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魔王様のリコル  作者: aaa_rabit
魔界扁
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リコル様、会議に出席する

いつもながらにぐだぐだです。では、どうぞ。

 会議に参加するのは二回目だが、常にルードが制御装置の役目を果たしてくれるために前回のような阿鼻叫喚図にならなかったのは良かった。けれど前回とは違い、今回はかなり精神的に疲弊させられた。ルードは相変わらずほとんど口を開かないから、必然的にジェイルさんが代弁することになる。

 問題はかなりどうでも良いことまで全て訳してしまうことだ。しかも正確に。つまり私とルードの無言の遣り取りとかも余すことなく伝えるわけ。私がお腹減ったなと顔を上げれば、何か食べるかと返ってくるわけだ。それをジェイルさんが生真面目に訳すもんだから、周囲からはちらほら笑いが漏れるわ、丁度良い時間ですし、一旦休憩してお昼にしましょうかと気を遣われる始末。人生でも上位に位置するだろう羞恥を味わせていただきましたとも。

 今日一日でこの多大なる精神被害を考えれば、明日、明後日は一体どうなるのやら。もういっそ、寝てしまおうか。人前で寝顔を晒すのも恥ずかしいが、憤死しそうな羞恥を味わうよりもましだ。




 翌日。早速実戦してみたのだが。


「和むなぁ」

「和みますね」

「可愛いなぁ」


 魔王の腕に収まって眠る少女(大半の魔属から見れば少女になる)に、自己主張の嵐で紛糾していた会議が穏やかに進む。出席者の内心とは逆に、ルーデリクスの胸の内はブリザードが吹き荒れていたのだが、面に表さないためにジェイル以外気づかない。


「あー、陛下落ち着いてください。ほら、リコル様が起きちゃいますよ」


 丁度身じろぎしたアリサに、ルーデリクスは慌てて抱え直す。そのまま続く寝息に肩の力を抜くと、自らが手入れを施している豊かな黒髪を指で梳く。その様子を欠席者は微笑ましく見守っていたとか。(ジェイル談)




「今日の会議は実に有意義でした。この調子で明日もお願いしますよ」


 すっかり日が暮れた頃、欠伸を噛み締めていると、ジェイルさんが今日の様子を聞かせてくれた。いつも以上に笑顔の彫りが深い。対照的にルードは不機嫌なようだが。今も休めず手を動かしているが、三人だけだからなのか、魔力を隠すことなく洩らしている。


「そういうことで、後は頼みます。適当なところで仕事を終わらせてくださいね」


 額にびっしり汗を浮かべたジェイルさんは、布で汗を拭いつつ去っていった。どうやらジェイルさんですらきつい魔力を放っているようだ。生憎と鈍いアリサには感じられないが。


「……ルード。今は城に沢山滞在してるんだから自重。……うん?この部屋だけ。って、随分と器用なこと」


 ただ単にジェイルさんを追い出したかっただけのようだ。ついでに人払いも込めているのだろうか?全てを呑みこまれる感覚は誰でも嫌だろう。


「それで?何で怒ってるの」


 書きかけの書類を取り上げる。奪われる前にルードの手が届かない場所へ遠ざけた。ルードは嘆息するとペンを置いた。やっと仕事を終えるのかと感心していると、手の中から書類の感触が消えた。いつの間にか、ルードの手に戻っている。


「あっ!むぅ。また気づかなかった」


 魔力の動きを読むのも大事なこと。魔術を発動する際、物語に出てくるような呪文とか詠唱なんてものはないのだ。その代わりに魔力の動きを察知して先手を打つ。それが魔術戦の基本である。アリサは自身の制御に手一杯で、魔術を一つ発動させるのすら困難だ。特に魔力探知は苦手で、そのせいでルードの強制転移なども逃れられないのがいい例だ。


 要練習とばかりに頭を軽く叩かれて、次には見慣れた居室へ。魔術の発動があまりにも自然すぎて、悔しいとすら思わない。魔術を手足の如く自由に使えて初めて一人前と見なされるのだ。サハンとシェナに魔属式の戦い方を一度だけ見せて貰ったことがあるが、ぶっちゃけ何をしているのかほとんど理解できなかった。私はどうも視覚に頼りすぎているらしいが感覚に頼れと言われても、やはりそれまでの生活からどうしても目で追ってしまう。結局はそれが魔術を学ぶ上で邪魔になっていると最近漸く判ってきたところだ。


 今の目標は、ザイ(護衛)無しで歩けるようになること。私に喧嘩を売ってくる輩はほとんどいないのだが、それでも完璧にとはいかないからザイが居る。日頃ぐーたらしてるように見えるけど(実際しているが)、ちゃんと練習はしているのだ。偉いだろう。ふふん。


 誰にともなく胸を張っていると、偉い偉いってルードが頭を撫でてくれた。何だろう。滅多に褒められた経験がないからだろうか、こうして頭を撫でられるのは好きだ。認められているようで嬉しい。きっと今の私が犬だったら尻尾をぶんぶん振ってるんだろうなぁ。





 ふにゃっと顔を緩ませているアリサを見ていると、これまで感じていた苛立ちが氷解していく。アリサがこんな姿を見せるのはルーデリクスの前だけだ。本当は誰の目にも触れさせないように閉じこめて、ずっと傍に置いておきたい。寝顔という無防備な姿を他者に見せるなど言語道断であったし、勿論明日の会議は絶対に寝かせないつもりだ。


 ―――アリサは私のものだ。


 三日月を真似るように口元が弧を描く。それは普段のルーデリクスが見せることのない、嘘偽り無い本心。



人はそれを独占欲と呼ぶ。


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