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魔王様のリコル  作者: aaa_rabit
魔界扁
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リコル様、お披露目

サブタイトルを見て、あれ?と思われるかもしれませんが、話の都合上、こちらのタイトルの方が合うと思い、変更させていただきました。話の内容は前回の続きですので、ご安心ください。

 あー眠い。ご挨拶してくれる皆々様には悪いのだが、一体何時になったら終わるのだろうか。


 欠伸を噛み締めながら、アリサはひたすらに笑顔を貼り付けて挨拶を返していた。なぜこんな事になっているのかというと。時は少々遡る。




 どうやら、前回ジェイルさんが告げた言葉は本気だったようで。丁度牧場へと出かけようとしていた私は執務に向かうはずのルードに強引に拉致、もとい抱きかかえられてルードの執務室へと一緒に連れてこられたのでした。


「ああ、陛下。ちゃんと連れてきてくださったのですね。……え?だって、陛下のことだからリコル様を連れてくるのは半分の確率で……あはは、嫌だなぁ。何も企んでませんよ」


 例によっていつもの如く、私の席はルードの膝の上。ルードってば喋らないから、会話はほとんど目でしているのね。んで、ジェイルさんは普通に話してる。遣り取りを見るためには一々ルードを見上げなければならず、うん。首が凝ってきたよ。首の筋肉も鍛える必要があるなぁ。ところで首の筋肉ってどうやって鍛えればいいんだろう?


 と、そこでルードと目が合った。


 本当にいいのか?って。……えーと。ごめん、聞いてなかった。


 やれやれと言った感じでルードは首を横に振っている。


 失礼な!ルードの背が高すぎるのがいけないんだぞ。


 私はこれでも平均身長より少しだけ小さいだけです~。この世界の人達が大きいだけだもん。あ~、はいはい。お世辞はいいからね~。ルードの方が断然かわい……くはないけど、綺麗ですから。


「お二人とも。仲睦まじいのは俺としても嬉しいことですけど、二人で会話しないでください」


 おっと、すみませんジェイルさん。ほら、ルードのせいで怒られちゃったじゃないか。……え?うんそう、全部ルードが悪い。



 ※因みにこの間、二人はただ見つめあっているだけです。



「陛下~、リコル様~。そろそろ俺の話を聞いてくれません?」

「あ、ごめんなさい。ええと、何でしたっけ?」


 ルードがまだ話は終わってないとばかりに、一本に纏めていた髪の毛を引っぱるが無視。え?当然でしょ。ジェイルさんの方が怒らせると何倍も怖いのは経験済みなのです。因みにルードは怒らせたことが無いから(内心はどうか判らんが)よく判らない。ルードの過去を知る某一族の長からは遠い目をして、凄まじかったとの一言コメントをいただきました。気になって後から本人に訊いてみたら曖昧に微笑まれた。あの無表情なルードが微笑んだ!とそっちに気をとられて忘れてたけど、そういえば有耶無耶になったままだったなーと思い出す。うん、後で聞いてみましょう。


「ですから、リコル様のお披露目についてですよ。各族長に紹介しなければなりませんので、その打ち合わせです」

「はぁ。……ってお披露目!?」


 何そのちょっと恥ずかしいイベントは!?大体私はひっそりと窓際人生送るのが夢でして、決して目立ちたいわけではないんです。


「いや、そこまで露骨に嫌そうな顔しなくてもいいじゃないですか。ほら、陛下も拗ねてますよ」


 へ?あーほんとだ。ちょっぴり不機嫌そうだ。なんでー?そんなもん、マリアさんにでもお願いしてください。……ふむふむ。アリサは私のリコルだから、って。


「…………」


 思わず俯いてしまうのは仕方がないと思う。だって、その台詞、反則でしょう!あー、まともに顔が上げられない。私ってどちらか問われれば絶対にSだと思ってたのになぁ。実はMだったとか。いやいや、断固としてSを推奨します!うう、意味が判らん。


 ぐりぐりとルードの胸に顔を押しつけていたら、そっと抱き寄せられた。この時ジェイルは、ルーデリクスの機嫌がいつになく急上昇しているのを感じたのだが、空気を読むことには生憎と長けていたので邪魔することはなかった。暫くは無理だろうと判断して、一旦下がることにする。果たしてそれは正解だったのだが、人払いを忘れていたために、何も知らずに魔王の執務室を訪れた者は総じて三日ほど使い物にならなかったとか。




 結局パニックが収まるまで(何度か人?が訪れたが、その度に回れ右して帰っていった)ずっとルードに凭れていて、漸く落ち着きを取り戻したところで、再びジェイルさん登場です。なんてベストタイミングなんだ、ジェイルさん。


