リコル様、襲われる
若干暴力表現とちょっと不味いかも?な性的表現が入ります。嫌いな方や15歳未満の方は申し訳ありませんが、スキップしてくださるようお願いします。
天変地異が起こったのは、第六代魔王が就任して以来、初めてのことであった。魔王城を中心にして魔界全土を覆い尽くした黒い魔力は、魔属達を震撼させ、白目を剥いて倒れる者が全体の9.9割を超える。魔王城でも上位の族長のみが辛うじて意識を繋ぎ止めていた。玉座の主が一歩進むたびに世界は揺れ、空が割れていく。普段は鏡のような黒い双眸は怒りに染まり、狂気が宿っている。
これこそが魔王の真の姿。それを阻む者は誰もいなかった。
鼻腔を擽る男達から香る甘い匂いも、猥雑な言葉の数々も、今のアリサにはただ気持ち悪いとしか感じられない。口内を舐る舌を思いきり噛めば、つんと尖った先を捻られる。僅かな部分を残して引き裂かれたドレスの中を複数の手が這い回り、媚薬を含んだ分泌物が、脳の指令を狂わせていく。徐々に早まっていく獣じみた息遣い、態と立てられる卑猥な水音。いっそ狂ってしまえば楽なのに、高すぎる矜持が許さない。
「へぇ。天下のリコル様がまさかまだなんてな」
足の付け根の部分をまさぐっていた男の一人が、歓声を上げる。その他の部位を嬲っていた男達は一旦動かす手を止めると、まじまじとそこを見た。自分ですら見たことのないそこへの視線が居たたまれない。穴があったら100年は冬眠していたい。
益々行為はエスカレートしていき、嫌が応にも逃げられない高みへと強引に上り詰められる。
モウイヤダ。コワイ。ダレカ……。
大粒の涙がとうとうぽろりと零れた時、部屋に轟音が響き渡った。
思う存分魔力を解放出来た事への高揚感と、沸騰するような怒りがない交ぜになって体中を巡る。慣れた仕草で辿り着いた部屋には、蒼白になって震える女が地面で這い蹲っていた。
ああ、この女が私のアリサを。
なまじ美しいだけに、微笑めば一層凄みを増す。マリアは本能で悟った。起こしてはならない獅子を起こしてしまったと。
「私のものを返せ」
透き通るような低い声が耳に届く。怒りの中に隠された悲哀にマリアが気づくことはない。ただ従うことが精一杯で、マリアは床に転がる拳大ほどの水晶球を指差した。それを拾ったルーデリクスは映っている光景に、勢いのまま水晶球を握り潰し、細かな破片が地面に降り注ぐ。
「ジェイル」
「ここに」
虚空に突如として現れた緑髪の青年は、怜悧な眼差しを受け止め、御意と答える。それを見届けて姿を消した主に小さく溜息をついた。少しは緩和されたプレッシャーから立ち上がろうとしたマリアを踏みつけ、剣で両手を地面に縫いつける。醜い悲鳴が上がり、ジェイルは不愉快そうに眉を寄せた。
「黙れ、女。我らが主のものに手を出した罪は重い」
まるで岩に押しつぶされるような重圧に耐えきれず、マリアは口から血を吐いた。ひゅーひゅーと苦しそうな呼吸が混じる。憎しみの籠もる視線を受けながらも、ジェイルはただ主の帰還を待ち続けた。
湧き上がるのは衝動的な殺戮。マリアと違って手加減はしない。眠りから醒めたような男達一人一人を囲むように黒い球体が包み、
「消えろ」
その一言で悲鳴を上げることすら許されず、人とは思えないほどに凝縮された風船のようなものが弾け、白の世界を真っ赤に染めた。滑らかな白い肌に無数の鬱血の跡が散り、潤んだ瞳は焦点を結ぶことがない。
「アリサ」
この世で尤も短い呪を唱えてもこちらに気づくことがない様に、後悔が押し寄せる。ルードは魔力で作られた鎖を一握りで壊すとマントで裸体を隠し、その場を後にした。
「やぁっ……怖いよぉ…」
身体を這いずる手が、恐怖を呼び起こす。いやいやと首を横に振ってみても、押さえつけられた腕は外れず、悲鳴は男の口の中に消えていく。怖いよ。ダレカタスケテ。
淫族によって強引に高められた身体は、直ぐに火照りを思い出す。男達からかけられる言葉が蘇り、ぐっと唇を噛んだ。鉄の味が広がる。男は何かを言って、傷口を舐めた。ぴりっとした痛みに生ぬるいものが口腔を犯す。
アリサの身体を隠していた一枚の布きれはあっさり剥ぎ取られ、裸体が晒し出された。体内に異物が入り込むのを耐えきれず、半狂乱になって暴れる。
「やだっ!助けて……誰か……助けて……」
啜り泣く私に、驚いたのか拘束されていた腕が僅かに緩んだ。我慢していた涙がこぼれ落ち、後から流れていく。
「助けてよ……ルードぉ……」
脳裏に浮かぶのは、寡黙な魔王の姿。いつだって優しく受け止めてくれた腕の中に帰りたい。
「アリサ。こっちを見ろ」
顎を強い力で向かされる。せめてもの反抗と、目蓋をぎゅっと閉じた。男の息遣いが唇に当たる。また奪われるのか。気持ち悪い行為をさせてなるものかと、口を閉じた。
しかし身構えたはいいが、一向にその気配は見えずただ黙って見ているようだった。これまでの強引さが嘘のようで、強い力で抱きしめられる。僅かに香る体臭に憶えがあって、ゆるゆると目を開けた。
心配そうな漆黒の瞳が見下ろしている。ここは安全だと強ばっていた力を抜いて、胸元に顔を寄せた。そうすればいつものように伸びた長い髪を手で梳いてくれる。この手は大丈夫。
暫くされるがままに大人しくしていたが、顔を寄せたそれが直接肌に触れていることに気づく。
ど、どういうことですか!?
