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魔王様のリコル  作者: aaa_rabit
間章
20/66

図鑑を見てみよう

「ふ、ふふふあはっはっははははは……」


 重厚な城門前で高らかな哄笑が響く。その持ち主たる人物は、すっかり線の細くなってしまった己の身体を抱きしめ、両目から涙を流す。


「やっと。やっと、戻りました。ああ、ボクの愛しの魔王様」


 城門を隔てた先にある、極上なるものを想像するだけで涎が滴り落ちてくる。ぶかぶかな衣服をたくし上げ、男は意気揚々と足を踏み出した。




 首元を飾る慣れない首輪、もといチョーカーを指で緩めながら、アリサは図鑑を捲っていた。その名も『魔属種族名鑑』。三代前の画家だった花嫁が作ったもので、精緻な絵で紹介されている。珍しさの度合いで紹介されるページ数が上がっていくという、一風変わった図鑑だ。


「確かにこれは俺でも解読不能だなぁ」

「リコル様が読めなくとも無理はありませんよ。これは文字ではありません」

「良かった。ちょっと心配になって」


 少し離れた席では、シェナとサハンが一枚の紙切れと睨めっこしていた。それはこの間の事件の発端となった手紙で、アリサが自分の解読能力がないのではとやや不安に思い、実際に教師の二人に見て貰うことになったのだった。この部屋を卒業して随分経つが、埃一つ無いのは定期的に誰かが掃除をしているのだろう。


「寧ろこれから文字を拾えたアリーがすげぇよ」

「サハンの悪筆に返事が出来るくらいですからね」

「んだと?!俺の文字はそりゃ達筆で」

「これだけ崩しておいてよく言いますね。前から思っていましたが、貴方の書く文字は角度が」


 言い争う二人に、ここへ来たばかりを思い出し懐かしくなってしまう。二人の会話をBGMに図鑑を眺めていたアリサは興味深げに捲っていた手を止めた。


「ねぇ、サハン」

「それはお前に関係ねぇって……ん?どうしたアリー?」

「エヴォリーってこれなの?」


 若干涙目のアリサにサハンは慌てつつも、指差した箇所へと視線を落としたサハンは頷いた。エヴォリーとは魔王の補佐官の一人で、外見25歳くらいの気弱な人物である。因みに種族は石族の中の亜種で百目鬼族出身である。


「まぁ、あいつの場合はまだ若いから目の数がもっと少ないと思うぜ」

「年を経るごとに段々目の数が増えていくんですよ、百目鬼族は」


 モザイクをかけたいほどグロテスクな様相のそれは、モアイに似ているのだが決定的に違うのは顔面至る所に散らばる目の数である。目の数が100になると長老と呼ばれ、目の一つ一つが邪眼になるそうだ。直視すると石になるとか。……怖すぎる。


「もしかして淫族とか竜族もこんなだったりとか……?」


 正直二人の本性がこれとどっこいだったら、暫く向き合える気がしない。つまりルードもあれが本性じゃないとか?魔王城にいれば必然と人型になるので気にしたことはなかったが、怖いもの見たさというか、なんだか気になってきた。


「お。俺達のページはここだ。んで、ドラゴンがこっち。な?全然違うだろ」


 まだあの時のことを引きずっていたのかと思いつつ、アリサは本に目を落とした。成る程、竜族の下位種であるドラゴンは西洋の御伽噺に出てくるような姿で、竜族はアジア系の蛇のような姿が本来の姿らしい。


「ザイもこんな感じなんだ?」

「僕はまだ成体ではないので角がないんです」

「俺はちゃんとあるぜ。まだ五本しかないけどな」

「竜族の場合は鱗の色が金色なほど力が強いんですよ。成体と幼体ではまた違いますが、今の長であるロエジン殿などはそれは美しいと言われています」

「ロジンのおじいちゃんが?」


 議会の際に年若い綺麗な奥さんと共にやってきた竜族族長を浮かべ、さもありなんと思った。アリサにとっては茶目っ気たっぷりの気の良いおじいちゃんだが、あれでも魔界の重鎮で恐れられる存在なのだとか。


「あの長をそう呼べるのはアリーだけだよ」

「実際のあの方はそれはもう、陛下よりも余程魔王らしいというか、いい歳なのにどうしてあんなに元気なのでしょうね」


 金の瞳を絶望に染める竜族兄弟に、面倒くさそうだとアリサはそれ以上突っ込むことはやめた。隅っこでキノコの栽培をし出した兄弟を横目に、再び手を動かし始めたアリサは最終ページを見て目を点にした。


「魔王族って……」


 種族なんですか。知らんかったわー。


「魔属の中で最も異端で且つ珍しさの観点からでも最高ですよ、あの一族は」

「魔王って魔属の王だから魔王だと思ってた」

「それも間違いではありません。王になるべくして生まれるのが魔王族なのですから」


 ……意味不明です、シェナさん。


 説明がさっぱり判らないので、説明文に目を通すことにした。


 種族:魔王

 生態は不明。人界に生息する人族によく似ているが、その内包する力は比べものにならない。別名王族とも言われ、世界を統べる王になるべくして生まれた種族。類似した種族には天王があり、それらを合わせて王族に分類される説もある。


「……つまり、ルードはルードなんだね」


 より詳しく説明しようとしたシェナだが、満面の笑みを浮かべるアリサに口を開くのをやめた。逃げたともいうが、図鑑を元に戻すとアリサは虚空に向かって呼びかける。


「ルード」


 魔王の御名にさっと顔色を変えた一同は慌ててその場に膝をつく。程なくして姿を現した魔王は無言でアリサに問いかけた。


「あのねー。今からみんなの本当の姿が見たいの。……うんうん、約束する。……やった!ありがとルード」


 頭を下げている三人はアリサの独り言しか聞こえない為どんな遣り取りが成されているのか判らない。が、これからすることは何となく判ってしまった。


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