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魔王様のリコル  作者: aaa_rabit
魔界扁
16/66

リコル様、誘拐される

 ……サ。ど……い……?


 ――――ルード?


 雑音が混じってよく聞き取れない。ただ切羽詰まったような感じが彼らしくなくて、へんなのーと思った。それよりも何だか寒い。手足を丸めてどうにかして布に収まろうと四苦八苦した挙げ句、明らかに布面積が足りないことに気づく。


 暴露してしまうと私の寝相は吃驚するほど酷い。夏には就寝前と180度景色が違いましたなんてのは当たり前。一番被害を被っているだろうルードは元気だなって頭を撫でてくれたけど。あー、なんか違うような……。


 兎に角それだけ寝相が悪いので、布団がベッドから落ちているなんて事も日常茶飯事だ。今もきっと床に落ちているのだろうと、ベッドの下に手を伸ばしてまさぐるのだが。


 ……ない。


 えーなんでー?見ればいいじゃんとか言わないでくださいね。布団を掛け直すのに目を開ける人なんて居るわけが無いじゃないか。これから更に寝ようとしているなら尚のこと。あーくそ。ルード早く来ないかなぁ。


 背中の後ろを探ればひんやりとしたシーツの感触が返ってくる。そして更に手を伸ばせば、体温すら奪うような固いものが。そう、これはまるでコンクリートのような触感。


 コンクリート?あれ、確か魔界にコンクリートなんてあったっけ?とずれた感想を抱く。そんな何処かのボロアパートじゃあるまいし……。ベッドもこんなに小さかったかな?確か四畳くらいの広さを誇っていたと記憶してたけど。流石魔王なだけあってベッドもキングサイズなのねーと妙に感慨深く思ったものだ。


 …………おかしくね?


 接着剤でもつけたような瞼を無理矢理引っぺがし、何とか起き上がることに成功したアリサは、眠り眼を擦りながら部屋を見回す。腹辺りを隠していた毛布の切れ端を広げてみて、こりゃ寒いはずだと納得した。というか。


「ここどこ?」


 ぶっちゃけ今更な気もするが、寝起きが最悪の状態で、瞬時に頭を働かせろというのが無茶である。


 丁度魔王城のトイレ部屋と同じくらいのサイズで、家具らしいのはアリサが寝かされていた粗末なベッドくらいだった。春先とはいえ夜は冷え込むのに、この所行はいくら何でも非道すぎる。こんなぺんぺん毛布一枚でお腹冷やしたらどうしてくれるんだ!


 窓もないので大まかな時間は判らないが、腹の空き具合から確実に昼食の時間は過ぎているだろう。


「あー、えーと。整理しよう。まずどうしてここにいるんだっけ?」


 寝起きで鈍い頭を一生懸命回転させるが、残念なことに思い当たる節が一つしかない。そう。ルードに捨てられたと。……なんだか泣きたくなってきた。


「確かに私って可愛げ無いし、胸無いし。顔は中の上くらいだと自負してたけど、ルードから見れば下もいいとこだもんなぁ」


 あの美形集団と一緒にしないでください。


「最近相手にしてくれなかったのも飽きられちゃったからなのかな、やっぱり。……はぁ」

「人の顔を見るなり溜息つかれると傷つくんですけど」

「私って魔力の探知も下手くそだしね。どうせ満足に魔術も扱えないもん」

「おーい、俺のこと無視すんなよ」

「ルードの人でなしとか思ったもんね。ああ、人じゃないから魔王なし?そういや、ルードってどんな種族なんだろう」

「お兄さんいい加減へこたれそうなんだけど」

「態とだもん。……あーあ、次に会ったら謝らないとなぁ」

「ちゃんと聞いてんじゃねーか、おい」

「誘拐するならもう少しマシな毛布にしなさいよ。寒いでしょうが」

「それは悪かったな、ってまず一番に言うことがそれなわけ?」


 無視するのも飽きたので、アリサは漸く落としていた視線を上げた。薄桃色の髪に服の上からでも判るしなやかな肉体。美形を見慣れているせいか、目の前の青年は確かに美しいのだがいまいちぴんとこない。


「当然。お陰で目が覚めたじゃない」

「あー、おひいさんよく寝てたもんね」

「私の寝顔は高いんだからね!」

「……あんたの相手は疲れたよ」


 こう、触手が動かないというか。


「私は別に痴女じゃありません」

「?俺痴女も好きだぜ」

「変」


 決して青年に向けたわけではないのだが、そうとは受け取らなかった青年はがくりと膝を折った。ここにスポットライトがあったら独白でも始まりそうだ。


 なんてことを考えつつ、漸くアリサは状況を冷静に見ることが出来た。誘拐。否定しなかったことから本当のことらしい。


 これがホームドラマでお約束的展開の誘拐ですか。そうですか。王道は身代金、もしくは人質の解放など誘拐された人物の近しい者に要求する為に行われる犯行が多い。この場合、魔王に対する要求or反乱の線が一番濃い。


 だが、おかしい。魔属は総じて誇り高くそして潔い。良くも悪くも正々堂々が基本で、強い者に従う精神が骨の髄まで染みこんでいる。自分の意見を通したければ力を示すのが常識だ。だからこういうやり方は、彼等からすれば”下劣な行い”とされ、軽蔑に値する行為として忌避されている。そういう価値観が、人間を嫌う一端でもあるのだろう。


 脱線してしまったが、今回の犯人は魔属でも新参の、しかも人間である可能性が高い。目の前の男を従わせる位だ、それなりの力は有しているのだろうが、実に愚かな振る舞いとしか言いようがない。


「さて、と。遊びはこのくらいにしておくか」

「残念。もう少し遊びたかったのに」

「気が強い女は好きだぜ?抵抗するほど締まりもいいし、そういう奴に限って最後は自分からケツを振りまくるんだ。想像するだけでぞくぞくする。そういう女のは美味いんだよ」

「うわー、変態思考」

「男の浪漫だっつーの。どうせ、あんただって魔王様の前ではよがりまくってんだろ。どうだ?魔王様のあれってやっぱり」

「あなた、淫族?」


 顎を掴む腕を振りほどきながら、アリサは確信していた。ささやかな抵抗に、青年は怒るどころかその美貌に愉悦を浮かべる。


「俺はカロンズース。今夜は極上のディナーになりそうだ」


 それまでは片鱗も見せなかった欲望の色を見て、アリサは背筋が震えるのを感じた。


続きはまた近いうちに上げたいと思います

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