ってくれるのが心地良かった。アリサは言葉にしない代わりに感情が表に出やすいから直ぐに分かる。だからアリサが日々、自分を特別に想ってくれることがどれだけ甘美なことか、知らないのだろう。


 だから何時しか忘れていたのだ。理性の根底に隠された欲望を。


 離れていくことを恐れ、喪うことを厭ったが為に危うくアリサを奪われそうになったあの出来事は今でも忘れられない。今も思い出せば腸が煮えくり返りそうなのだ。流石にこれ以上、機能を停止させるわけにはいかないので制御を失うへまはしないが。


 呼気と共に怒りを逃す。気付けば伏魔殿に辿り着いていたようだ。巨大な門が音もなく開いていくのを待つこともなく通り抜ける。


「陛下!リコル様の仰られた時間までにはまだ間が……申し訳ありません。間もなく準備が整います」


 いつもなら文句の一つも口にするブルーフだが、今回に限っては該当しない。彼もまた最愛の妻が里帰りしているせいだろう、これ幸いとばかりに呼び戻す口実が出来たのだから。


「お父様。あれ、凄いね」


 普段は落ち着きのない息子だが、膨大な魔力の込められた召喚陣の前では流石に大人しい。ルーデリクスは徐々に発光を強めていく召喚陣を逸らすことなく見つめていた。逸る心を宥め、今か今かと時を待つ。


 そして。


 莫大な魔力が急激に収縮し、召喚陣へと吸い込まれた。




「やっぱり下着はぴったりした方が落ち着くね」

「金具やゴムがないから仕方ないんですけど。リコル様は何を買われたんですか?」

「もう、イーシャちゃんってばアリサでいいって。せめてこっちだけでも」

「でも慣れてしまってるんですもの。お許しくださいませ」


 すれ違う人々がぎょっとしながら二人を見ていく。しかし、通行人の目よりも必需品優先、ということでアリサもイーシャも衆目には気を払わなかった。


「タイムリミットまでまだ結構あるし。イーシャちゃんは何かしたいこととかある?」

「子供たちに玩具を買っていこうかと」

「そういえば、九人目がいるんだよね」


 未だ目立った膨らみはないが、そこには確かに新たな命が宿っているのだ。夫婦仲が良いに越したことはないのだが、些か生み過ぎじゃないでしょうか?イーシャちゃんの若さならまだまだいけるだろうけど。


「私もブルーフも人間ですから。リコル様と比べればこればかりは」

「……私も一応人間カテゴリーだよ、イーシャちゃん?」

「そうですけれど、でもやっぱり違いますから」


 それはとても寂しいことだ。最初にあった時には少女にしか見えなかったイーシャも立派な女性に成長し、今ではアリサの方が下に見られてしまう。魔力の違いがこれ程までな差を生んでしまうのだ。人間にしては破格の命を経たイーシャも何時かは老いてアリサよりも先に逝ってしまうのだろう。


 しんみりとした空気を振り払うように、アリサはイーシャの右手を取って早足で歩いた。目を白黒させるイーシャに笑いかけながら、


「次はおもちゃ屋だったよね。だったら駅の近くに大きなところがあるから行ってみようよ」


 レッツゴー!と荷物を大きく右手を振り上げたところで。


 とぷんと。


 アスファルトが波打った。




 眩い光をものともせずに、ルーデリクスは未だ完全に機能を停止していない召喚陣へと足を踏み入れる。馴染んだ魔力を頼りに腕を伸ばせば、小さな抗議を上げた身体が腕の中に収まった。無くしていた一部を取り戻して、苛立っていた心が落ち着いていくのが分かる。


「ちょ、ルード!約束の時間までまだ……んんっ!」


 文句ごと口を塞いでしまえば、甘い感触をひたすら貪る。ルーデリクスが満足する頃には息も絶え絶えで、力の抜けたアリサを軽々と抱き上げる。


「待って!ルード。下ろしてよ。荷物!荷物がいるんだってば」


 この声だけが私を呼ぶ。一人許された特別な名を。


 さて。これからどう味わおうか。随分と我慢させられたのだから、これくらいのご褒美はあっても良いはずだ。




 十日間、たっぷりと休暇を取った魔王陛下は、全体的に顔色の悪い臣下達とは対照的に精力が漲っていたとかいないとか。

大人しい方の元嫁候補イーシャちゃん登場です。アリサの里帰りとルードとアリサの子供、そしてルード視点をメインにと、リクを幾つか混ぜて一つに纏めてしまいました。長かったですが如何でしょうか?


もう一話載せています。詳細は活動報告をご覧ください。

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