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魔王様のリコル  作者: aaa_rabit
魔界扁
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リコル様、暴走

 魔界中から集まった全部族との謁見を終えたところで大議会が始まる。数多の魔属を内包した王城内は、いつになく活気付いていた。もっともルードのプライベートルームを中心にした約1キロ圏内は閑散としたものであんまり変わらないんだけどね。うっかり粗相をしないようにと、ルードに行事で喚ばれる以外アリサは軟禁状態にあった。いや、自ら籠もったが正しい。


 誰かとすれ違う度に物珍しさが手伝って声をかけてくる者の多いことですっかり辟易していた。それをルーデリクスに訴えたところ、ならばお前も会議に出ればいいと言われ、一度だけ参加したら悲惨なことになったになったのだ。四六時中魔王様にまとわりつかれてストレスが溜まり、魔力の制御が甘くなった所へアリサの魔力に当てられた部族長らがハイになってしまい会議どころではなくなってしまったのだ。


 あの時のジェイルさんの怒りっぷりは凄まじかったと思い出すだに震えが奔る。ルーデリクスは残念がっていたが、こればかりは仕方ないとアリサは反省して大人しくしていた。


 のだが。(過去形)


「あーら御機嫌ようリコル様。陛下から御不興を買って、謹慎されていたようですけれどもう解かれましたの?」

「陛下も甘くていらっしゃること。どんな悦ばせ方をしていらっしゃるのだか」

「きっとリコル様も頑張っているのよぉ。そうでなきゃ誰が相手にするものですかぁ」


 最悪だ。順番に闇族の息女エリエファ、石族の息女ロアナ、そしてマリア。出会うたびに何かとアリサに突っかかってくる三人組だった。魔王親衛隊と密かに呼んでいる。ここにザイがいればマリア以外はまだ大人しいのだが、(竜族の族長の息子なので)生憎とザイは席を外している。彼女らにとっては幸運なことに、邪魔者がいないのだ。


 こういう手合いは相手にしないのが一番なので無視して通り過ぎようとしたのだが、案の定上手くいかなかった。族長の娘達なだけあって、魔力は高い。気づけば足が固められており弾き返そうとしても、数日前のジェイルさんの般若顔が脳裏を過ぎって、上手くいかない。発動に失敗して、表に出た魔力が空気に拡散していく。


 その様子に嘲笑を隠さず、女達はアリサを囲む。


「あら。陛下のお側に仕えているからどれ程と思えばこの程度でしたの」

「リコル様も大したこと無いのね」

「調子に乗ってるからこうなるのよぉ~。あんたばっかり特別扱いなんて許せないわ」

「こんなネックレス、貴方には不釣り合いだわ」


 エリエファがアリサの首に手を伸ばし、力任せに赤い石のついた鎖へと指をかける。


「それは駄目!」

「五月蝿いですわ。身の程を知りなさい」


 奪われまいと初めて抵抗するアリサをロアナが羽交い絞めにし、マリアが白い繊手で頬を打った。かっと頭に血が上り、怒りを露わにしないよう唇をきつくかみ締める。長い黒髪がアリサの表情を隠すようにはらりとかかる。


「図星、かしらぁ。当然よねぇ。だって、あんたは魔王様には全然似合わないものぉ。その貧相な体も顔もねぇ」


 怒りを抑えろ。落ち着いて。


 気持ちを宥めるように深呼吸を繰り返す。今ここでやり返すことは容易い。それでも、傷つけたくはない。


「魔王様のお傍に相応しいのは、私たちなのよ。このネックレスもあなたの物ではないの」


 自分が魔王に相応しいと信じて疑わない者達。真っ赤な唇がアリサの耳に毒を仕込んでいく。


 魔王様が気にかけるのは一時だけ。直ぐに目を覚まされるわ。と。


 そんなこと、自分が一番分かっている。それでも。今だけでも、傍に居ることを許してくれているなら私は。


「いやっ!やめて」

「嫌よ。誰が貴方の言うことなど聞くものですか」


 必死に抵抗するも空しく、ぷちと音を立てて繊細な鎖はアリサの首から零れ落ちた。ぶわりと視認できるほど濃密な魔力が瞬時にアリサを包み込む。何とか留まっているが、少しでも気を抜けば溢れてしまうだろう。空気を入れた風船のようなものだ。僅かな隙間から少しずつ魔力が漏れていく。


「っ逃げて…!」


 抑え込まれた魔力が暴風のようにアリサの内を暴れ回る。少しでも被害を出さないように三人娘を遠ざけようと声をかけた。しかし彼女らは圧倒的な魔力を前にして一歩も動けなかった。凄まじい魔力の暴力に耐えきれなかったのだろう、操り人形の糸が切れた様に蒼白な顔をして次々と倒れていく。少しでも早く遠ざけなければ死んでしまうだろう。しかし、本人ですら抑えきれない魔力が辺り一帯を覆い、それでもまだ滾々と湧き出る水のようにアリサという器から溢れては出て行く。


 極限まで達した意識が、魔力によって呑み込まれていく。


 このまま死んじゃうのかな。


 意識が闇へと塗りつぶされていく中、いつになく険しい顔をしたルードの横顔が最後に見えた。

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