「そんな睨まないでくださいよ。俺だって仕事です。じゃなきゃ、陛下のお世話なんてめんど……大変なので嫌ですよ」


 今絶対、面倒くさいって言おうとしたよね、ジェイルさん。


 つい、生暖かい視線を送ってしまうのは仕方がないだろう。


「さて、落ち着かれましたか、リコル様?」

「お陰様で。いや、恥ずかしいところをお見せして申し訳ない」

「いえいえ、陛下の大変珍しい姿を見られたので、足し引きゼロですよ。ということで、本題に入りましょう」

「あ、はい」


 何でも昨日の淫族との謁見が問題だったようで、淫族だけにリコル様をお見せするわけにはいかないと。要約するとそんな感じ。


「というわけで、お伝えした通り、本日より陛下の謁見と兼ねてリコル様にも謁見していただきます」

「謁見と言われましても、一体どうしろと?」

「笑顔で座っていてください」

「え、それだけですか?」

「はい。昨日の内にリコル様用の椅子を用意させましたので問題ありません」


 問題はそこなんですか。陛下も脱走しないでしょうし、一石二鳥ですねとか嬉しそうに言わないでくださいよ、ジェイルさん!!ていうか、逃げるなよ、ルード!


「あのー、そろそろケルちゃんが出産するらしくて……」


 ケルちゃんというのは牧場で飼われているケルベロスのこと。中位の魔属であり優秀な魔王城の番犬でもある。ケルちゃんは現在妊娠中で、そのお役目は外されているのです。この妊娠期間がなんと八年。当時――といっても一年前のことだが――牧場を見学した時に、暇を持て余していたケルちゃんと出会ったのが切欠。その日の内に意気投合して時々話し相手になっているのだが、出産経験二百年のケルちゃんによると、どうもそろそろ生まれるらしい。生命の誕生!素晴らしい事じゃないですか。ケルちゃんには名付け親になってほしいと頼まれているのもあって、是非そちらに行きたい。


「魔獣の出産はリコル様の参考にはならないと思いますよ」


 ジェイルさんが真顔でそう告げる。ルードも頷いてるし。って、違ーう!……いやいや、そんな寂しそうな顔されても私とルードはそんな関係じゃないでしょうが!



「まぁ、次代の御子様に関しては次の機会としまして」

「ちょっと待ってください、ジェイルさん。次の機会も何も、私とルードの間にそんなもの出来るわけ無いというか……。は、まさか魔属だと一緒に寝るだけで妊娠!?いや、でも私は人間だし」


 ぶつぶつと己の考えを口にするアリサを放って、ジェイルは魔王へと視線をやった。


「陛下。我慢は良くありませんよ。……俺だって口出ししたくありませんけど……あーはいはい。判りましたよーっと。だから、そんなに睨まないでくださいって」

「ルード?」


 二人の間の殺伐とした空気が即座に霧散する。何だ?とアリサに目線を落とすルーデリクスに気づかれないようジェイルは背中に貼り付いた冷や汗を蒸発させた。流石リコル様。ジェイルは内心拍手を送る。何らかの遣り取りをしているらしい。言葉を交わさず無表情なルーデリクスに対してアリサが百面相した後、漸く向き直った。とても不満そうだ。魔王とは対照的なアリサについ和んでしまう。あまり褒めすぎるとルーデリクスに睨まれるので、程々だが。


「では、謁見の手順ですが……」



 疲れた。何が疲れたって、ひたすら愛想を振りまいていることが、です。表情筋が引きつりそうだよ。実際引きつってると思うけど。大議会に参加する族長達との謁見自体は、数日、毎日こつこつやってるだけありそんなに多くない。多いのは、私、つまり噂の魔王のリコルを一目見ようとやってくる方々だ。平等を期するために、決められた所定の謁見外の時間帯は、誰もが私との謁見という名の見学をすることが出来る。

 動物園のパンダとかライオンとか。兎に角そんな感じ。私は珍獣か!……実際その通りなので否定できない。


「私は吸血族族長の25番目の息子で……」


 とまぁ、こんな風にやってくるわけだ。執務中のはずのルードもなぜか残っているので、幸い皆さん挨拶だけして帰っていくので助かるが。因みにジェイルさんは今日だけですよと嘆息して、行ってしまった。宰相なので忙しいのだ。政務でもない謁見に手を煩わせるわけにもいかない。それはルード。貴方もなんですけどね。


「仕事しなさいよ。……嫌、じゃない。ルードは王様でしょう。……う、それはそうだけど。でも、ルードが居なくても大丈夫だから。……過保護すぎ」


 結局こうして私が折れる羽目になる。本当は誰よりも私が、ルードが毎日膨大な仕事をこなしていることは知っている。最近さぼりがちのような気もするが、ジェイルさんが許すということは許容範囲内なのだろう。実際、数年引き籠もっても十分大丈夫なくらい働いているらしい。


「仕方がないなぁ」


 顔が緩むのは気のせいだろう。嬉しいだなんて。そんな訳がないのだから。




 私の存在は貴方にとって安らぎとなっているのだろうか?

 私はきっと自惚れているのだろう。

 それでもいい。

 いつか捨てられるまでは、どうか貴方の傍にいさせてください。

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