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魔王様のリコル  作者: aaa_rabit
間章
23/66

読んでみよう

 ウォーリーの帰還もあって、魔属の品評会ならぬ比べっこは一旦お開きとなった。改めてルードの執務室に場所を変えて、腰を落ち着ける。政治の話となればアリサには関係ない。はず、なのだが。


「天界も変わらないようですね。安心した」


 天王が遊びすぎて一晩で国土の25分の1が消失したとか、人間の供物が例年よりも少ない、嫁が見つからなかったなどを報告するウォーリー。ていうか、嫁さんて……。


「天属と魔属は古から縁が深いんですよ。因みに俺の三番目の奥さんは天馬族の出身です」

「え?ということは狼と馬の融合?」


 どうやって交尾……ごほん……夜の営みをしていらっしゃるのか少々興味が。……なんなら見せて貰うかって……いやルード、そこは隠そうよ。プライバシーの侵害だよ。……え?だって恥ずかしい。って、んぎゃー!ここで盛るなぁー!


 何がどうなってこうなったのか、突然ルードにがばっと押し倒される。流石に他人に見られる趣味はないので、思いつくままに抵抗してみる。具体的には蹴ってみるとか叩いてみるとか。


 気づけば、ルードの片手で両手を机に押さえつけられていた。


 アレ?これってかなりまずい?


「ル、ルード落ち着いて。ね?ほら、周りを見て。ジェイルさんとかウォーリーとかいるから。ね?」


 ……問題ない。


「大ありだから!ジェイルさん、へるぷみー!」


 貞操の危機ですよー。ていうか、いい加減助けろや。という視線を必死にジェイルさんへと送ってみるのだが、当の本人は至って優雅に茶なんぞ飲んでいやがる。


「うーん、俺としては別にこのまま世継ぎ設けてくれると嬉しいんですけど」

「ないない!子供は十月十日かかるから」

「たったそれだけで生まれるのですか?でしたらばんばん強い世継ぎを作ってもらわないと。ね、陛下」

「ルードも頷いちゃだめぇー!」

「……ああ。そういえば、陛下はまだリコル様と寝間の儀式をされてませんでしたね」


 ジェイルさんの言葉を聞いた途端、ルードの動きがぴたりと止まった。その隙を縫ってアリサはずり落ちそうなドレスを手で押さえながら、起き上がる。


 あ、危ない。公然の場で猥褻行為をしてしまうところだった。


 一難去って一息ついていると、ウォーリーがにこやかな笑みで手招いていた。アリサは少し警戒しつつも素直に隣へ座る。


「なんでしょうか」

「話が長くなりそうですから、リコル様にお相手して頂こうかと」


 二人の視線が向かう先は、真面目な顔をしたジェイルさんとルードの思案顔。うん、確かに長くなりそうだ。


「ウォーリーもルードのことが判るんだ?」


 ルードの表情筋は滅多に動くことがない。それも相まって、ルードはとても判りにくいと何処かの長が零していたのを知っている。


「ジェイル様のように会話までは流石に無理ですけど、慣れてますからねぇ。どこもかしこもトップがああだと本当に嫌になっちゃいますよ」

「他にもルードみたいな人がいるんですか?」


 どんだけシャイボーイが多いんですか。まぁ、ルードの場合はちょっと違うけどね。その分言葉にした時の威力が半端ない。普段無口だからこそ、言葉一つ一つが特別に思える。


「陛下とはまた違った種類ですが、あちらの王もまた面倒な人で……」


 ……ルードも面倒なんだ。


 当の本人を前にしてここまで忌憚無く話すウォーリーは凄い。別にルードは悪口聞いたくらいで怒る人じゃないけど、基本的に恐れられている。それは存在そのものに本能的に恐怖を感じるらしい。だからみんな、ルードとは一歩退いていて(王様だから仕方ないんだろうけれど)、ジェイルさんとかウォーリーは貴重な人?材だ。


 これからもルードを末永くよろしくーなんて思っていると、ウォーリーががさがさと自分の身体を漁っていた。食事を終えたウォーリーの身体は丸々と肥えて、少しでも衝撃を加えれば服がはち切れそうだ。ここでストリップショーはやめてほしいな、なんて不埒な想像をしていると、それは服ではなく虚空から現れた。


「こちらを預かっていたのを忘れていました。天王よりリコル様宛です」

「……私?」


 なんで?


 面識もない相手から手紙を貰ったことなど未だ嘗てあっただろうか、いやない。


 差し出された手紙は目も眩むような金色で、文字は鮮やかな光沢の緑色。縁取りは複雑な文様が描かれており、一言で言えば豪華だった。何となく嫌な予感をしつつも受け取る。恐る恐る宛名を読んでみると、確かに私、というか魔王のリコル宛になっていた。……これ、開けなきゃ駄目かな?


「どうぞ?」


 隣から促される。アリサは躊躇いつつも糊代に指をかけた。そこで一呼吸置いて、思い切って開けてみる。漢らしく封筒にえいやっと手を入れて手紙を取り出した。隣からおおーっと大袈裟に拍手が挙がる。ノリが良いなぁ、ウォーリー。


 手紙はあぶらとり紙と同じくらいぺらんぺらんだった。これまた薄い金色の透かし紙のようである。芸術のような作品を粗雑に扱うのも憚られて破らないように細心の注意を払って開けてみると。


「文字が……ない?」


 覗き込んでいたウォーリーも目を点にしていた。透かし紙らしく透かしてみても、炎で燃やしてみても……あ、燃えた。


 ウォーリーが即座に水を出してくれたので事なきを得たが、危うく火事を引き起こすところだった。あ、危ない。


「手紙を燃やすなんて何を考えてるんですか!」

「いやぁ、炙り出しかと思って」


 柑橘系の汁で文字を書くと、火を当てた時に文字が浮かび上がるのだ。そう説明してやると、ウォーリーは納得がいったようだ。

「悪戯とか?」


 きっとそうに違いない。そうだ、そうしよう。


 不吉な手紙を強引に処分しようとした時のことだった。声が聞こえてきたのは。


『燃やすんじゃねぇー!』


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