そーいえば、足元に何か固いものが当たってるような。怖くて見えないけど。無駄にそういう知識だけはあったので、まさかという思いともしかしてというのが半々でまともにルードの顔が見えない。
葛藤していると、ルードの空気が変わったのが判る。髪を梳いていたはずの手は、その、脇腹とかお尻とかどう考えても不埒な方に動いてるよね??
って、ルード相手になんで欲情しちゃってるの、私。これくらいのスキンシップは毎日されてるはずでしょーが。心頭滅却、落ち着け、落ち着くんだ。
「アリサ」
低い、腰にくる声が私の名前を呼ぶ。見ちゃいけないって判っていても、この声に抗えない。見れば囚われるだけなのに。
黒い双眸が交わる。穏やかな知性を感じさせる、言葉よりも雄弁に語る瞳が、今まで見たことのない色をしていた。剥き出しの獣のような。どうして今までこの人の胸の中を安全だと思っていたのだろう。一番危険なのは魔王だったのに。
「アリサ。我慢できない」
何が?とか惚けたら最後、そのまま流される気がする。返事を待っているのは、一応私の意志を尊重してくれるのだろうか?
こっちの方が恥ずかしいんですけど。
大体私はこっち方面は初めての体験で、そのディープキスとかも初めてだったし。いきなりこれはちょっとハードルが高いと思います。私の貧相な身体に誰かが発情するとも思えなかったしね。hahaha……。
あほくさ。
本当なら、こういう行為は大好きな人とするもんだろう。恋人とかね。私とルードの関係ってそんな甘いものじゃない。ただの主人とペット。客と品物ですらない、危うい関係。飽きられたら一方的に切り捨てられる。それをいっちゃあ恋人同士も同じかもしれないけどなぁ。
やっぱり初めてって良くも悪くも一生に一度の大切な思い出なんだよね。女として涸れてるとは思うけど、一応女だし、夢くらい見るさ。こんな愚かな判断は間違っているのだろう。もっと身体を大切にしなさいとかお母さんに怒られそうだ。でもね、まぁいっか、とか思っちゃうんだよねぇ。将来の約束だって、束縛ですらくれないこの人に。
好きか嫌いかで問われたら間違いなく好き。でもそれは、恋じゃあない。セフレとかいう、対等な者同士ですらない。だって私ペットだもん。体のいい精力処理とか?その割にはこの三年、よく我慢できたなぁと褒めてやりたい。男の人ってどうしようもない性的欲求があるみたいだし。あ、でも魔属だから違うのかな。……どっちでもいいか。
私が恐れているのはこれ以上ルードに依存したくないこと。一度身体を繋げてしまえば、どんなに薄情な私でも、あっさりさようなら出来る自信がない。こういう時、下っ端は不便。いつ、タイムリミットがくるのか。見えない時限爆弾を抱えて、それでも私は耐えられるの?
あー、うじうじと鬱陶しい。こんなん、したいかしたくないか、でしょ。難しいこと考えたって現実は変わらない。だったら答えは。
「いいよ」
ルードだから、私の身体を好きにしても。これだけ私を弄ぶなんてさすが魔王様。恐ろしい人?だわ。
その後はよく憶えてない。ただ、もの凄く痛くて、最後は気持ちが良かったとだけ言っておこう。
これくらいならR15でもおけーかな、と思いましたが、やっぱ不味いんじゃね?と思われる方。指摘してやってください。